©2025『旅と日々』製作委員会 ©MMarrtegani
登壇者:三宅 唱監督、シム・ウンギョン、河合優実
スイス・ロカルノで開催中(8月6日[水]~8月16日[土])の第78回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に正式出品されている三宅唱監督最新作『旅と日々』(11月7日[金]より全国公開)。
三宅 唱監督、主演のシム・ウンギョン、出演の河合優実が参加し、現地時間8月15日(金)に、フォトコール、記者会見を経て、ワールドプレミアとなる公式上映、そして上映後には一般観客も参加するQ&Aが行われた!
スイス南部のマッジョーレ湖畔に位置するロカルノで、毎年8月に行われる国際映画祭である本映画祭。上映が行われた8月15日も地中海性気候らしく強い日差しの照り付ける夏日となった。そこへ、『Playback』以来13年ぶりのカムバックに注目の集まる三宅 唱監督、今作の主人公・李(イ)の佇まいを思わせるシム・ウンギョン、作中で陰のある女・渚を演じた河合優実が登場。この度のワールドプレミアへの期待に晴れやかな笑顔を見せた。
先駆けて行われた記者会見では三宅 唱監督が「(今回)1本の映画で別の季節を感じることによって、映画を観るときに新しい経験が出来るのではないかと思い、夏と冬の二つの季節を描くことにした。原作者であるつげ義春さんが漫画という芸術と向き合い、追及し続けているのと同じように、自分自身も映画そのものの本質的な部分を探求できるいい機会であり、挑戦だった」と本作の映画の出発点を振り返ると、実際に演出を受けたシム・ウンギョンと河合優実が「念願の三宅監督と仕事ができて嬉しい」と口をそろえた。
公式上映では、インターナショナル・コンペティション部門作品の上映会場であるPalexpo(FEVI)[パレキシポ/フェビ]の2800もの席は満席に。「私たちの映画を観に来てくれた皆さんに感謝します。ランチ後の上映は眠くなるものですが、ご安心ください。次々と移り変わる映像とシーンの連なりで、皆さんの目も耳も、その他すべての感覚を心地よく目覚めさせます。映画をお楽しみください。ボン・ボヤージュ!」という三宅監督の挨拶を皮切りに、「今日、ここで映画を観ることを楽しみにしていました」とシム・ウンギョン、そして「世界のどの国の人でも共有できる感覚がある映画」と河合優実が、それぞれにこれから作品を観る観客にメッセージを投げかけ会場は本作への期待の高まりを感じる大きな拍手につつまれて上映が開始。
上映中はときおり笑い声が起こりながらも作品世界を味わうかのように静まっていた会場が上映後は一変、エンドロールが始まると拍手喝采が巻き起こり、場内が明るくなるとスタンディングオベーションが5分超続き、三宅監督、シム・ウンギョン、河合優実らもそれにこたえるように会場内に手を振り、それぞれに握手を交わし、充足感の溢れる表情を見せた。
さらに続けて行われたQ&Aでは、三宅監督の「13年前に来て以来、ここロカルノに戻ってきたいと思っていた」という、本映画祭への熱い想いをこめた一言からスタート。シム・ウンギョンが「今作では、今までと違うアプローチをした。役になるというよりも、そのまま(作品の中を)生きるということを意識した」と演じた主人公の李に共鳴した経験を明かすと、河合も「その人物のバックボーンよりも、目の前にある風景、見知らぬ人に対して、どのように反応するか、という“今この瞬間”ということをすごく意識した」と話した。
人と人との関わりが、とても深いところでされている作品だと感じた、という感想があげられると、「お互いの名前も名乗り合わないような、旅から帰ったらもしかすると忘れてしまうかもしれないような短い出会いを描こうと思った。他者への不寛容や恐れが広がる世界で、他者同士がどんな時間を過ごせるのか、物語を描くことで世界の別の可能性をつくりたいと考えていたし、映画監督としては、そういったテーマを実際にどのようにフレームに収めて撮っていくのかということも重要だと感じている」と三宅監督。
