近年、テレビドラマのプロモーションは、SNSやデジタル施策を駆使した多角的な戦略へと進化しつつある。InstagramやTikTokでの公式アカウント運用は今や定番だが、さらに本編の枠を超えたスピンオフドラマやキャスト出演の音声コンテンツ配信など、視聴者がドラマの世界観をより深く楽しめる仕掛けが増えているのだ。
例えば、現在放送中のドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)では、ドラマ本編と同じく大石静が脚本を手がけ、主演・阿部サダヲとヒロイン・松たか子も出演する豪華スピンオフドラマをTELASAにて独占配信中。さらにメインキャストによるPodcast配信も実施され、自由なトークがファンの心をつかんでいる。同じく、ドラマ『初恋DOGs』(TBS系)では、サイドストーリー『初恋アンダーDOGs~負け犬と初恋~』をU-NEXT、TVerで配信中。萩原利久、野呂佳代、なだき武らによる会話劇の面白さがドラマウォッチャーの間で話題を呼んだ。
『初恋アンダーDOGs~負け犬と初恋~』©TBS
ドラマの本編から独立したサイドストーリーやSNSプロモーションは、視聴者の作品への理解や愛着をより深める重要な役割を果たしている。
ところで、このような多様なコンテンツ展開はいつ頃から、どのような形で始まったのだろうか。本稿では、テレビドラマのプロモーションがインターネットやSNSの普及を経て現在のマルチプラットフォーム戦略に至るまでの過程を追い、その背景や効果を分析していこう。
『しあわせな結婚』スピンオフドラマ 後編 ©テレビ朝日
インターネットの普及に伴い、オンラインサービスが急速に発達した2000~2010年
テレビドラマの世界では、物語を補完するサイドストーリーや未公開シーン、撮影現場の様子などを特典映像として提供する手法が早くから定着していた。これらは単なる”おまけ”というより、視聴者の物語世界への没入感をより高めるため、また限定性やコレクション性を重視する層への訴求手段として位置づけられていたのである。特にDVDやBlu-rayなどのパッケージメディアが普及した1990年代後半から2000年代前半にかけては、その傾向がいっそう顕著となった。
さらに、このようなドラマの“盤外戦術”は、インターネットが普及した2001年から2010年頃にかけて大きな転換期を迎える。インターネットの発展に伴い、当時のオンラインサービスの内容は急速に進化した。はじめは情報を一カ所に集めてわかりやすく提供することを目的としたポータルサイトが数多く登場したが、2005年頃からは利用者が主体となる双方向型サービスが主流となり、ブログやSNSなどのコミュニケーションサービスが次々と登場。インターネットはまたたく間に、単なる情報収集ツールからコミュニケーションの場へと進化を遂げた。個人が自由に情報を発信し、他者と交流できる時代が本格的に始まったのだ。(※1)
ここで、当時の人気ドラマのプロモーションや特典内容を振り返ってみよう。
2005年10月から12月にかけて放送された『花より男子』(TBS系)は原作の人気を背景に社会現象となり、DVDの特典映像の充実度も好評を博した。特典ディスクには、未公開映像を含むディレクターズカット版や撮影メイキング、キャストインタビュー、クランクアップ映像など、ファン垂涎のコンテンツが満載。特に「F4」を演じた人気キャストの素顔を垣間見せるトーク映像は、ファンにとってきわめて貴重な特典だった。

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さらに続編『花より男子2(リターンズ)』では、インターネットを活用した異例の試みが話題となる。制作側が「あなたが見たい原作の中のシーン」を事前にインターネット上で募り、人気が高かったシーンを実際の放送に盛り込むという視聴者参加型の仕掛けを導入。第10話と最終話にこのアンケート結果が反映される形となった。また、注目度の高い最終回には、同じくインターネット上で募集した1万人規模のエキストラが出演。従来の一方向的なテレビ放送とは一線を画したこれらの試みは、現在の双方向的なコンテンツ消費のあり方を先取りしたものといえそうだ。

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ドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)でも、特典の充実ぶりが話題を呼んだ。DVD特典には、撮影記録や制作発表用PV、堀北真希演じる小谷信子の”ランチタイム放送”フルバージョンなどの多彩なコンテンツが収録されている。また、亀梨和也と山下智久によるユニット“修二と彰”が歌う主題歌「青春アミーゴ」は、その年のオリコン年間シングルチャートにおいて第1位を獲得し、ドラマの枠を超えて社会現象的な広がりをみせた。

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「青春アミーゴ」がエモい。
劇中の役名、修二(亀梨和也)と彰(山下智久)名義で歌う『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ…
当時はこのほかのドラマ作品においても、公式サイトで現場レポートやスタッフブログを公開し、制作の舞台裏をひとつのコンテンツとして提供する手法が浸透し始めていた。これらの事例は、テレビドラマに付随するメディア展開が、いかにファンの熱量を維持・拡大させる付加価値戦略として重要であるかを如実に物語っているといえよう。
