映画監督の横浜聡子(左)とDos Monosの荘子it

PROFILE: 左:横浜聡子/映画監督 右:荘子it/Dos Monos

PROFILE: 左:(よこはま・さとこ)1978年、青森県生まれ。横浜の大学を卒業後、東京で1年ほど会社員をし、2002年に第6期映画美学校フィクションコース初等科に入学。04年、同高等科卒業。卒業制作の短編「ちえみちゃんとこっくんぱっちょ」が06年第2回CO2オープンコンペ部門最優秀賞受賞。CO2からの助成金を元に長編1作目となる「ジャーマン+雨」を自主制作。08年、商業映画デビュー作「ウルトラミラクルラブストーリー」を監督。「いとみち」(21)では第16回大阪アジアン映画祭にて観客賞とグランプリをダブル受賞。日常にたゆたう「名もなき存在」を捉える鋭い洞察力とオリジナリティー溢れるユニークな表現は中毒性が高く、業界内外で熱狂的なファンを擁す。

右:(ソウシット)1993年8月24日生まれ、東京都出身。2015年に中学生時代の友人であるTaiTanと没 aka NGSと共にDos Monos(ドスモノス)を結成、全曲のトラックとラップを担当する。18年にアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約を結び、19年3月に1stアルバム「Dos City」でデビュー。20年に「Dos Siki」、21年に「Dos Siki 2nd season」「Larderello」などの作品をリリース。24年3月に吉田雅史との共著書「最後の音楽:|| ヒップホップ対話篇」を上梓。同年5月末にリリースしたアルバム「Dos Atomos」以後、Dos Monosは第二期へ移行しヒップホップクルーからロックバンドになった。25年5月7日に最新作「Dos Moons」をリリース。「海辺へ行く道」で自身初の映画音楽を手掛けた。

オリジナリティー溢れる物語とユニークな表現で作品ごとに注目を集めてきた映画監督の横浜聡子。8月29日に公開された最新作「海辺へ行く道」は三好銀のコミックを映画化。海辺の小さな町を舞台にして、美術部に所属する14歳の中学生、南奏介(原田琥之佑)をめぐる人間模様を描き出す。本作で横浜監督が音楽を依頼したのは、ヒップホップ・グループ、Dos Monosのフロントマン、荘子it。映画音楽は初めての挑戦だったが、大学で映画を学んだ知識と独自の音楽性を発揮してユニークなサウンドトラックを作り上げた。強烈な個性を持った横浜聡子と荘子itは、どのように刺激を与え合ったのか。2人が考える映画と音楽の関係について話を訊いた。

映画「海辺へ行く道」場面カット

横浜監督と荘子itの出会い

Dos Monosの荘子it(左)と映画監督の横浜聡子

——横浜監督は原作のどんなところに惹かれて映画化されたのでしょうか。

横浜:もともと三好銀さんの大ファンで、映画化の話をいただく前から原作は読んでいたんです。三好さんの漫画は、日常の中で一人の人間の感情のベクトルを、すっと拾いながら物語に紡いでいく。それを感動させようとせずに、被写体との距離を保ちながら軽妙に人間ドラマを描いていて、その軽やかさが好きでした。ただ、この作品は絵が強いので映像化は難しいと思っていたんです。そんな時にプロデューサーからお話をいただいて、難しそうだけどやってみたいと思いました。

——そこで荘子itさんに音楽を依頼されたのは、どういう経緯で?

横浜:映画監督の冨永(昌敬)さんと深夜ドラマ「一人キャンプで食って寝る」を監督した時に、劇版は荘子itさんがいいんじゃないかと冨永さんが提案してくださったんです。荘子itさんは私の映画なんて観ていないだろうな、と思っていたらご存知で、映画の造詣も深くて驚きました。それをきっかけにDos Monosを知ってハマったんです。ライブに足繁く通うようになって、推し活みたいな状態でした(笑)。

荘子it:ありがとうございます(笑)。

横浜:当時、「映画でも音楽でもいいから新しくて面白い人がいないかな」って探していたんですけど「これだ!」って思ったんです。Dos Monosは容姿も声の出し方も全然違う3人が集まっているのが面白いんですよね。音楽も生ぬるくなくてゴリっとしている。映画音楽を荘子itさんに頼んだら、どんなものができんだろう?って興味が湧いたんです。私の映画に合うか合わないかも分からなかったんですけど、逆にそれが面白いんじゃないかと思って。

——横浜監督と荘子itさん、すごく面白い組み合わせだと思いました。荘子itさんは横浜監督から話が来た時どう思われました?

