“どこを見ているのか?”
興行収入105億円を突破し、邦画実写映画歴代3位まで上りつめた映画『国宝』。吉沢亮演じる後に人間国宝となる花井東一郎こと喜久雄に、核心をつくこの言葉を投げかける女性、彰子を演じているのが森七菜だ。
客に罵倒された喜久雄が場末の温泉街のネオン瞬くビルの屋上で酔いにまかせて舞う、このシーン。「どこ見てるんやろ」と呟いた喜久雄が、ラストシーンでようやくたどり着く“ある景色”を示唆するような象徴的な場面である。
ここで、かつて憧れた美しい男を見限るまで、歌舞伎役者のもとに生まれた彰子は“血”に抗い、“血”のプライドをすり減らしながら身の丈以上の献身で喜久雄を支えてきたはず。
映画『国宝』では、“血”を持つ大垣俊介/花井半弥(横浜流星)を案じる母・幸子を演じる寺島しのぶ、喜久雄の幼なじみながら俊介と結ばれる春江役の高畑充希、喜久雄の娘を生み育てた祇園の舞妓・藤駒役の見上愛ら、喜久雄の人生に関わる女性キャラクターたちもそれぞれ注目を集めているが、『国宝』の本質的テーマを導き出すキーパーソンといえるのが、森が演じた彰子ではないだろうか。
今年、『国宝』はじめ4作の映画が公開される森は、2026年春には新宿・歌舞伎町を舞台にした主演映画『炎上』が控えるなど、話題作が途切れない。
映画『炎上』
数々のオーディションをくぐり抜け、大役をつかんできた森は、約2,000人を超える中から新海誠監督『天気の子』天野陽菜役の声優に抜擢され、NHK連続テレビ小説「エール」では“憧れの存在”二階堂ふみ演じる関内音の妹・梅役に。
岩井俊二監督『ラストレター』では一人二役をこなし、ネクストブレイク俳優として日本アカデミー賞新人俳優賞、エランドール賞新人賞などを席巻した。
一時期、事務所の移籍問題に伴い仕事は激減するも、そのままでは終わらない。
2024年公開『四月になれば彼女は』で演じた藤代俊(佐藤健)の初恋の女性・伊予田春は、たった1人でカメラを手にボリビアやチェコ、アイスランドを訪れ、生き抜いた女性だ。
坂元裕二脚本×塚原あゆ子監督による『ファースト・キス 1ST KISS』での硯カンナ(松たか子)の同僚・世木杏里も、小気味よいアドバイスで印象を残していた。
『フロントライン』(公開中)では、新型コロナの最前線となった豪華客船のクルー・羽鳥寛子として奮闘を見せている。
『フロントライン』© 2025「フロントライン」製作委員会
新海監督の珠玉のアニメーションの実写化『秒速5センチメートル』(10月10日公開)では、遠野貴樹(松村北斗)に思いを寄せる同級生・澄田花苗としてサーフィンに挑戦するなど、変幻自在。
「森さんの中には小さな樹木希林がいる」と、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」の是枝裕和監督が「TUDUM Japan」の特別映像で語ったことがある。
いまや、京都の花街でまかないに魅せられていくあどけない少女の姿はない。「青い炎のよう」と表現した吉沢の熱量を間近で感じながら、それすらも自らの糧にする、芝居の達人がいるだけだ。
『国宝』で改めて評価高まる
☆森七菜 プロフィール
生年月日:2001年8月31日生まれ
出身地:大分県
☆主な出演作
『心が叫びたがってるんだ。』(映画、2017)
「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(ドラマ、2018)
「3年A組ー今から皆さんは、人質ですー」(ドラマ、2019)
『天気の子』(アニメ映画、2019)
『ラストレター』(映画、2020)
連続テレビ小説「エール」(ドラマ、2020)
「この恋あたためますか」(ドラマ、2020)
『青くて痛くて脆い』(映画、2020)
「真夏のシンデレラ」(ドラマ、2023)
『銀河鉄道の父』(映画、2023)
『君は放課後インソムニア』(映画、2023)
「ほんとにあった怖い話 25周年スペシャル」(SPドラマ、2024)
Netflix『パレード』(映画、2024)
『アット・ザ・ベンチ』(映画、2024)