3年目に野手へ転向…球界を代表するプレーヤーになった糸井氏
大きな挫折が、活躍に繋がった。日本ハムなどで活躍した糸井嘉男氏が、Netflixのフィジカルサバイバル番組Netflixシリーズ「ファイナルドラフト」に出演。同作では戦力外通告や勇退など、人生の岐路を経験した元アスリートが集結した。糸井氏は引退時だけでなく、プロ3年目の春に投手を諦め野手に転向するという“決断”を経験。「ある意味、クビを宣告されたわけですよ」。野球人生の転機は、今でも忘れることはない。
糸井氏は近大のエースとして活躍し、2003年の自由獲得枠で日本ハムに入団。現制度でいう“ドラフト1位”の扱いだが、プロ入り後は壁にぶち当たった。「なんか甘えてましたね。ドラフト1位っていうことで、まあいつかはデビューさせてくれるやろって」。翌年のドラフトではダルビッシュ有が1巡目指名、2005年には八木智也が希望枠で入団して1年目から活躍。一方で糸井氏は2年間で1軍に呼ばれることは1度もなかった。
2006年4月17日、2軍ヤクルト戦では8回から登板すると、2失点で負け投手に。これが最後の登板になった。
トレーナールームにやってきた高田繁GMから、笑いながら「あんた使えないよ」と投手失格を告げられた。続けて「足は速いから野手っていう選択もあるんじゃないの? 1週間あげるから、野手をやるのか、このまま続けるのか、決めてきなさい」と決断を迫られた。
これまでは投手一筋。野手としてプレーする自分の姿は想像できなかった。「すごい悩みましたね。それでも、新しいチャレンジにかけてみようと。そこで投手への未練は捨てました。それぐらいの覚悟を、人生で初めて決めました」。
忘れない“最初の2軍戦”「終わりました」
コンバートが決定すると、5月14日のヤクルト戦に「7番・中堅」で野手として初出場。打席で見たプロのボールには衝撃を受ける。「最初の1打席目は絶望。絶望を覚えた。こんなん無理だって。そこから始まりました。あの試合は忘れないですね」。石堂克利、鎌田祐哉らと対戦し、5打数1安打。サードへのボテボテの内野安打を放つのが精一杯だった。
「バットに当たらなかった。真ん中の変化球も手が出なかったし。『終わりました』って思いましたよ」
どん底を味わった男は強い。野手としての現在地を痛感し、死に物狂いでの練習が始まった。寝る暇も無いほどバットを振り続け、手のひらはボロボロに。「手も痛いからシャンプーができなくて、風呂も浸かれないくらいの日々でした」。転向3年目の2008年には本塁打を放ち、翌2009年には131試合に出場して打率.306、15本塁打をマーク。のちに「超人」と呼ばれるポテンシャルが開花した。
首位打者、盗塁王、ベストナイン5度、2013年のWBCでは4番を務めるなど輝かしいキャリアを歩んだが、いつも心の底には危機感を抱いていた。「ある意味2年でクビを宣告されたわけで。ドラフト1位がね。それがあったから、41歳まで甘えずできたのかなって」。24歳で下した決断が、その後のキャリアを大きく切り拓いた。
Netflixシリーズ「ファイナルドラフト」
Netflixにて世界独占配信中 (全8話 / 一挙配信)
(上野明洸 / Akihiro Ueno)