「国宝」特大ヒット記念舞台あいさつでの吉沢亮
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【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】お盆明けに届いた映画界のニュースの「下」の巻。映画「国宝」の興行収入100億円突破がビッグニュースとなった。配給元の東宝が8月18日に発表。6月6日の封切りから8月17日まで、観客動員は747万3454人を数え、興収は105億3903万円に達している。
実写の日本映画としては2003年「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(173億5000万円)以来22年ぶりの大台到達。歴代でも98年「踊る大捜査線 THE MOVIE」(101億円)を抜いて、3位に躍り出た。2位の「南極物語」(1983年)が110億円なので、抜き去るのも時間の問題だ。
吉田修一氏(56)の同名小説をもとに李相日監督(51)が映画化した作品は、歌舞伎の名家に引き取られたやくざの息子と、その家の御曹司が互いに切さ琢磨しながら芸道を究めていく波瀾(らん)万丈の50年を描いた人間ドラマだ
2時間55分の長尺。1日の上映回数も限られてくる。東宝関係者もよもやここまでのヒットは予測できなかったかもしれないが、主演の吉沢亮(31)はじめ横浜流星(28)、田中泯(80)、渡辺謙(63)、寺島しのぶ(52)、三浦貴大(39)、高畑充希(33)ら実力派の迫真演技が観客のハートをがっちりつかんだ。
吉沢と横浜の少年期を演じた黒川想矢(15)と越山敬達(16)の、ただみずみずしいだけではない存在感も忘れてはならない。映画の導入部を見事に彩り、ヒットにつなげた大功労者と言って過言では無い。黒川は是枝裕和監督(63)の「怪物」(23年)で、越川は奥山大史監督(29)の「ぼくのお日さま」で脚光を浴びた期待の星。やがては映画界を背負って立つ逸材と断言してもいいだろう。
さらにはソフィアン・エル・ファニの圧巻のカメラワーク。吉沢と横浜の舞台シーンを引きで撮ったり、アップを多用したりと、メリハリを生かして美しく切り取り、歌舞伎の世界に誘った。第66回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた「アデル、ブルーは熱い色」(監督アブデラティフ・ケシシュ)の撮影を担当した実力者。李監督のラブコールに応えて、見事な映像で魅了した。
李監督は「ご高齢の方から中高生の若者まで、男女を問わず満場の観客が3時間もの間、前のめりに同じスクリーンを見つめる。我々の目に生涯忘れることのない景色を焼きつけてくれました」とコメントを寄せた。
面白ければ上映時間が3時間でも客が入ることを「国宝」が実証してみせた。歌舞伎がテーマだから松竹は内心悔しくてしかたがないかもしれない。作家・真藤順丈氏(47)の直木賞受賞作を「るろうに剣心」シリーズなどの大友啓史監督(59)監督が妻夫木聡(44)や広瀬すず(27)らをキャスティングして映画化。9月19日に3時間11分の大作「宝島」を公開させる東映にも大いに刺激になったかもしれない。
こちらのアニメ映画も快進撃を続けている。7月18日公開の「鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」だ。興行収入が8月17日までに257億8000万円を突破。国内の歴代興収ランキング4位に浮上した。歴代1位の座を占めるのは20年公開の前作「無限列車編」の407億5000万円。これを上回るペースで伸びており、最終的にどんな数字を叩き出すか注目される。
そういえば「国宝」も「鬼滅の刃」も東宝の配給作品。今年もまたぶっちぎりの一人勝ちだ。昨年は「侍タイムスリッパー」が社会現象を巻き起こしたが、25年は年末から年明けの映画賞レースも「国宝」が強さを見せそうな気配。他社は、独立系も含め、せめて何らかの賞だけでも一矢報いたいところだろうが…。
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