荘子it:ドラマをやった上で、声かけてもらえたっていうのがうれしかったですね。自分の仕事を認めてもらったということですから。映画は大学で勉強していたくらいすごく好きで、映画音楽はずっとやりたいと思っていたんです。ただ、最近の邦画で音を当てたいと思う作品があまりなくて。でも、横浜監督や冨永監督の作品だったら何か面白いことができそうな気がしていたんです。

音楽としても面白くて
映画ともリンクしている

Dos Monosの荘子it

Dos Monosの荘子it

——曲作りに入る前に、監督と音楽についてどんな話をされたのでしょうか。

荘子it:まず、監督から既存の曲を集めたリファレンスをもらったんです。「このシーンはこんな感じの音楽で」って。時代も音色もバラバラだったので、リファレンスを参考にしながら自分なりにゼロから音楽をイメージし直しました。

横浜:必死で曲をかき集めたんですけど、気がついたらリファレンスというより自分の好きな音楽を集めてました(笑)。

荘子it:現代音楽の作曲家が多かったですね。湯浅譲とか武満徹とか。あと、完成している映画のラッシュを観たり、脚本を読んで自分なりに映画をイメージしました。そこで頭に浮かんだのがロバート・アルトマン監督の映画「3人の女」(1977年)です。「3人の女」みたいに精神の病とか妄想について描いているわけではないけれど、よく考えるとそういう要素がこの作品にあるような気がして。そういうことも念頭に入れて作曲することで、発想を広げて音楽の奥行きが出せた気がします。それで「こんな感じでいかがでしょうか」と試しに作った曲を2曲聴いてもらったんです。

横浜:それを聴いて驚きました。荘子itさんの中で音楽のイメージがしっかりとできていることが分かったんです。なので「このままでいってください」と伝えました。私はメロディーが際立つような映画音楽はあまり好きではなくて、この映画もアンビエントな感じの音楽がいいのかな、と漠然と思っていたんですけど、荘子itさんなら思いもよらない音楽でイメージを塗り替えてくれるんじゃないかと期待が高まりました。

——監督の方から、特にサウンドの方向性や音色についてのリクエストはなかったのでしょうか。

横浜:多分、なかったんじゃないかな……。

荘子it:「クラリネットを入れたい」と言ってましたよね。取り憑かれたように(笑)。

横浜:そうでした!(笑)。奏介を見ていて「この子、クラリネットっぽい」と思ったんですよ。どこか抜けてるような感じが。荘子itさんはクラリネットは吹けないだろうな、と思いながら丸投げしてしまいました。

荘子it:結局、クラリネットは使いませんでしたが、怪獣が出現する前のシーンの音楽に、その名残があると思います。

——作曲していく上で荘子itさんが心掛けていたことはありますか?

荘子it:最近の映画音楽の潮流で、主旋律がはっきりしたメロディーの曲がバン!と流れるのではなく、映画に溶けこんだ抽象的な曲が増えているんですよ。最近の映画は音質がこれ以上ないくらい良くなって音がリアルなので、そこに音楽がかかると違和感がある。だから環境音と溶け合うような音楽にする方が上品なのはよく分かるんです。でも、僕は音楽の面白さを追求したくて、今風の抽象的な音楽を映像に当てるのは怠慢なような気がしたんです。だから、音楽単体で面白くて映画ともリンクしているものにしたい、と思っていました

横浜:荘子itさんの音楽はインパクトありましたね。良い意味で予想を裏切られました。私は映像より強い音楽ってあまり好きではないんですよ。でも、今回は映画に良い影響を与えていました。音楽の強さが映像を阻害せず、シーンをさらに強くしている。そう感じる瞬間がたくさんあったんです。この映画は、これまでの音楽の付け方と全然違う新しい試みになったと思いました。荘子itさんじゃなかったら全然違う映画になっていたと思います。エンディング曲も予想外の仕上がりだったし。

エンディング曲は共作

映画監督の横浜聡子

——エンディング曲「La chanson de Yoko」は荘子itさんが作曲、監督と荘子itさんが歌詞を共作していますね。

荘子it:エンディング曲は僕の方からやりたいって言ったんです。劇伴をやるならエンディングもって。そして、曲を書いて監督に渡して「歌詞を書いてください!」ってお願いしました。

横浜:歌詞なんて書いたことがなかったので嫌で仕方なかったんですよ(苦笑)。一週間かけて断片的に歌詞を書いて「これをつなげてください」って荘子itさんに投げたんです。

——それで共作という形になったんですね。監督が書いた歌詞はいかがでした?

荘子it:すごく良い歌詞でした。僕が書いたメロディーに対して真摯に答えてくれている感じがしましたね。作詞の経験がないからこそ、メロディーに対して言葉をはめるっていう初めての作業を、まっさらな気持ちで真面目にやってくれたのが伝わってきた。監督とキャッチボールが成立したのが分かって良かったです。

——そのキャッチボールが重要だった?

荘子it:そうですね。自分に与えられた仕事をこなすだけではなく、作品のコンセプトや脚本が持っているやばいものを、カメラマンならカメラマンなりに、音楽家なら音楽家なりに、自分の職能を活かして、一つの作品ぐらいの感じで仕上げて持ち寄ることができたら最高だと思うんですよ。それが集団作業の重要なところだと思っていて。それでエンディング曲をまず最初に作ったんです。

横浜:この曲はすごく早い段階に出来上がったんですよ。まだ本編の編集をやっている時に。すごく良い曲に仕上がっていて、映画を仕上げていく上で精神的に励まされた部分が大きかったです。本編が終わった後のエンディングの音楽って、前作の「いとみち」の時は、劇版の渡邊琢磨さんが本編の余韻を残した落ち着きのある音楽を考えてくださいました。でも今回の曲はエンディングがもう一つの物語みたいな、新しいものが始まるみたいな感じもするくらい力強い曲で、自分にとっても初めての試みだったように思います。

——荘子itさんは自分が手がけたサントラが乗った映画を観て、どんな感想を持たれました?

