映画俳優ロバート・デ・ニーロさんが、カリブ海の島で進むリゾートプロジェクト「ザ・ビーチクラブ・バーブーダ」の建設現場で最終的な設計の詳細を詰めている。同プロジェクトはレストラン、ホテル、住宅から成り、客室36室とプライベートビラなどを備える宿泊施設「NOBUビーチ・イン」は2026年11月にオープンする予定だ。

  ハリウッドの大物スターがどれほど細部までこだわるのか。それを観察するために筆者は島を訪問した。NOBUレストランで6人席に座っていると、照りつける太陽の下、グレーのTシャツにカーゴパンツ姿のデ・ニーロさんがこちらに向かって歩いてくる。片方の肩には年季の入った緑色のバックパック、もう一方の手には再利用可能な買い物袋を持っていた。アカデミー賞受賞俳優にしては、驚くほど地味な登場だ。袋の中身を尋ねると「ビーチサンダルだ」と答え、「バーブーダには靴なんて似合わない」と語った。

  プロジェクト本部へ向かう途中、筆者は彼に倣い、靴下とスニーカーを脱いだところ、中には既に細かい砂がたまっていた。

  バーブーダ島は一つの国家を共に形成するアンティグア島から30マイル(約48キロメートル)北に位置する。自分を解き放てる場所であり、本当に行きたいと思う人しか行かない場所だ。商業便がほとんど就航しておらず、ヨットやプライベートジェット、あるいはヘリコプターでの上陸が一般的だ。甘く見積もれば高級と呼べるホテルが2軒あるが、さらに建設中で、NOBUビーチ・インに加え、国際ホテルチェーンのローズウッドの施設も開発中だ。

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NOBUビーチ・インの完成予想図

Photographer: NOBU BEACH INN

  長年、秘境として知られてきたこの島は、1990年代に故ダイアナ元妃が世間の目から逃れるために訪れた場所でもある。こうした静けさとアクセスの困難さは、一部は意図的なものだ。人口2000人、面積62平方マイル(160平方キロメートル)の島には共同土地所有制度があり、長年にわたり外部からの開発を制限してきた。

  だが、住民と政府との法的闘争など長年にわたる粘り強い取り組みを経て、デ・ニーロさんのリゾート開発に特例が認められた。世界に40軒以上のホテルと50軒以上のレストランを展開する「NOBU」ブランドを松久信幸氏と共同で創業したデ・ニーロさんにとって、今回のプロジェクトは決して小さな事ではないという。

  リゾートの総敷地面積は391エーカー(約158ヘクタール)。設計段階では、全ての建物を1階建てとし、規制要件よりも海岸線から後退させて配置。黒とベージュの大理石や鋭いラインを特徴とする他のNOBUリゾートとは異なり、風景に溶け込むよう設計されている。現地ではマングローブの再生プロジェクトも進行中で、ハリケーンへの耐性を高める狙いがある。

  敷地内には自然素材や在来植物を使用し、バーブーダ島の生態系や景観に極力影響を与えないよう配慮されている。デ・ニーロさんは、「デザインのためだけのデザインは好きではない」と語る。

  NOBUビーチ・インにはバンガローに加え、プライベートのガーデンパビリオンを備えたスパと海に面したプールを設置。客室料金は2500ドル(約37万円)から。メイン棟に入るNOBUレストランでは、刺し身の盛り合わせやリブロースステーキといった定番料理が提供される。

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NOBUビーチ・インのメインゲストハウスの完成予想図

Source: Nobu Beach Inn

  宿泊施設の先には、プライベートビラ(価格は1200万ドルから)が建設されるほか、デ・ニーロさんの現在の自宅を通り過ぎた海岸沿いにはより大規模な私有地も設けられ、区画は700万ドルから販売されている。

  デ・ニーロさんがこの地を初めて訪れたのは30年以上前だ。アンティグアからのボート旅行で立ち寄った際、真珠のように輝く海岸線や、ターコイズブルーの浅瀬に人間よりも多くの亀が生息する様子が印象に残った。そして10年前にこの土地が販売されていることを知った彼は、NOBUビーチ・インの構想を練り始めた。

  ただ、道のりは平たんではなかった。ハリケーン「イルマ」や新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の影響で計画はたびたび中断した。一部の住民や議会から「破壊的で搾取的な開発計画」として批判の声が上がったこともある。

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プールの完成予想図

Source: Nobu Beach Inn

  プロジェクトの本部に戻った後、デ・ニーロさんの設計会議は、アンティグア・バーブーダのガストン・ブラウン首相が娘を連れて急きょ訪れたことから状況報告が行われ、昼食となった。

  その後、ビラの床材サンプルに話題が戻った。デ・ニーロさんは、映画「アンタッチャブル」で演じたギャングの首領アル・カポネの冷酷さを象徴する有名な野球バットを振るシーンさながら、表情を変えずに板を凝視。周囲の緊張が高まった。デ・ニーロさんは承認する際に「それはいい」と言う程度で、うなずくだけのこともある。「この線は何だ?なぜ見逃したんだ?」と問いただす場面もあった。

  夕暮れ時、予定された仕事を終えたデ・ニーロさんは再びバックパックを背負い、ビーチサンダルを脱いで軽い足取りで砂浜へと歩き出した。「かなり楽観的になってきた」と語ったその顔には笑みが浮かんでいた。ビーチクラブはまだ完成には程遠いが、こだわり抜いた仕様通りに建てられると確信していることは明らかだった。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:How Robert De Niro Is Building a Barbuda Paradise From Sand Up(抜粋)

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