記事のポイント

ハリウッド俳優がポッドキャストに参入し、IPの所有を戦略的に活用しはじめている。

ストライキを機にポッドキャストへの関心が高まり、映像化を視野に入れた制作が進む。

IPをクリエイターに還元するモデルが広がり、音声コンテンツが新たな収益源となっている。

ポッドキャスト(Podcasts)が映画やテレビのスターにとって、ハリウッドでは得がたいあるもの、つまり、知的財産(IP)の所有権を手に入れる手段になりつつある。

俳優のジーナ・トーレスは7月21日、自身初となるポッドキャスト『マーダー・イン・モンテシト(A Murder in Montecito)』を公開した。ミステリー仕立ての作品で、制作会社ソノロ(Sonoro)と提携して制作された。ダニー・トレホやラミ・マレックといった俳優に続き、またひとり新たに、ハリウッド俳優が脚本付き音声ドラマのポッドキャスト分野に参入したかたちだ。

ラミ・マレックの「BLACKOUT」トレイラー

映画・テレビ業界と連携するポッドキャスト事例

ハリウッドスターがポッドキャストをはじめるのはこれが初めてではないが、映画やテレビで活動する俳優たちが、将来的な映像化を見据えて、脚本のある音声ドラマのポッドキャストにより直接的に関与し、その制作や所有に携わる動きが活発になっている。トーレスの取り組みも、その一例である。

ここ数カ月では、オーディブル(Audible)も同様のアプローチで、ハリウッド関係者との共同制作を進めている。たとえば、『モダン・ファミリー』で知られる俳優タイ・バーレルは、幼少期の経験をもとにした脚本付きポッドキャスト『The Good Life』の制作と製作総指揮を担当し、7月3日に第1話が公開された。

また、俳優でトークショー司会者のケリー・リパとマーク・コンスエロスの夫妻は、5月に音声ドラマポッドキャスト『サマーブリーズ(Summer Breeze)』を発表。両氏が所有するプロダクション会社、マイロジョ・プロダクションズ(Milojo Productions)が制作に加わっている。

ケリー・リパとマーク・コンスエロスの夫妻の「サマーブリーズ」

さらに2024年10月には、メリッサ・マッカーシーとベン・ファルコーンの夫妻が、自身の制作会社オン・ザ・デイ・プロダクションズ(On the Day Productions)を通じて、音声ドラマポッドキャスト『ヒルディ・ザ・バーバック・アンド・ザ・レイク・オブ・ファイア(Hildy the Barback and the Lake of Fire)』を手がけている。

これらの俳優にとって、ポッドキャストは単なる創作の場にとどまらない。映画業界やテレビ業界において、これまで俳優にとっては手が届きにくかった貴重なIPを、自ら所有するための戦略的手段となっているのである。

ジーナ・トーレスが語る、IPとクリエイティブの主導権

ジーナ・トーレスの「マーダー・イン・モンテシト」

テレビシリーズ「ファイヤーフライ 宇宙大戦争」や「SUITS/スーツ」で知られるジーナ・トーレスは、自身が出演・制作を手がけたポッドキャスト「マーダー・イン・モンテシト」のIPを、制作会社ソノロと共同で保有している。

同氏はポッドキャスト制作に踏み切った主な理由として、このIPを自ら所有できる点を挙げており、将来的には本作を映画やテレビ作品として映像化することを視野に入れている。

「従来の地上波テレビやストリーミング番組だと、関わる人が多すぎて、自分のビジョンをコントロールするのが難しい。でも、ソノロのような会社に、自分の願いや想いを伝えて『それでいきましょう』と言ってもらえたのは本当にうれしかった」と、トーレスは語っている。

今回のポッドキャストには特定のスポンサーがついておらず、トーレス自身が広告を読み上げる予定もない。ソノロの最高経営責任者(CEO)であるジョシュア・ワインスタイン氏によると、番組にはソノロが保有する広告ネットワークを通じて、自動車大手のトヨタやマクドナルド(McDonald’s)といったブランドの広告が配信される予定であり、トーレスはその広告収益の50%を受け取る仕組みになっているという。