さらに、前半と後半で描かれ方の変わっていく本作で意識していたこととして、前半は初期映画がもっていた記録性について考えていた。後半にいくにつれ、古典的なアメリカ映画や、それに影響を受けた日本映画をベースにつくりたいと思っていた。結果、観た人から”新しい古典映画”と言ってもらえるものになった」と本作での挑戦を振り返り、1時間にも及んだQ&Aイベントは終了した。
ワールドプレミアを迎えた本作に対しては、早くも各国のメディアから「美しさと余韻に満ちた、広く心に届く作品」(Asian Movie Pulse)、「主演のシムは、沈黙や視線のわずかな表情で生き生きと世界を映し出す卓越した演技を披露している」(Journey Into Cinema)と絶賛の声が集まっている。
記者会見©2025『旅と日々』製作委員会
Q.漫画家のつげ義春さんが67年、68年に描かれた漫画が本映画の原作となっていますが、なぜそれを映画にしようと思ったのか、理由をお聞かせください。
三宅監督:まず夏の話と冬の話を選んだ理由ですが、1本の映画で別の季節を感じることによって、映画を観るときに新しい経験が出来るのではないかと思いました。
実際に2つの季節の中でさまざまな天気の移り変わりを映画を通して感じること、それが映画をみることにつながればいいなと考えました。
つげ義春さんは非常に純粋な形で漫画表現をきりひらく行為をしている方ですけれども、いわゆる伝統的な物語構造に縛られずに漫画と向き合い続けている。追求している。
彼と同じように、僕自身も漫画をおおもととするのではなくて、映画そのものの本質的な部分を探求できるいい機会になるのではないか、そういう挑戦だったなと思っています。
©2025『旅と日々』製作委員会
Q.俳優のお二人はつげ義春作品からインスピレーションは得られましたか?
シム・ウンギョン:つげ義春さんの漫画はもともと知っていましたが、今回の映画の話をもらってからちゃんと読むことができました。人と人の間にある不思議な絆について描いていて、とてもハマりました。念願の三宅監督と仕事をしたことがとても嬉しいです。
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河合優実:つげ義春さんはアートして有名。暗くてアンダーグラウンドなイメージ。つげさんの原作のムードを三宅さんが映画として捉えようとしているのが面白く、三宅さんと仕事をしたかったので、嬉しかった。
©2025『旅と日々』製作委員会
Q.男性俳優2人の役割が面白いと思いました。非常に複雑な背景を持っていると思いました。男性2人の役柄をどのように準備したのですか。
三宅監督:二人とも困難を抱えています。現実的な生活上の悩みと問題、お金がないといったような。もう一つはもっと内在的な、自分の存在に対して実存的な不安を抱えています。自分の人生について問い続けている人たちだと思いました。だいたい人はそういう悩みを隠すものですが、2人はそれを非常に素直に、あふれ出ているような人物だと思います。その素直さ、正直さを捉えることが彼らとの仕事の中でチャレンジだったかなと思います。
Q.つげ義春は今回の映画化に関わっているのですか。
三宅監督:現在、彼は非常に高齢で直接コミュニケーションをとっておりません。というのも彼は1987年を最後に漫画を休筆して、インタビューを受けたりもほとんどしません。数年前にフランスに本当に久しぶりに姿を現した、そういう人物です。なので、彼の息子とのコミュニケーションがありました。
Q.濱口竜介監督について
三宅監督:濱口竜介監督は同じ時代に、同じ国に生まれ、映画を作っている、本当に親しい友人です。彼とは一緒に勉強会をしていて、さまざまなクラシック・ムービーの研究というか、勉強したりしています。僕と彼はスタイルは全然違うと思います。映画芸術の本質的な力を、それぞれのやり方で、アプローチしている。映画史を踏まえたうえで、それぞれのスタイルで表現しようとしています。
Q.主演の脚本家が韓国人という設定は?
