松下洸平が、7月27日に結婚を発表した。SNSでは、ファンクラブに加入しているようなファンだけでなく、松下が出演する作品を楽しんでいた視聴者からも、祝福の声とロスの声が上がっている。彼がそれだけさまざまな作品で爪痕を残してきたことの一つの証明だろう。

 2008年にペインティング・シンガーソングライターとしてデビューし、翌年にはじめてミュージカルの舞台に立った。以降、2019年度後期の朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)への出演までの9年間、松下はミュージカルと舞台を中心に俳優のキャリアを積んでいく。2011年から2014年までは毎年ミュージカル『スリル・ミー』で主演を務め、2018年にはこまつ座 第124回公演『母と暮せば』で演じた福原浩二役で第73回文化庁芸術祭の演劇部門の新人賞、第26回読売演劇大賞の優秀男優賞および杉村春子賞を受賞した。すでにミュージカル、舞台の世界で高い評価を受けていた人物だ。

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 そんな彼が世に知れ渡ったきっかけは、前述の通り朝ドラ『スカーレット』の十代田八郎役だ。ヒロインを演じた戸田恵梨香が指名でキャスティングされたのに対し、オーディションでヒロイン・喜美子の生涯のパートナー役となる十代田八郎はオーディションで選ばれている。松下は、朝ドラのオーディションとしては4度目の挑戦で役を掴んだ。

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 なぜ、八郎役で松下はブレイクしたのか。それは、彼が『スカーレット』で見せた一つ一つの芝居が物語っている。喜美子と共に陶芸に向き合い、思いが通じ合った末のはじめてのキス、陶芸に夫婦で取り組み、互いの才能や状況の違いを前にしたときのすれ違い、窯焚きをめぐる価値観の違いにより離婚、そして離婚した上で互いを理解し、支え合えるパートナーになっていくまでのギクシャクとした関係。どのシーンをとっても、男女の複雑な関係性と互いの大きな感情のぶつかり合いを生々しく表現しており、戸田が松下の芝居を、松下が戸田の芝居を引き出していることが分かる、フィクションであることを忘れるほどのリアルさを何度も感じさせてくれた。毎朝、あんなに贅沢な芝居合戦が観られていたことのありがたさを、6年経った今でも感じるほどだ。あの繊細な芝居と正確な関西弁から見える耳の良さ、陶芸の丁寧な所作に表れる器用さを見ていたら、さまざまなプロデューサーがキャスティングしたくなるのも無理はないだろうと、当時ただの視聴者だった筆者でも思った。

 『スカーレット』以降は、『MIU404』(TBS系)、『東京タラレバ娘2020』(日本テレビ系)へのゲスト出演と『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)でのメインキャストでの出演を経て、2021年以降はほぼ毎クールと言ってもよいほどドラマへの出演が続く。なかでも、『最愛』(TBS系)や『やんごとなき一族』(フジテレビ系)、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)など、役柄は異なるものの恋愛要素を含んだドラマで見せる真摯な芝居の威力は凄まじく、役柄を好きになったのちに松下を好きになるというファンが増えていったように思う。2024年の『放課後カルテ』(日本テレビ系)では、新境地となるぶっきらぼうな学校医役で連続ドラマ単独初主演を叶えて好評を集め、2025年秋にスペシャルドラマの放送が決定したばかりだ。

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 2021年には『ぐるぐるナインティナイン 「グルメチキンレース・ゴチになります! 22」』(日本テレビ系)にレギュラー出演し、2024年3月からは『with MUSIC』でナビゲーターを務めた。2024年にはエッセイ集『フキサチーフ』を刊行、現在もコンスタントに音楽活動を続け、日本で世界初演となったミュージカル『ケイン&アベル』で主演を務めるなど、表現方法は多岐にわたっている。

 俳優として安定した演技力を持つと同時に、一瞬で人を惹きつける爆発力も持つ松下は、バラエティ出演時に見える本人の誠実で包容力あふれる人柄も含め、ファンを増やしてきた。

 近年の朝ドラでは珍しくなった“無名スター”として世に知れ渡った松下だが、今回の結婚への反応は、『スカーレット』以降も伸び続ける演技力と丁寧な仕事ぶりが評価されているからこそといえるだろう。プライベートで一つの節目を迎えた松下が、今後表現者としてどんな姿を見せてくれるのかを楽しみにしたい。

古澤椋子

古澤椋子
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ドラマが好きすぎて、聖地で結婚式を挙げたフリーライター。ドラマ・映画記事を中心に、キャリアや一次産業に関わるメディアで執筆中。

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