奈良国立博物館(奈良県奈良市)で「第77回 正倉院展」が10月25日から開催されます。
古都・奈良に秋の深まりを知らせる正倉院展が、今年、77回目の開催を迎えます。正倉院宝物は、校倉造あぜくらづくりで知られる正倉院正倉におよそ1300年ものときをこえて守り伝えられてきた宝物群です。奈良時代に日本を治めた聖武しょうむ天皇のご遺愛品をはじめ、平城京を舞台に花開いた天平文化の粋すいを伝える貴重な品々で構成されており、その数はおよそ9000件にものぼります。天皇の勅封ちょくふうという厳重な管理体制のもと、まとまったかたちで今日まで守り伝えられた稀有の宝物群であり、世界的にもきわめて高い価値を誇っています。
今年の正倉院展でも選りすぐりの宝物が会場を彩り、私たちを天平の華やぎの世界へと誘います。聖武天皇の身近におかれた「木画紫檀双六局もくがしたんのすごろくきょく」(北倉37)、「鳥毛篆書屏風とりげてんしょのびょうぶ」(北倉44)といった宝物は、高貴な素材と技が駆使された最高級の調度品で、華やかで知的な雰囲気にあふれた宮廷生活を偲ばせます。一方、ほとけへの捧げものを収めた「黒柿蘇芳染金銀山水絵箱くろがきすおうぞめきんぎんさんすいえのはこ」(中倉156)など、技巧を凝らした祈りの宝物を通じて、仏教をよりどころとした当時の人々の心にも近づくことができるでしょう。また、豊麗な花文様を表した「花氈かせん」(北倉150)、深い紺色がなんとも美しい「瑠璃坏るりのつき」(中倉70)、名香「蘭奢待らんじゃたい」として世に知られる「黄熟香おうじゅくこう」(中倉135)など異国情緒あふれる品々から、シルクロードを通じた当時の国際色ゆたかな都の情景が垣間見えます。
宮内庁正倉院事務所による最新の宝物調査の成果も織り交ぜながら、豪華なラインナップで開催する今年の正倉院展を、ぜひともご堪能ください。
◇記者会見レポート 出陳される蘭奢待の伐採は8世紀~9世紀末頃と宮内庁正倉院事務所が発表
第77回 正倉院展
会場:奈良国立博物館 東西新館
(奈良市登大路町50番地 奈良公園内)
会期:2025年10月25日(土)〜11月10日(月) ※会期中無休
開館時間:8:00〜18:00(入館は閉館の60分前まで)
※金・土・日・祝日は20:00まで延長
休館日:会期中無休
観覧料:
・日時指定券を販売予定(詳細は2025年8月下旬発表)
問い合わせ:ハローダイヤル 050-5542-8600
アクセス:
近鉄「奈良駅」下車 徒歩約15分
JR奈良駅・近鉄奈良駅から市内循環バス外回り「氷室神社・国立博物館」下車すぐ
公式SNS:X(旧Twitter) Facebook
詳細は、正倉院展公式サイト および 奈良国立博物館公式サイト まで。
主な出陳宝物をご紹介
北倉 牙笏
笏(しゃく) とは、天皇や役人が朝廷で威儀を正すために手にもつ細長い板のこと。本品は『国家珍宝帳こっかちんぽうちょう』に記載された象牙製の笏。同帳によると、「通天牙笏つうてんげしゃく」(北倉11)、「大魚骨笏だいぎょこつのしゃく」(北倉12)とともに、天武・持統系の六代の天皇に継承された「赤漆文欟木御厨子せきしつぶんかんぼくのおんずし」(北倉2)に納められていたようで、正倉院に伝わる笏の中でも格別の由緒を誇ります。近年の正倉院事務所の調査で、象牙の表面に近い部分を長軸方向に沿って長く切り出した材料を用いていることが明らかになっています。
北倉 木画紫檀双六局(上:全姿、下:部分)
『国家珍宝帳』に記載された聖武天皇ご愛用の双六盤。四周に立ち上がりをつけた盤面に床脚しょうきゃくが付く姿です。木胎の上から外来のシタンの薄板を貼って作られており、表面には木画もくがという寄木細工の技法で鳥や唐草の装飾文様が凝らされています。木画はツゲ、シタン、コクタン、象牙、鹿角、竹といった多彩な素材を用い、個々のモティーフを彩りゆたかに、かつ生き生きと表現しています。高貴な素材と高度な技術が結実した、天皇ゆかりにふさわしい品格を誇る宝物です。
北倉 平螺鈿背円鏡 附 題箋
『国家珍宝帳』に記載された、聖武天皇ゆかりの鏡20面のうちの1面。鏡の背面は南海に産するヤコウガイの貝片を用いた螺鈿らでんで華やかな文様が表され、地の部分にはトルコ石やラピスラズリの小片が埋め込まれています。分析の結果、鏡胎が中国・唐代の銅鏡の標準的な化学組成と一致したことから、シルクロードの各地で産出された素材を用いて中国で製作され、日本にもたらされたと考えられています。
北倉 鳥毛篆書屏風(上段左から、第3扇、第2扇、第1扇、下段左から第6扇、第5扇、第4扇)
