東京都台東区、蔵前にあるフリーの「透明書店」。アイコンのクラゲは、AI副店長だ。東京都台東区、蔵前にあるフリーの「透明書店」。アイコンのクラゲは、AI副店長だ。撮影:麝香李都

※この記事は2025年5月6日初出です

東京都台東区、都営地下鉄大江戸線・蔵前駅から徒歩数分——。下町の住宅街にひっそりとたたずむ書店がある。クラウド会計ソフト「freee会計」などを手掛けるフリーがグループ会社として2023年4月にオープンした「透明書店」だ。

創業当初から、売り上げや経営手法など、あらゆる情報を「透明(オープン)」に開示することをコンセプトに運営してきた同書店。創業3年目を迎えたこの春からは、無人営業や古本の取り扱いを開始するなど、逆風が吹く書店ビジネスの現場で試行錯誤を続けている。

透明書店の売り上げは、1年目が約1000万円、2年目には約1700万円と成長。中には単月で黒字化した月もあったというが、年間で見ると2年連続の赤字で、フリー広報は「実際に書店運営を始めると想定より厳しい状況ではあります」と所感を語る。

親会社のフリーも2025年6月期こそ通期での営業黒字を見込むが、これまでは赤字が続いている。そんな中、なぜフリーはあえて厳しい書店ビジネスに挑み続けているのか。話を聞いた。

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「本を売るのは難しい」書店の厳しい現実透明書店の岩見俊介代表。店内にて。透明書店の岩見俊介代表。店内にて。撮影:三ツ村崇志

「思った以上に本を売ることは難しいということがわかりました」

透明書店の岩見俊介代表は、オープンから2年経過した感触を率直にこう話す。

透明書店が開業する際に、出版取次業者から指摘された書籍のみによる想定月商は80万円程度だった。岩見さんは「もっと売れるだろう」と意気込んでいたというが、現実は月60〜70万円程度にとどまることも多い。

そのため透明書店では、新刊書籍の販売に加えて、イベントの開催やグッズ、ドリンクなどの物販。さらにはシェア本棚サービスなど、書店としての収益の多角化に取り組んできた。

店内では、透明書店のグッズも販売している。収益源の一つだ。店内では、透明書店のグッズも販売している。収益源の一つだ。撮影:麝香李都

透明書店の売り上げは、多いときで書籍が8〜9割を占める。初めて単月黒字化した2024年4月は、書籍の売り上げが好調だったことに加えて、ギャラリースペースで実施していた展示関連グッズによる収益が大幅に伸び、売り上げの4割を占めた。同月に月平均の3倍近いイベントも開催し、チケット・ドリンク収益が膨らんだことも黒字化の要因となった。ただ、ギャラリーやイベントによる収益増はコントロールしにくい。いかに安定的な収益源を見出すかは大きな課題だ。

その点、2024年春から始めた書店内の棚を個人に貸し出して自由に書籍などの販売を行ってもらう「シェア本棚(貸し棚)」サービスは、安定財源としての意味合いが強い。透明書店のシェア本棚の利用料は、棚1つあたり月額5720円(一部の棚は価格が異なる)。54棚全てが埋まれば、透明書店の家賃代(28万円)を賄えるほどの収益になる計算だ。

透明書店のシェア本棚。コンセプトは「独立系書店にある『独立したい系書店』」。将来的に書店を開業したい人に対して、きっかけを提供している。月額利用料のほかに、入会金が1万1000円かかる。透明書店のシェア本棚。コンセプトは「独立系書店にある『独立したい系書店』」。将来的に書店を開業したい人に対して、きっかけを提供している。月額利用料のほかに、入会金が1万1000円かかる。撮影:麝香李都

この春には、古本の取り扱いや無人営業を組み合わせた24時間営業もスタート。共に利益率改善を狙った取り組みだという。

新刊の書籍の利益率は2〜3割程度。一方、古本であれば6〜7割まで利益率は高くなる。深夜・早朝、休業日など、これまで営業してこなかった時間帯にも無人で営業できれば、必然的に来店者とのタッチポイントが増え、収益率の改善が期待できる。

「無人営業を本格的に始めてからまだ2週間ほどしか経っていませんが、店舗を開けておく時間が増えた分、売り上げも増えました。これまでは平日は2〜3万円、土日で5〜6万円の売り上げだったのですが、夜間や午前の空いてなかった時間帯で、1〜2万円ほど売れています」(岩見さん)

1日あたり1〜2万円増と聞くと、そこまで大きくない金額だと感じるかもしれないが、月換算すると30〜60万円、年間では400万円近くの売り上げ増になる計算だ。年間の売り上げが1000〜2000万円という透明書店の実績から考えると小さくない。

この春から無人営業をスタート。1日あたり、売り上げが1〜2万円増えた。この春から無人営業をスタート。1日あたり、売り上げが1〜2万円増えた。撮影:麝香李都次のページ>>
厳しい現実…それでもフリーが書店を続ける理由

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