北村匠海が朝ドラ「あんぱん」(NHK)で演じる嵩はやなせたかし氏がモデル。元秘書で現在はやなせ氏の事業を引き継ぐ越尾正子さんは「ドラマの嵩とやなせ先生には共通点もあるが、先生には陽気なエンターテイナーとしての一面もあった」という――。



今田美桜の“のぶ”に、やなせ夫人を思い出す

朝ドラ「あんぱん」は毎日面白く観ていますが、やなせ先生の秘書として20年以上勤めていた私にとっては、どうしても「あそこは違う」「ここ違う」「この言葉は、このときにはまだ先生は言っていない」などと気になってしまうところもあります。


『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 あんぱん Part2』(作:中園ミホ、NHK出版)


例えば、史実と大きく違うのは、二人の出会いです。ドラマでは幼なじみという設定になっていますが、実際は大人になってから、やなせ先生が高知新聞の試験を受けに行った会場で出会っています。あくまでやなせ先生と暢のぶさんはモデルで、これはドラマで、フィクションのお話ですから、それはそれで良いかと思いながら、一人で観ながらツッコミを入れつつ楽しんでいます。


今田美桜さん扮するのぶは、明るく活発で「はちきん」な様子が妻・暢さんとよく似ていますし、ふとしたときの表情や仕草からも暢さんを思い出すときがあります。


一方、北村匠海さんが演じる嵩は、初回放送のデスクに向かっているシーンが、やなせ先生そっくりでした。仕事場の雰囲気もそのまんまで、ハッとするくらいです。


北村匠海とやなせたかしの共通点とは

北村さんが先生に似ていると思うのは、繊細な部分です。ただ、北村さんはそういう面を強く出しているけれど、やなせ先生は高知の男性だからか、どこか底抜けに明るい部分もあって、派手な服も着こなしてしまうモダンな方でした。幼い頃に父親を亡くし、母に捨てられた過去を思うと、暗い性格になってもおかしくないのに、コンサートをやったりミュージカルをやったり、いつも面白いことを考えるのが得意で、それを自分も楽しんでいました。それに、難しい話をしていても、いかにも難しい言い方ではなく、面白く話す人なので、聞いている方も面白く聞いてしまうんです。


やなせスタジオ代表取締役・越尾正子さん

やなせスタジオ代表取締役・越尾正子さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)



1992年、私が勤め始めたばかりの頃、やなせ先生から聞いた話で印象的だったのは、消費税が話題になっていたときのこと。消費税が上がったことについて、お父さんやお母さんはどう見るか、子どもはどう見るか、おじいさんおばあさんはどう見るか、総理大臣はどう見るか、役所の人はどう見るかと、いろんな見方を考えて、自分はこういう見方をすると決めた上で作品を描くと言っていました。


やなせ先生は、1つの作品、1つの出来事や事象を描くにも、そういういろんな見方をしている方で、自分自身の生き方も、今起こっている問題の解決法も、いろんな視点で考えるんです。だからこそ、誰しも先生が描く漫画や、先生の出す答えに対して、納得してしまう。漫画家の目で物事をしっかり見て、答えを探して行動する。その蓄積によって、幅広い人の心をつかむ作品を描いていったんですね。


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