荘子it:自分の好きにやらせてもらって、それで作品のバランスがガタガタだったら目も当てられないと思っていたんですけど、映像と音楽をはじめ、いろんな要素が奇跡的なバランスで成り立っている作品だと思いました。映画は漫画みたいに1人では作れない。集団制作だから俺みたいなやつが音楽で変なことやり始めたりするとバランスが整わなくなるのですが、そうならずに他にない独特な空気感を持った作品になったと思いましたね。

印象に残っている映画音楽

Dos Monosの荘子it(左)と映画監督の横浜聡子

——映画を観て、横浜監督と荘子itさんが映像と音楽でセッションしているように感じました。その関係性が面白いと思ったのですが、お2人は映画と音楽の組み合わせで印象に残っている作品はありますか?

横浜:私は映画を観ていて「音楽はいはいらないな」って思ってしまう時の方が多いでんすよ。そんな中で、印象に残っているのがナンニ・モレッティ監督の「息子の部屋」(01年)です。エンディングにブライアン・イーノの「By This River」が流れるんですけど、その曲が劇中に何回か出てくるんですよ。同じフレーズが何回も繰り返される、あの音楽の使い方には憧れますね。大島渚監督の「東京戦争戦後秘話」(70年)もそうで、武満徹が音楽を担当しているんですけど、まずオープニングでテーマ曲をほぼ全部聞かせるんです。その後、劇中でもここぞというシーンで何回かテーマ曲を聞かせる。そういう風に、一つの音楽や音を劇中で何回も繰り返すというのを一度やってみたいと思っています。

——そういう使い方をすると、音楽が登場人物の一人みたいになって映画に溶け込んでいますよね。荘子itさんはいかがですか?

荘子it:僕はポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07年)を中学生の時に観て「すごい!」と思ったんです。この映画を子供の頃に観たことが原体験として大きくて。

——音楽はレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドでしたね。

荘子it:そうです。映像と音楽が戦っているみたいだったんですよ。昔のサイレント映画って本編に音がなくて、映画を観ている時に耳が寂しいから、後から音楽を乗せたり、活動弁士が喋ったりした。映像と音楽が完全に別で、映像に音楽を当てるというのは、ある意味、戦いだったと思うんですよ。だから、絵だけの芸術に対して音でアプローチをする面白さや実験性があったと思うんです。でも、トーキー以降、映画にセリフや効果音がきれいな音で入っている状態においては、監督が言うように音楽は余計といえば余計なんですよ。なくても成立させれられるから。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の冒頭の10分はセリフがなくて映像と音楽だけなんですけど、サイレント映画みたいに映像と音楽が戦っているんです。そのほかのシーンでも、映像ですごいことが起きると、それに対して音でもすごいことをしている。音楽は映像と同じくらい強烈なものでありながら、それでいて映像とリンクしていないといけない、という映画音楽に対する僕の考え方のベースになっているのは、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を観た影響かもしれませんね。

——音響的なサントラは映像には馴染みやすいけど、音楽としての魅力が薄まってしまう。そんな中で、存在感がある映画音楽をどう作っていくのか、というのは重要な問題ですね。

荘子it:今回、僕は音楽家として、監督が撮った映画からいろいろなものを受け取りました。だから僕なりに、この映画に対して音楽で何かお返しをしたかった。そのために、映像と同じレベルで、そこに別の表現を乗せるという変なことをしているんですけど、それが面白いと観客に思ってもらえることが大切だと思っていました。そうしないと、今後映画音楽ってどんどん先細りになってしまうと思っているんです。今回僕が音楽でやったことはすごく危ういチャレンジだったけど、その試みが成功しているんじゃないかと思いますね。

Dos Monosの荘子it(左)と映画監督の横浜聡子

PHOTOS:MASASHI URA

映画「海辺へ行く道」

映画「海辺へ行く道」メインビジュアル

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

映画「海辺へ行く道」場面カット

◾️映画「海辺へ行く道」
8月29日からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
原作:三好銀「海辺へ行く道」シリーズ(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督・脚本:横浜聡子
出演:原田琥之佑
麻生久美子 高良健吾 唐田えりか 剛力彩芽 菅原小春
蒼井旬 中須翔真 山﨑七海 新津ちせ
諏訪敦彦 村上淳 宮藤官九郎 坂井真紀
音楽:荘子it
撮影:月永雄太
編集:大川景子
製作:映画「海辺へ行く道」製作委員会
配給:東京テアトル、ヨアケ
©2025映画「海辺へ行く道」製作委員会
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