俳優・坂口涼太郎さん初の書籍『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』がついに8月6日発売! 自身の仕事観や日常を綴ったエッセイであると同時に、人生のなかで諦めてきた様々なことの記録集でもあります。本の中で提唱されている「あきらめ活動」略して「らめ活」にちなみ、代官山 蔦屋書店(東京)では9月8日まで、お涼さんが「自分を見つめすぎて迷子になっている人」に薦めたい書籍20点を厳選した「らめ活」選書フェアを実施します! フェアの実施に尽力してくださった同店の文学コンシェルジュであり、元祖・名物書店員である間室道子さんは、「ちゃぶおど」と「らめ活」選書をどう感じたのか。出版業界専門紙「新文化」の三浦記者のご協力により、なんと対談が実現! 「ちゃぶおど」執筆秘話に加え、おふたりがおすすめする特別な書籍について語ってもらいました!
間室道子さん(以下、間室):全体を通して読んで、まず坂口さんがとても正直な人だなと感じました。俳優だけでなく、ダンサーで、ピアノもできて「鬼に金棒」なのに、自信なさげなところやジタバタしている部分が出てきたりして、思わず笑ってしまいました。あとは、文章に身体性を感じました。私の考えでは、スポーツ経験がある作家は、それぞれの身体能力を文体として反映させています。
村上春樹さんのエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』(文春文庫)では、ランナーでもある村上さんが走っているところ、町屋良平さんの『1R1分34秒』(新潮文庫)は、ボクシング経験のある町屋さんがその足さばきをリズム良く文章で表現しているんです。坂口さんのエッセイもジャズ、バレエ、コンテンポラリー、ヒップホップなど様々なダンスをした経験が、作品に表れていると思います。
坂口涼太郎(以下、坂口):ありがとうございます! この本はmi-molletでの連載がもとになっていますが、今回の依頼があるまで、文章を書いたことはほとんどありませんでした。書くことは、頭のなかで考えたことを文字にする行為だと思っていましたが、これまで経験してきたことが文章に宿るのだと感じました。連載中は、読者やファンの人に楽しんでもらいたいという想いから、冷静になりながらもユーモアを込めて語りかけるような気持ちでまとめました。間室さんが身体と文体の関係性をおっしゃってくれたことで、自分の執筆時の気持ちを理解してもらえた感があり、嬉しいです。書籍化にあたっては、読み手の読後感をイメージしながら、担当編集者とともに目次構成を考えました。
間室:坂口さんが提唱する「らめ活」の由来は、当店の同フェアでも展開する、みうらじゅんさんの『さよなら私』(角川文庫)を読んで思い付いたと聞いています。エッセイのなかには具体的に出てきませんが、この書籍にも出てくる「諦めて明るい方を向いてほしい」というメッセージが込められていると感じました。POPもつくってみましたので、差し上げます。
コピーの性能が上がった今でも、必ず手描きのポップを掲出することにこだわっているという、間室さん。
坂口:ありがとうございます! 自宅の額に入れて大切にします。
――代官山 蔦屋書店の「らめ活」選書フェアの書籍20点を見て感じたことは。
間室:ショーン・タン『エリック』(河出書房新社)、笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫)など8点は既に目を通したことのある作品。様々な媒体で著名人が好きな本やお気に入りの本ベスト20を紹介しているのを見ますが、私が読んだことのある作品が1つもないことが結構あるんです。だから、坂口さんの選書には親近感が湧きました。
お涼さんの選書コメントは、ぜひ店頭でチェックしてみてください!
間室:そんななかで文学コンシェルジュとして坂口さんにお薦めしたいのは、吉本ばなな『吉本ばななが友だちの悩みについてこたえる』(朝日文庫)、町田康『しらふで生きる』(幻冬舎文庫)、東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川文庫)。3点とも“お悩み本”を選書しました。僧侶や心理学の先生は「悩みが解決しないときは、悩み方を変えてみては」とよく言っていますが、自分にとって苦しい悩みが、他人から見るとユニークで興味深い作品となることがある。人生相談をテーマにした本には、驚くほど多くの傑作が潜んでいるように思います。何か悩んでいるときに他人の悩みを読むと、解決方法が案外、見つかるのではないでしょうか。
本日8月11日から8月26日には間室さんプロデュースの特設フェアが。坂口涼太郎さんおすすめの20冊に加え、間室さんがお涼さんにおすすめした20冊をプラスした特集フェア「人生のなかで繰り返し読みたい本、自分をかたちづくったもの」が中央平台で展開します。お近くの方は、ぜひ代官山 蔦屋書店へお越しくださいね!
