KDDIは8月19日、オフィス構築のコンサルティングサービス「KDDI Smart Space Design」を開始した。

 このサービスでは、グループ会社のKDDIエンジニアリングが取得した一級建築士事務所の機能を活用。建築の企画段階から通信インフラや配送・清掃ロボットの移動経路を設計に組み込む体制を整えた。従来は建物完成後に検討されていた通信・ロボット関連の設備を、最初から建築計画に反映できる点が特徴だ。

KDDI Smart Space Design
KDDI Smart Space Design

 さらに、2026年度には、企業の総務担当者がオフィスレイアウト案と概算見積もりをわずか15分で作成できるWebツールを無償公開する予定だ。

 同日、東京・高輪ゲートウェイシティの新本社で開かれた説明会では、執行役員常務の那谷雅敏氏が登壇。2040年までに労働人口が1200万人減少する見通しを背景に、「有能な人材の確保が企業の課題となる中、オフィスの魅力化をいかに進めるかが非常に重要だ」と強調した。世界のスマートビル市場は年平均24.4%、日本でも16.4%と高い成長率を示しているという。

 事業体制としては、KDDIが58社のパートナー企業と協業し、全体をマネジメント。設計や施工の一部はパートナーが担う分業モデルを採用する。一級建築士事務所を取得したことで建築確認申請まで自社で対応可能となったが、ゼネコンとは競合せず、「通信が必要になる空間づくりに我々の知見を入れ、施工はパートナーと協力して進めたい」と、ビジネスイノベーション推進1部長の平田康彦氏は説明した。

58社のパートナーと協業する
58社のパートナーと協業する

 同社は2028年度にKDDIグループ全体で売上800億円を目指す。2024年は「三桁億の手前ぐらい」という現状から、4倍の成長を狙う。

2028年度までに売上高800億円を目指す
2028年度までに売上高800億円を目指す

ロボット動線を最初から設計に組み込む

 従来のオフィス構築では、建物を建ててから通信やロボット導入を検討するケースが多く、追加工事が大きな負担となっていた。例えば、Wi-Fiを設置したい場所に配線ルートがなく、後から壁に穴を開ける必要があったり、配送ロボットを導入しようにも手動ドアばかりで使えなかったりする。その結果、配管工事などで費用がかさんでしまう。

 配送や清掃ロボットを活用するには、フラッパーゲートやエレベーターとAPIで連動する仕組みが不可欠だ。ロボット自身が階を移動できるよう、こうした動線を建築の初期段階から設計に反映させるのが新しいアプローチだと、那谷氏は説明する。

オフィス空間の企画段階から通信を考慮した設計を行う
オフィス空間の企画段階から通信を考慮した設計を行う

 既存ビルへの対応も可能だが、A工事(共用部分)やB工事(専有部分)となると大きなコストがかかる。テナント側で行うC工事であれば柔軟に対応できると、平田氏は話す。

 KDDI新本社では、この考え方を実際に導入。通信とロボットを前提に設計された空間では、食堂の混雑状況をスマホでリアルタイムに確認でき、什器やレイアウトの見直しに活用できる。さらに、社内のローソンではスマホだけで決済が完了。配送ロボットは廊下やエレベーターを行き来し、センサーから得られたデータをもとに「会議室が足りない」といった課題も把握できる。

KDDI高輪本社の事例を横展開する
KDDI高輪本社の事例を横展開する

レイアウト案と概算見積もりを15分で生成するAI

 オフィス移転では「価格の不透明さ」と「完成イメージのしにくさ」が課題だ。平田氏は「見積もりの妥当性が分かりづらく、完成後のイメージも描きにくい」と指摘する。

 KDDIはこれを解決するため、無料AIツールを開発中だ。顧客が入力した情報を基に3Dで空間を提案し、営業提案にも活用する。設計の専門知識がない総務部門でも使えるように設計されており、CADデータやPDF、レーザー測量データを読み込み、必要座席数を入力するだけで、AIが執務室や会議室の配置を複数パターン提示する。

 さらに、企業理念をWebサイトから読み込み、「ナチュラル」「高級感」「ICT活用」といったコンセプトタグと組み合わせて家具を自動選定。現在は3社の家具メーカーと連携しており、メーカー名や型番、金額情報まで提示する。

生成AIでオフィス空間をシミュレーションするツールを開発している
生成AIでオフィス空間をシミュレーションするツールを開発している

 企業理念をWebサイトのURLから読み込ませ、「ナチュラル」「高級感」「ICT活用」といったコンセプトタグと組み合わせることで、空間に合った家具を自動選定する仕組みだ。現在3社の家具メーカーと協力し、メーカー名、型番、金額の情報を全て保持している。

 画面には概算金額が明確に表示され、シンプルなオフィスでは1360万円、スマートオフィスにすると1480万円と、120万円の差額が価値に見合うかといった具合に判断できる。3Dレンダリング機能により、光の入り方や照明効果まで再現可能だ。

 一級建築士の清水氏は「将来的には基本設計や実施設計にもつなげていきたい」と述べる。現在は企画段階だが、設計事務所にも提供できるレベルを目指して開発中で、レイアウト自動生成のアルゴリズムについては特許も出願中。2026年度から無償提供が予定されている。

36年の実績を武器に月額サービスへ

 KDDIは1989年からオフィス構築事業に取り組んできた。サーバールームの浸水リスクを各国の水道事情まで踏まえて設計するなど、地道な経験を積み重ね、2024年時点で日本・APAC・欧米の約8000社にサービスを提供している。

2024年時点で日本・APAC・欧米の約8000社に提供している
2024年時点で日本・APAC・欧米の約8000社に提供している

 今回、同社は従来は建物完成後に検討されてきた通信インフラやロボット動線を、建築の企画段階から設計に組み込む新たなオフィス構築サービスを開始した格好だ。

 今後はオフィスのコンセプト設計から什器デザイン、構築、運用までを月額課金のリカーリングモデルで提供することも検討中だ。那谷氏は「企業は事業内容によってレイアウトが様々に変化し、部門間の移動も増えている」と述べ、什器をKDDIが資産として保有することで、組織変更への柔軟な対応や廃棄ロス削減につなげたい考えを示した。

 また、展開の対象はオフィスにとどまらない。「倉庫、工場、店舗、スタジアム、複合施設。我々の起点は人です。そこを利用する人の心を考えて、このサービスを広げていきたい」と那谷氏は語る。さらに、KDDI新本社の見学ツアーも用意し、ロボットが動く空間の実例を公開していく方針だ。

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