軍事作戦を描くアクション映画は、その時代の最先端の作戦、テクノロジーを取り込んで「いま」を実感させる。それを証明してくれる映画が『ランド・オブ・バッド』(8月15日公開)だ。アメリカ軍特殊部隊デルタフォースの任務に加わった軍曹が孤立してしまう。彼を支援するのが、上空を飛ぶ無人戦闘機だ。その戦闘機、MQ-9リーパーを操縦するのが、遠隔の基地にいるオペレーター。現代の軍事作戦には欠かせなくなったドローンによる攻防を、本作で観る者にリアルに体感させるのが、ウィリアム・ユーバンク監督だ。長編5作目となる本作は、米映画批評サイトの「Rotten Tomatoes」でオーディエンスの満足度が93%(2025年8月12日時点)に達するなど、絶賛を受けている。そのユーバンク監督に本作のアイデアのきっかけや、演出のこだわり、キャストへの想いなどを聞いた。
フォート・アーウィンで爆撃用の戦闘機を目の当たりに…!
この『ランド・オブ・バッド』はユーバンク監督自身によるオリジナル脚本。どのように物語が生まれたのかを問うと、きっかけは約10年前にさかのぼるという。
「監督2作目の『シグナル』をニューメキシコ州で撮影していた時のことです。徹夜の撮影を終えた私は、早朝に車を走らせていました。撮影したクレイジーなシーンを振り返りながら、『デヴィッド・リンチのような雰囲気にする必要がありそうだ…。でも、これが自分の代表作になるのもどうなのか』など、朦朧とした意識で考えていたんです。その結果、『シグナル』とは違う、新たな切り口のアクション映画を撮りたくなりました。つまり、もっと一般に受け入れられる作品を撮らないと、仕事が来なくなると感じたのをいまでも覚えています。そこでドローンを使ったアイデアが浮かび、その週末にニューメキシコのカフェで脚本を書き始めました」。
ウィリアム・ユーバンク監督の今後の作品に期待がかかる![c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.
本作で描かれるのは、JTAC(統合末端攻撃統制官)。地上部隊と航空機を連携させる専門兵士で、ドローン機による空爆や仲間の支援など、現代の戦闘には欠かせない存在だ。ユーバンクが脚本を書き始めた10年前に、すでにJTACは活躍していたという。
「プロデューサーと連絡を取り合っているうち、私がJTACについて脚本を書いていることが、JTACに伝わりました。オンラインの掲示板かなにかで気づいたみたいです。それまでハリウッドではJTACを題材にした映画がなかったので、向こうも興味を持ち、私をフォート・アーウィン(米陸軍のトレーニング基地)に招いてくれました。F35など爆撃用の戦闘機を、その場で見せてもらえたのです。『なんなら君が乗ってきたトヨタの4ランナーを爆撃することもできるよ』と提案された時は、さすがに断りましたけど(笑)。とにかくクレイジーな体験でしたよ。私が脚本を書いた直後に、やはりドローンの操縦士を描いた映画『ドローン・オブ・ウォー』が公開されましたが、あの作品は主人公がストレスに苦しみ、酒に頼るなどダークな解釈も濃厚でした。ですから私は実際に会ったJTACの人たちの仕事への熱意にフォーカスしようと決めたのです」。
地上部隊と航空機を連携させて精密な航空支援を指示する連絡係として参加したキニ―[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.
海軍と空軍、両方のJTACの実地訓練に参加したというユーバンク監督。地上の兵士の役割を実感すべく、ヘルメットとギアを装着し、丘を駆け上がったり、岩の後ろに隠れたりして、専門用語で航空機側と交信した。爆破訓練も目の当たりにしてリアルな恐怖も感じたそうだ。こうした体験によって『ランド・オブ・バッド』の物語が完成。最初にコンタクトしてきたJTACの職員は“キニー”という名で、それが本作の主人公の役名にもなった。
「キャラクター自体はキニーをモデルにしていません。敬意を表して名前を使っただけです。そしてキニーは統合末端攻撃統制官として、自身と同じ役名を演じるリアム・ヘムズワースに的確にアドバイスしてくれました。また遠隔地から無人戦闘機をオペレートするエディ・グリム大尉役のラッセル・クロウには、キニーとは別のドローン操縦士が具体的な行動について助言を与えてくれたのです。オーストラリアでの撮影が始まってからも、現地の空軍基地のドローン操縦士がラッセルをサポートしていましたね」。
ラッセル・クロウが演じるのは、空軍大尉のエディ・グリム。孤立無援の状況に陥った[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.
物語の中でキニーが取り残されるのは、フィリピン領のスールー諸島という設定。その状況を再現するために、ロケ地としてふさわしかったのがオーストラリアだったと、ユーバンク監督は次のように説明する。
「脚本を書いた時にイメージしたのは、砂漠の光景でした。でも時間が経つにつれ、アフガニスタンやイランを背景にしたほかの戦闘アクション映画に似てしまうと感じ、舞台をジャングルに変えたわけです。フィリピン国内のテロリストに関するドキュメンタリーなどを参考に演出をイメージしました。結果的に製作費の面も考えて撮影はオーストラリアで行うのが最善と判断したのです。砂漠でのアクションとは違い、緑の森で撮ることで、私は子ども時代に好きだった映画をイメージすることもできました」。
キャラクターごとにカスタマイズされた銃を使用しているなど、ミリタリーファンも細部までチェックしてほしい[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.