三宅監督:シム・ウンギョンさんと仕事したい。そこから考えました。彼女の異邦人の目を通して自分の国を描く。それはキャメラを通じて世界を捉えようとする、そのこととすごく似ていると感じます。カメラで世界を捉えよう映画という表現と同じ。彼女が素晴らしい俳優であることを知ってほしいです。
©2025『旅と日々』製作委員会上映前舞台挨拶
三宅 唱監督
ボン・ジョルノ。ロカルノ映画祭、セレクションコミティの皆さん、そして私たちの映画を観に来てくれた皆さんに感謝します。
素晴らしい女優たちと共にロカルノに戻って来られてとても嬉しいです。
彼女は韓国からシム・ウンギョンです。我々は共にバスター・キートンなどのコメディ映画のファンです。
彼女は東京から来た河合優美です。彼女は海で泳ぐのが好きなんです……(笑)。
ランチ後の上映は眠くなるものですが、ご安心ください。
本作は、ショットごとに、そして次々と移り変わる映像とシーンの連なりで、皆さんの目も耳も、その他すべての感覚を心地よく目覚めさせます。
映画をお楽しみください。ボン・ボヤージュ!
シム・ウンギョン
皆さんこんにちは。シム・ウンギョンと申します。私は李という役を演じさせていただきました。ロカルノ国際映画祭というとても素晴らしい華やかな場に参加することができてとても光栄と思っております。ここで私も今日映画を観るのを楽しみにしておりまして、皆さん、なにとぞよろしくお願い申し上げます。ありがとうございます。
河合優美
日本からきました河合優実です。ご来場の皆様、来てくださり、また私たちをここに招待してくださりありがとうございます。こちらに来ることができてとても光栄です。ロカルノ国際映画祭に来るには初めてで、三宅監督とシムさんとともにこの作品で訪れることができたことがとてもうれしいです。世界のどの国の人でも共有できる感覚がある映画だと思うので、皆さん自由に楽しんでください。ありがとうございます。
映画祭公式写真©MMarrtegani
★第78回ロカルノ国際映画祭情報 開催期間:8月6日(水)~8月16日(土)
1946 年に始まり、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンにならぶ歴史ある国際映画祭。最高賞となる金豹賞を受賞した日本映画には、衣笠貞之助監督の『地獄門』(53)、市川 崑監督の『野火』(59)など日本映画界の巨匠による傑作が並ぶ。近年では、青山真治監督『共喰い』(13)や濱口竜介監督『ハッピーアワー』(15)など世界を舞台に活躍する監督陣の作品がラインナップするなか、三宅監督作品は『Playback』(12)以来、13年振り2本目の出品という快挙となった。映画祭選考委員会は本作の選出理由を「日本映画の最高峰」と熱く評する。
© 2025『旅と日々』製作委員会ストーリー
強い日差しが注ぎ込む夏の海。ビーチが似合わない夏男がひとりでたたずんでいると、影のある女・渚に出会う。何を語るでもなく、なんとなく散策するふたり。翌日、ふたりはまた浜辺で会う。台風が近づき大雨が降りしきる中、ふたりは海で泳ぐのだった……。
つげ義春の漫画を原作に李が脚本を書いた映画を大学の授業の一環で上映していた。上映後、学生との質疑応答で映画の感想を問われ、「私には才能がないな、と思いました」と答える李。冬になり、李はひょんなことから訪れた雪荒ぶ旅先の山奥でおんぼろ宿に迷い込む。雪の重みで今にも落ちてしまいそうな屋根。やる気の感じられない宿主、べん造。暖房もない、まともな食事も出ない、布団も自分で敷く始末。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出すのだった……。
(2025年、日本)
キャスト&スタッフ
出演:シム・ウンギョン
河合優実 髙田万作
斉藤陽一郎 松浦慎一郎 足立智充 梅舟惟永/佐野史郎
堤 真一
監督・脚本:三宅 唱
原作:つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」
音楽:Hi‘Spec
製作:映画『旅と日々』製作委員会
製作幹事:ビターズ・エンド、カルチュア・エンタテインメント
企画・プロデュース:セディックインターナショナル
制作プロダクション:ザフール
オフィシャル・サイト(外部サイト)
www.bitters.co.jp/tabitohibi
公式X:@tabitohibi
公式Instagram:@tabotohibi_mv
#映画旅と日々
公開表記
配給:ビターズ・エンド
11月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)
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