まるで小さな家が積み重なったような独特の外観を持つこの建物は、福岡市中心の住宅街に建つ分譲型ホテル「NOT A HOTEL FUKUOKA」。住居とホテルの間という新しいライフスタイルに対応して建てられました。
同ホテルの設計を手がけたのは、いずれも福岡を拠点とするaxonometricとNKS2 architects、インテリアデザインをA.N.D.が担当。どのようにしてホテルが生まれたのか、背景やコンセプトについてコメントをいただきました。
■背景
本プロジェクトは、福岡市の中心に位置する閑静な住宅街に建つホテルの計画。敷地は公園と神社に隣接し、コンパクトな住宅や店舗が立ち並び、庭や街路樹、公園の緑が豊かな街並みである。
ホテル周辺の街並み
本計画は、「旅するように⽣活する」をコンセプトにした新しい形のプログラムである。最新技術を導⼊した同ホテルは、ホテルにも別荘にも利⽤形態を自由に変更でき、利用者は世界各地に散らばる同一ブランドのホテルを相互利用することができる。住居とホテルの間のような、新しいライフスタイルに対応する建築が求められた。
■コンセプト
現代の多様な暮らし⽅に対応するため、⼤きなデスクがあるワークスペースに特化した部屋や、シェフを呼んで⾷事を楽しむことに特化した部屋など、それぞれ異なるコンセプトを持った客室が8室積み重なっている。
計画要件をヒアリングした当初から、多様な人々が住むそれぞれ異なる家が積み重なってできた、⽴体的な街のような空間をイメージしていた。
また、プライバシー性の高いホテルを計画するにあたり、一方的に閉じた建築ではなく、コンパクトなボリューム感や緑など街並みの特徴を取り入れることで、街に溶け込み、新しい価値を提供できるような建築をつくりたいと考えた。
周辺の戸建住宅の街並みや隣接する公園の自然とシームレスに連続する、そこに昔からあったような存在。一方で、新しいライフスタイルの象徴でもあるような存在。多様な視点、可能性を許容し、単一の視点では捉えきれないような、不確かな建築を目指した。
■課題となった点、手法、特徴
敷地は公園、神社に隣接し、周辺には低層の街並みが広がっている。客室からは近くの川、豊かな並木道に加え、小学校も見える。このような閑静な住宅街に建つ分譲型ホテルにおいて、いかにゲストのプライバシーを確保しながら、街と建築と自然とが豊かに調和できるかが、本計画のおもな課題であった。
そこで、大きなボリュームを小さく細分化し、ファサード全面に細かな植栽とテラスを分散して配置する計画とした。また、分散された各テラスには、公園に落ちる影を最小限にしながら、周辺からの視線を切るように壁を立ち上げた。結果的に、一つの小さな山とも立体的な街並みとも言えるような建築となった。