映画『宝島』主演・宣伝アンバサダーとして全国をまわる妻夫木聡(写真は鹿児島ミッテ10での舞台あいさつ時のもの)
映画『宝島』(9月19日公開)の主演兼宣伝アンバサダーを務める俳優・妻夫木聡が、大友啓史監督とともに続けている全国キャラバン。6月7日に沖縄でスタートしたキャラバンは、8月10日までに20エリアに到達した。公開まで残り1ヶ月あまり、ここまでの手応えについて聞いた。
【画像】各地での舞台あいさつの模様
各地で行われた先行上映会は満席が相次ぎ、上映後には観客から多くの質問や感想が寄せられている。心境の変化を尋ねると、妻夫木は少し考えた後、こう語った。
「明確に“これを伝えたい”というものは、ないんですよね。観客の皆さんに感じてもらうことが一番。もし僕が答えを提示できるなら、世の中はすでに平和になっている気もするし。そうじゃないからこそ、伝えるべきものがある。だから僕らは映画をつくり、一人でも多くの人に届けたくて全国を回っている。人は答えを求めがちだけど、もっと悩んでいいと思うんです。僕たちは生きることに迷い、弱さを抱える。だからこそ、人の痛みを感じられるし、それを認め合えれば助け合える。思いやりの心が生まれるんじゃないかなって」
訪問地の中で特に印象に残っているのは、最初に訪れた沖縄。本作がアメリカ統治下の沖縄を描いているため、現地での受け止め方に不安もあったが、上映後に観客から「つくってくれてありがとう」と声をかけられた瞬間の安堵と喜びは格別だったという。
「どの感想もうれしいのですが、『ありがとう』という言葉には、その人の中で物語が続いていくような印象を持ちました。その言葉を初めていただいたのが沖縄で、まるで判子を押してもらえたような感覚でした」
2006年公開の主演映画『涙そうそう』の撮影で滞在して以来、「大好きな場所」になった沖縄。今回あらためて沖縄の歴史に向き合うきっかけの一つとなったのが、現地の親友に案内されて訪れた佐喜眞美術館(沖縄県宜野湾市)に展示されている《沖縄戦の図》だった。
「沖縄戦を描いた絵をとにかく見てほしいと言われたんです。学ぶことも大事だし、知ることも大事なんだけど、あの絵を見たときに、どこかでわかった気になってるんじゃないかと言われているように感じて。“感じる”ことを忘れていた自分に気づかされた気がしました。多くの人は“知る”をインプットすることだと考えがちですが、アウトプットも大事だと思っています。その想いがあるからこそ、ことあるごとに《沖縄戦の図》の話をしています。あの絵を見たとき、いろんな声が聴こえてきたように感じたんです。でも、それがどんな声かを僕が説明するものではないし、正解はない。本当の意味で“知る”というのは、感じたことを考え続けることなんじゃないかとも思うんです。芸術にはその感じさせる力があると思うし、その芸術の中に映画が含まれるのなら、その力を信じたいですね」
この2ヶ月間、ほかの仕事と並行して週末はキャラバンに奔走してきた妻夫木は、「逆にパワーをもらって帰る日々でした」と充実した表情を見せた。
「とにかくあらゆることに全力で向き合うこと。それが自分なりの誠意だと思っています。僕は役者ですから、『役者として何ができるのか』が何より大切。無理してまで行動を起こすことはないけれど、心からの想いは確実に何かを変える力になると信じています。だからこそ、その想いをどう届けるかに全力を尽くしたい。全国を回っているのも、そのためです。迷いはありません。ほかの仕事もあるためもちろん大変な時もありますがむしろ、『あんぱん』で演じている八木役には『宝島』での経験が大きな支えになりました」
最後に「日々が本当に学びの連続です」と語った妻夫木。公開まであと1ヶ月、一人でも多くの心に届けるため、妻夫木の全力は止まらない。