渋谷の未来の姿も公開!
この夏、首都圏各地では日本を代表する著名な建築家の個展が花盛りです。なかでも注目度の高い展示のひとつが、8月27日まで渋谷ストリーム ホールで開催されている建築家・内藤廣の個展「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」です。自身が牽引する再開発プロジェクトの只中、まさにその現場である渋谷で繰り広げられる熱量あふれる展示を取材しました。
建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷
会場:渋谷ストリーム ホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)
会期:2025年7月25日(金)~8月27日(水)
開館時間:11:00 ~ 20:00 ※休館日無し
入館料:一般1,500円、大学生以下1,000円、未就学児無料
※会場受付で学生証を提示頂く場合あり
詳しくは展覧会公式サイトへ。
デビューから現在まで、過去50年の業績を紹介する、圧巻の展示
展示風景
展示会場は、渋谷ストリーム ホールの4~6Fの3フロアすべてを活用。エスカレーターを1フロアずつ上がりながら、まず4F、5Fで建築家・内藤廣の過去50年にわたる建築プロジェクトを一気通貫で紹介。ドローイング、写真、模型、図面、断面矩計図、インタビュー映像など多彩な資料群が揃っており、情報密度の濃いみどころたっぷりの展示構成となっています。
作品数は、充実の45作品。学生時代の課題作品から、デビュー当時の初期作品、評判を呼んだ公共建築、そして現在進行中の最新プロジェクトまで、ゆるやかな導線に沿って、概ね時系列で並べられていました。
展示風景 早稲田大学建築学科の卒業設計。その年の最優秀作に与えられる村野藤吾賞を受賞している
展示風景
展示風景 明治神宮ミュージアム。コンペでは惜しくも隈研吾氏に敗れ、「Unbuilt」となっている
展示風景 2025年夏にオープンしたばかりの黒栁徹子ミュージアム。展望台から絶景が楽しめそうだ
特に圧巻だったのが、精巧に作り込まれた建築模型。筆者のような建築初心者でも、十分に内藤作品の魅力を体感することができました。特に旅行好きな方や、各地のミュージアムを巡っている方なら、模型を見て、「あっ、この建築も内藤廣が手掛けていたんだ!」と驚かれることでしょう。
展示風景 惜しくも「Unbuilt」となったアルゲリッチハウス
展示風景 旭川駅 鉄骨トラスの迫力ある構造が見どころだ
展示風景 紀尾井清堂
巨匠の本音が爆発!青鬼と赤鬼が語り尽くす「解説」
引用:展覧会公式サイト
模型や資料群を通して十分に全体像を把握したら、ぜひ読み込んでほしいのが、各作品に添えられた解説文です。この解説文は学芸員ではなく、すべて内藤廣氏自身が書き下ろしたもの。しかも、単に思いを書き記しただけではなく、建築家の心中にある2つの疑似人格である“赤鬼”(赤字)と“青鬼”(青字)の対話形式で綴られているのです。赤鬼はタフで自己主張が強い性格で、情熱的なロマンティスト。それに対して、青鬼は控えめで禁欲的な性格で、冷静なリアリスト、という設定になっています。
展示風景 赤鬼と青鬼の対話バトルには内藤氏のナマの本音が散りばめられる
このキャプションが、毒舌と本音の応襲になっており絶品なのです。特に、非実現となった「Unbuilt」作品に対する内藤廣本人の率直な感想が絶品。コンペに負けてしまった敗因分析から関係者への恨み節まで、偽らざる本音満載で縦横無尽に語り尽くされたテキストは、解説というより、まさに痛快なエッセイを読んでいるよう。内藤氏自身も「実は本展は“読む展覧会”なんです」と語る通り、本展は“読む”醍醐味にあふれていました。ぜひ、“これは!”と思った建築作品については、キャプションもじっくりと味わってみてください。
展示風景 時折混じる“黒字”で、偉人やプロジェクトに関わった故人など(亡霊)も赤鬼と青鬼のバトルに加わってくる
初公開!将来の渋谷駅周辺の全体像が巨大模型に!
展示風景
そして6Fに上がると、再開発が進んだ10〜15年後ごろの渋谷駅を中心とした街を1/200のスケールで再現した巨大なジオラマ模型が眼前に。まるで巨大なジャングルのように林立する高層ビル群のひときわ低い中心部には、今よりもスッキリとしたフォルムのスクランブル交差点 が見てとれます。よく目を凝らすと、ちゃんとハチ公像もありました。
展示風景 スクランブル交差点周辺
展示風景 よく見ると、木陰にはハチ公像も
隣に展示された、東京メトロ銀座線渋谷駅をクローズアップした1/20の模型も必見です。銀座線のホームの上部には「スカイウェイ(仮称)」が整備され、未来的な都市の姿を体感させてくれました。
展示風景
なお、この部屋にはもうひとつ大きな都市模型が。それが、内藤廣が手掛けた公共建築の代表作品のひとつである島根県芸術文化センター「グラントワ」です。建物がある島根県益田市は早くから人口流出が進み、全国的に“過疎発祥の地”として知られています。グラントワは美術館や劇場などの文化施設を一つの建物にまとめた、まさに地域再生を象徴するような建物なのです。
展示風景 島根県芸術文化センター「グラントワ」周辺
屋根と壁一面を覆う約28万枚の「石州瓦」も参考出品されていました。意外でしたが、公共建築の壁で瓦を使うのは日本初の試みであるそうです。
展示風景
1日約300万人が行き交う渋谷の中心地とはまさに対極となる場所で、ほぼ同時期に内藤廣が街づくりに関わっていたというのも非常に興味深いところです。
展示風景
出口付近には、内藤氏がこれまでの建築家人生を振り返って、自身が関わってきたプロジェクトや業績をマップ状に整理したボードも掲示されていました。あらためて、内藤廣の多彩かつエネルギッシュな仕事ぶりが感じられました。
100年に1度の大改造のまっただなかにある渋谷駅周辺。駅周辺の再開発は、この後2030年代にかけて一気に加速していきます。本展で、稀代の建築家・内藤廣が思い描く将来の渋谷像をいち早く体感しながら、建築の面白さを存分に味わってみてはいかがでしょうか。(ライター・齋藤久嗣)
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