「このプロジェクトにおいて、我々とジーナはパートナーであり、すべての収益源を彼女と共有することになっている」と、ワインスタイン氏は語る。「それは音声コンテンツだけでなく、テレビや映画に派生した作品の収益についても同様である」。

ポッドキャストに参入するきっかけとなった業界スト

関係者のブッキングを手がけるエージェンシー、セントラル・タレント・ブッキング(Central Talent Booking)の創業者であるジョアンナ・ジョーダン氏は、ここ1年のあいだにハリウッド関係者が次々とポッドキャスト分野に進出していく様子を目の当たりにしてきたという。

その背景には、2023年に起きた脚本家組合および俳優組合によるストライキがある。組合の規定により、ストライキ中であっても音声プロジェクトには従事することが可能だったことが、ポッドキャストへの関心を後押しした。

ジョーダン氏は、俳優がポッドキャストを立ち上げた事例として、ロブ・ロウやケニア・バリスの名も挙げている。

「ポッドキャストは取り組みやすい領域だと思う。なぜなら、予算の管理がしやすく、望む形で企画を進めることができるからだ。そして、それが成功すれば、次のステップへとつながる多くのチャンスが生まれる」とジョーダン氏は語っている。

トーレスのようなスターによるポッドキャスト進出は、俳優が単に声を提供するだけでなく、コンテンツの主導権を握るという、新たなトレンドの一端を示している。

この変化は、メディア業界全体で進行する「コンテンツの所有権」や「収益モデル」の見直しとも連動しており、企業側では、ポッドキャストをクリエイター主導のIP創出の手段として捉える動きが広がっている。

また、ポッドキャストは、ハリウッドが生み出す娯楽コンテンツを拡張する有望な領域であり、ときに映像作品の原点にもなり得るという認識が浸透しつつある。

IP獲得を後押しする企業の戦略

ソノロによれば、俳優主導のポッドキャスト作品は、一般的なポッドキャストに比べ、テレビ化や映画化に向けた関心がより集まりやすいという。ただし、具体的な数値は明かされていない。

同社のCEOであるジョシュア・ワインスタイン氏は、こうした映像化しやすいIPの獲得こそが、トーレスをはじめとするハリウッド関係者がソノロのような音声制作会社と連携する大きな動機になっていると語る。同氏によれば、同社が手がけるリミテッドシリーズ作品のうち、およそ50%がハリウッド関係者との協業によるものだという。

「このような関係者のなかには、誰もが知る俳優もいれば、声や映像には登場しない脚本家やプロデューサーなど、舞台裏のクリエイターも含まれている」とワインスタイン氏は述べている。

IPの価値を重視するほかのポッドキャスト制作会社

IPの所有を、ポッドキャストのクリエイターや関係者が受け取るべき恩恵として位置づけているのは、ソノロだけではない。

ポッドキャストとそのIPの所有権をクリエイターに提供することをビジネスモデルの中心に据えている制作会社としては、コメディアンのトム・セグラとクリスティーナ・パズシツキーによるポッドキャスト『ユア・マムズ・ハウス(Your Mom’s House)』を手がけるYMHスタジオズ(YMH Studios)や、スティーブン・バートレットがホストを務める『ザ・ダイアリー・オブ・ア・シーイーオー(The Diary of a CEO)』の制作会社フライトストーリー(FlightStory)が挙げられる。

フライトストーリーのCEO、ジョージー・ホルト氏は次のように語っている。

「有名人や著名なクリエイターがポッドキャストに参入する大きな動機のひとつは、自分自身のオーディエンスを所有できる点にある。コンテンツをストリーミングサービスやケーブルテレビで配信するとなると、その視聴者は実質的に自分のものではなくなる。そうしたオーディエンスは、自らが築き上げたものではなく、ネットワークの所有物となってしまう。だからこそ、自分自身のIPの構築をはじめなければ、本当の意味で所有者としての影響力は持てないのだ」。

[原文:Podcasts become a strategic IP play for Hollywood talent]

Alexander Lee(翻訳:緒方 亮/ガリレオ、編集:藏西隆介)
Image via SONORO: A Murder in Montecito/YouTube

Leave A Reply