吉沢亮主演の映画『国宝』(李相日監督)の国内興行収入が8月11日(月)までの公開67日間で95.3億円を突破、興収100億円到達が秒読み段階に入った。社会現象となった今回の大ヒットは、日本映画界にとって、どんな意義があるのか?
まず、挙げられるのが、実写邦画の復権だ。これまで、実写邦画の興収100億円超えは、2003年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』をはじめ、『南極物語』『踊る大捜査線 THE MOVIE』の3本だけ。近年、日本の映画興収ランキングは、アニメ作品が圧倒的な強さを誇っており、もし『国宝』が興収100億円に到達すれば、実写邦画として、実に22年ぶりの快挙となる。
前述した3本のヒット作は、すべてがテレビ局主導で製作されており、公開時には大量の広告・宣伝が投じられた。そうではない『国宝』の偉業は、画期的なものであり、これを機に、実写作品への投資が増え、日本映画界全体の多様性が推し進められることに期待が寄せられる。
『国宝』の大ヒットが偉業だといえる、もう1つの理由が、175分という上映時間の長さ。タイパや倍速視聴といった言葉が浸透した時代、たとえ長尺であっても、作品のクオリティが高ければ、観客がそれを受け入れることが証明された。これもまた、実写邦画の多様性を広げる歓迎すべき現象だ。
作品のヒットによって、伝統芸能である歌舞伎そのものへの注目度を高めた点は、文化継承の観点から意義深いこと。同時にロケ地となった京都、滋賀、大阪などへの聖地巡礼がブームとなっており、地域の活性化に寄与している点も、1本の映画がもつ影響力の大きさを示している。
さらに、カンヌ国際映画祭監督週間、上海国際映画祭、トロント国際映画祭スペシャルプレゼンテーション部門など、名だたる国際映画祭で高い評価を受けている本作が、興収100億円を突破することで、その芸術性だけではなく、興行的なポテンシャルも世界にアピールされれば、実写邦画の海外市場進出に弾むがつくことは必至だ。このように、『国宝』の大ヒットは、日本映画界にポジティブな影響を与えており、その可能性は未知数といえる。