『国家珍宝帳』に記載される六曲屏風。各扇には草花や飛鳥などの地文様の上に、八文字の篆書てんしょと同字の楷書を交互に表しています。紙の地には吹絵ふきえの技法で文様と楷書部分を白抜きにして表し、楷書部分には地色と異なる色で吹き付けと点描が施されています。篆書部分にはニホンキジなどの羽毛を貼り付け、金箔の小片を散らしています。屏風は部屋の間仕切りなどに用いるもので、本品は君主にとっての戒めの格言を表すことから聖武天皇の身近に置かれるにふさわしい調度といえるでしょう。
北倉 花氈
濃密な大唐花文様を全面に表した羊毛製フェルトの敷物。このような文様を表すフェルトの敷物を「花氈かせん」といい、唐からの舶載品と考えられています。本作は藍や緑、赤などに染められた羊毛による非常に複雑な文様が精緻に表現されており、きわめて高い製作技術がうかがわれます。正倉院に伝来する37点の花氈のなかでも色彩表現が豪華で、花氈を代表する品です。裏面には「東大寺」の墨書と「東大寺印」と読める朱印が捺され、法要の場で用いられたと考えられます。
中倉 天平宝物筆
東大寺大仏の開眼法要かいげんほうように用いられた特大の筆。天平勝宝4年(752)の開眼法要に加え、筆管に線刻された銘文により、文治元年(1185)に再興された大仏殿での開眼法要でも後白河法皇ごしらかわほうおうが用いたことが知られています。筆の軸は斑点模様を人為的に表現した仮斑竹げはんちくであり、着色の濃淡や配置も見所です。筆の穂先は毛を紙巻で仕立てる方法で形作られ、現在、毛はほとんど脱落するが墨の痕も認められます。東大寺大仏開眼という古代仏教を象徴するセレモニーをいまに伝える貴重な筆です。
中倉 瑠璃坏 附 受座
気品ある美しさをたたえた紺色のガラス器。表面に円環を貼りめぐらせた坏身を高脚が支える意匠は異国情緒にあふれ、本品がはるか西方で作られたガラス器であることを物語ります。一方、坏身の下方に取り付けられた銀製の台脚は、裾に龍のような文様が表されることから、東アジア圏において付け加えられたものとみられます。西方産のガラス器がはるばるシルクロードを経て東アジアにもたらされ、珍重されたことをうかがわせます。この種のガラス器の中でも、姿・技法ともに最高水準を示す逸品です。
中倉 黄熟香
ジンチョウゲ科の樹木に樹脂が沈着してできた香木。「蘭奢待らんじゃたい」(文字に「東大寺」の三文字を隠した雅号)とも呼ばれ、名香として名高い存在です。分析の結果、ベトナムからラオスにかけての山岳地帯で産出されたものと成分が近いとされます。多数の切り取られた痕跡があり、うち3か所には足利義政や織田信長、明治天皇が切り取った旨を示す紙箋しせんが付属します。近年の調査によると香気成分は残存しており、現在も香りを留めているといいます。
中倉 黒柿蘇芳染金銀山水絵箱(上:全姿、下:蓋表)
ほとけに対して捧げものをする際に用いられた献物箱という容器で、箱自体が大変美しく仕立てられています。赤みのある落ち着いた茶色地は、黒柿を蘇芳という赤い染料によって染めることで、貴重な外来素材のシタンに似せたものです。注目したいのは蓋表をはじめ各所に施された金銀泥きんぎんでいによる文様表現です。蓋表には四辺から中央にむけてせり上がる峻険しゅんけんな山々が表され、幾重にも折り重なる山襞やまひだや立ち昇る雲の様子が、闊達な筆裁きで描かれています。
南倉 桑木阮咸(左:全姿、右:捍撥部分)
円形の胴を持つ四絃の楽器。名称は「竹林七賢ちくりんのしちけん」の一人で琵琶の名手とされた阮咸げんかんに由来すると言われています。中国で成立したと考えられますが、古代の遺例は本品の他に「螺鈿紫檀阮咸らでんしたんのげんかん」(北倉30)のみとなっています。主要部分を蘇芳で染めたクワ材で作り、細部は木画や玳瑁などで装飾しています。胴部中央の皮製の捍撥かんばち(撥受け)には、背景として八弁の大きな赤い花を、中央部に松や竹の下で高士が囲碁を楽しむ情景を描いています。胴の背面に「東大寺」の刻銘があり、東大寺の法要で用いたことがわかります。
なお、今年度出陳される宝物は北倉17件、中倉19件、南倉28件、聖語蔵3件の全67件。うち6件は初出陳となります。当時の宮廷生活を偲ばせる名品から、はるばるシルクロードを越えて古代の日本にもたらされた異国情緒漂う宝物まで、今年の正倉院展もバラエティに富んだ展示が楽しめそうで楽しみです。(美術展ナビ)
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