坂口:今回いただいた間室さんの「人生のなかで繰り返し読み返したい本、かたちづくった本」のリストを見て、江戸川乱歩『黒蜥蜴』(角川文庫)、柚木麻子『BUTTER』(新潮文庫)、益田ミリ『ツユクサナツコの一生』(新潮社)はすでに読んでいました。また、リストに登場する作家の別の作品には触れていたけれど、「この作家の、この作品か!」というものが多い。同じ作家や世界観への共通の関心があるなかで選ぶ作品が異なる点に、新たな視点と面白味を感じました。リストから、間室さんは世界中の様々な風景を想像するのが好きなのかなと思い、私の方でも間室さんにお薦めしたい本をもってきました。大森静佳『ヘクタール』(文藝春秋)、荒井良二『あさになったのでまどをあけますよ』(偕成社)、宮本輝『錦繍』(新潮文庫)、シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』(晶文社)の4点です。
間室:荒井さんの本は、エッセイのプロモーションカットにも写っていましたね! 『ヘクタール』はまだ読んでいないので、これから読んでみようと思います。
――数多くあるエンタメコンテンツのなかで、本や書店でしか味わえない魅力とは。
間室:会いたい人に会える。その人が本を書きさえすれば(笑)――それがこの仕事の魅力です。毎月、「オールタイム・ベスト」として新刊・既刊を問わず面白い! と思った本を45点紹介するだけでなく、月ごとの“ホテルにまつわる小説”など何らかのテーマを設定した書籍を含めると、月計約100点程度を選書していますが、作家や編集者はもちろん、坂口さんのような俳優やミュージシャンとも出会える。仕事の幅が広いのも、書店員の醍醐味の1つだと思います。
坂口:人生で壁にぶつかったときに、心から求めていた言葉や教えは、本を通してしか受け取れませんでした。私にとって本とは学校や会社、家族が教えてくれない情報や言葉が綴られた存在で、書店は自分の健康や精神状態を映し出してくれる場所。私にとっての心のカルテのようなものです。これだけいろんなものが溢れかえり、自分が好きなときに見ることができる環境になった分、自分自身と見つめ合える読書の価値は上がっているし、身体的な行為を求めて最後は本に辿り着く。一方で、どの本を読んだらいいか分からない人も多い。このエッセイを通じて、書店に足を運んでみたい、読書をする楽しみを知ってもらうきっかけをつくれたらと思っています。
――読者やファンにとっては嬉しいことです。ありがとうございました。
<INFORMATION>
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』坂口涼太郎・著 ¥1700/講談社
短歌、エッセイ、
自伝的フィクションが織りなす
煩悩まみれで怠惰で無謀な「生活記」
「あきらめる」とは「明らかにする」こと。
今あるものに目を向けて、自分の性格や経済力や現実にも目を向けて、
今ある環境と状態を明らかにして、お金がないのに引っ越そうとする暴挙に
なんか出ず、手の届かない憧れをちゃんとあきらめて、
今ある環境の中で工夫して生活していこう。
私はこれを「あきらめ活動」略して「らめ活」と呼ぶことを
ここに宣言いたします。私はこれからも、「らめ活」をあきらめへん。
想像すること、妄想することには制約もモラルもありません。
可能性は無限大。自分の感情を解放して、悲劇があったりなかったりするけど、
今日もなんとか生きていて、めんどくさがらずにお茶碗洗えてるやん、
靴下に穴空くぐらい頑張ってるやんという生活にカムバックする
あなたは間違いなく
最優秀人生の主人公賞受賞です。
ほんまに、おめでとうございます!
前回記事「【末次由紀×坂口涼太郎】心に残るのは「俺、大丈夫かな」と疑い続ける人。誰かのDNAになる作品に欠かせない要素とは」>>
撮影/杉山和行
取材・文/三浦俊介(新文化通信社)
再構成/坂口彩