発行部数70万部を突破した背筋の同名ベストセラー小説を、『貞子vs伽椰子』(16)、『サユリ』(24)などの鬼才・白石晃士監督が映画化した禁断の“場所”ミステリー『近畿地方のある場所について』(公開中)。本作で失踪したオカルト雑誌編集長の行方を探すうちに、数々の過去の未解決事件と怪現象から恐るべき事実に気がついていくオカルトライターの瀬野千紘を演じた菅野美穂と、オカルト雑誌編集者の小沢悠生に扮した赤楚衛二。共にホラー映画好きを公言する2人が、ネタバレぎりぎりで驚愕の撮影現場の裏側と大好きなホラー映画のことを楽しそうにぶっちゃけてくれました。
「観客がいちばん怖くなるリアクションをとらなければいけない」(菅野)
――今回、本作の出演のオファーを最初に聞いた時はどう思われました?
菅野「背筋さんの原作小説を読ませていただいて、新しいタイプの小説だと思いました。淡々と並んでいる短編がつながっていくゾクゾク感はアトラクションを体験するような没入感がありましたし、これまでに読んだことがない小説だなという読後感があったので、その映画化作品でお声がけいただいて本当に光栄なことだと思いました」
台本を読んだ時にオファーの理由がわかったと説明する菅野撮影/梁瀬玉実
――主人公の瀬野千紘役でのオファーについてはどう受けとめられました?
菅野「観ていただいたらみなさんにもわかっていただけるはずなのですが、台本を読んだ時に、『だから、いまの私に声をかけてくださったんだな』というのが理解できて。白石監督は最初にお会いした時、ホラー映画なのに『この映画のテーマは愛です』っておっしゃったんです。その時は『本気かな~?』って、まだ疑っていたんですけど(笑)、完成した映画を試写で観て、『そのとおりだな』と腑に落ちましたし、背筋さんの小説の世界観と白石監督の持ち味のいいところが重なったんじゃないかなと思いましたね」
――赤楚さんはオカルト雑誌の編集者・小沢悠生役でのオファーでしたが、いかがでしたか?
赤楚「初めてのホラー映画でしたし、もともとホラー映画を観ることが好きで、いつかはやってみたいと思っていたので、お話をいただいた時はうれしかったですし、撮影が楽しみでした。それに、小沢が過去の未解決事件や怪現象を調べるうちに怪異に巻き込まれていくところなど、いままでに経験したことのない、やったことのないお芝居ばかりだったので、そこにいちばんワクワクしましたね」
同名ベストセラー小説を映画化した本作[c] 2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
――まさに、そのやったことのないお芝居についてお聞きしたいんですが、今回初めてやったお芝居はどのあたりですか?
菅野「千紘も小沢も恐怖と次々に対峙していくんですけど、その時に観客の方がいちばん怖くなるようなリアクションをとっていかなければいけなくて。そこは、現場で私たちの芝居をご覧になっていた白石監督のジャッジをあおぐことが多かったですね」
赤楚「思ったよりも、芝居を計算で作り上げていくんですよね」
菅野「気持ちでやるというより、数学的な作業で、すべてが間と計算なんです」
赤楚「わかりやすいところで言うと、ドアを開ける菅野さんのお芝居があるんですけど、スッと開けるんじゃなくて、一瞬余韻を持ってから開けるようにしたり…」
菅野「そう。その先になにかがあるのかも?って思わせるような開け方なんです。ドラマだと逆に、説明が求められるので、できるだけ尺を短くするんですけど、モキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)のタッチでワンカットでずっと撮っていくから時間がかかってもよくて。それが映画館で観た時のお客さんのドキドキにつながっていくんです。そこはドラマの演技と全然違うところでした」
「目の前のことに対して一生懸命怖がるようにしていました」(赤楚)怖がることのリアルと演技の違いに苦戦したことを明かしてくれた撮影/梁瀬玉実
――肩に血だらけの赤い服を着た女の手が乗った小沢が叫んだり、お2人が「見てはいけない動画」を見てビクッとするようなシーンもありましたが、怖がるお芝居はいかがでした?
赤楚「血の手が肩に乗るところは、最初のテイクで白石監督に『声が小っちゃい。もっと驚いて!』と言われてあの演技になったんですけど、そこがやっぱりリアルとの違いで。実際にあんなことがあったら、声が出なくなったりすると思うんですけど、それだとお客さんを驚かすことができないから、声の出力を上げていく必要があるんです。でも、その感じが最初のうちはわからなかったので苦労しましたね」
菅野「私が演じた千紘はオカルトライターという設定でしたし、いろいろな意味で小沢のことを気にかけている設定だったので、ドーンと構えていて、あまり驚かないんですよね。だから、“この女性はなんでこんなに驚かないんだろう?”って思われるお客さんもいるかもしれません。それこそ、怪異の一つである“赤い服の女”と対峙するところなんて、普通ならもっと取り乱すはずだけど、そうはならないし、逆にあんな行動に出るんだから驚きますよね(笑)。でも、映画を観ていただけば、そのあたりの謎もすべて解けるはずです」
――でも、お芝居としてはそこでビクビクしなきゃいけなかったと思うんですけど、そこはどうでしたか?
赤楚「お芝居はそんなこと思いながらやったらダメなんですよ(笑)」
菅野「躊躇しているのが映っちゃうからね」
赤楚「だから本当に、目の前のことに対して一生懸命怖がるようにしていました」
近畿地方の“ある場所”で目撃するものとは…?[c] 2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
――赤楚さんは、徐々に怪異に巻き込まれていく役回りでもありましたが、そのサジ加減も難しかったのではないですか?
赤楚「すごく難しかったです。今回、声に関してはリアルなトーンで『ナチュラルにやってほしい』というオーダーだったんですけど、前半は特に説明台詞が多かったので、それを観客にちゃんと聞かせるのか、聞かせないのかというバランスは本当に気を遣いました」
菅野「聞かせるように言うと、白石監督の意図とちょっと外れてしまう。なので、情報をサラッと伝えるような感じだったよね」
赤楚「そうですね。まずは一度やってみて、白石監督の頭の中にはもう明確な画があるから、それと違う時は『もっとこうして欲しい』と言われて、“なるほど”と思いながらやる感じでした」
菅野「『てにをは』の表現も細かく話していたよね」
赤楚「そうでしたね」
観客の心拠りどころ的な存在となる千紘[c] 2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
――菅野さんも千紘のような役で観客を最後まで引っ張っていくのは大変だったんじゃないですか?
菅野「今回の台本を初めて読んだ時に、2人で食事をするシーンがいっぱいあったから、不思議だな~と思ったんですよ。食事をしたり、生活感を伴うシーンは怖さを半減させる気がしていたので。なのに、千紘は小沢のためにお弁当を買ってきたり、いろいろ食べさせたりするから…」
――野菜も勧めますよね(笑)。
菅野「はい。でも、現場で『もうちょっと強めに勧めてください』と言われた時に、あっ、白石監督はある童話のシチュエーションをあそこに盛り込んだんじゃないかな?ということに気づいて。監督はホラーとバイオレンス、笑いの絶妙なバランスを考えられていたような気がするし、監督はあの一連があとのシーンのゾワゾワ感をより増幅させることになる、ということがはっきり見えていたんだと思います」