今年4月、「バナナマンライブの会場」としてお笑いファンにも馴染み深かった東京・俳優座劇場が閉館。バナナマンにとっては昨年2024年8月に開催したコントライブ「bananaman live W」が俳優座での最後の単独ライブに。その公演の模様を収録したBlu-ray&DVDが8月7日に発売された。
2019年に「S」、2022年に「H」、2023年に「O」と、設楽、日村、“3人目のバナナマン”こと作家オークラの頭文字をタイトルに付けてきたシリーズのラストを飾る今作「W」。これまでバナナマンの2人がたくさんの笑い声を浴びてきた場内で撮影されたビジュアルは、物悲しくも晴れやかにも感じられ、4つのアルファベットで完成した“SHOW”にバナナマンがどんな思いを込めたのか、考えずにはいられない。
このインタビューでは2005年の「good Hi」以降、20年にわたって毎年のように立ってきた俳優座のステージでバナナマンが感じたこと、そして今後のバナナマンライブについて聞いた。スチール撮影はバナナマンファンでありカメラマンとしても活躍中のかが屋・加賀に依頼。持っているほぼすべてという機材を持ち込み、2人の魅力的な表情を引き出してくれた。
取材・文 / 狩野有理撮影 / 加賀翔(かが屋)
「S」のあとに決めた「W」
──昨年開催の「bananaman live W」についてお話を伺いにきました。
設楽統 去年なんだね。「これやったのいつだっけ?」ってぐらい懐かしく感じます。
日村勇紀 そうだね。1年前とは思えない。
設楽 今日久しぶりにオープニングの衣装を着ているんですけど、「あれ、俺がこっちだったっけ?」って思うもん(笑)。そのくらい昔のことのようで。
日村 俺なんてもうきついもん。ちっちゃくなっちゃってるよ。
──ズボンがパッツパツに……。
設楽 オープニングの衣装ってここ最近のシリーズではメインビジュアルと同じ格好にしているんですよ。だから撮影の前に採寸して作ってもらっているんですけど、コントをやる段階になったら日村さんが「これじゃできない」って言い出して。作り直してもらったんだよね。
日村 そう。ピチピチすぎて座れないから。それがもう今こう。ピッチピチ。
設楽 赤ちゃんのロンパースみたい(笑)。
※カメラマンのかが屋・加賀が激しくシャッターを切る。
設楽 ちょっと、カメラマンさんがすごいんだけど(笑)。
日村 張り切ってるねえ!
──「S」「H」「O」に続き、今回の「W」で「SHOW」が完成しましたね。
設楽 カッコいいですよね。
日村 カッコいい。“ショー”になっちゃった。
──“ショー”になっちゃうとは、「S」のときには思いもしませんでした。
日村 私もです(笑)。
──あはははは(笑)。
設楽 僕もです。
──え、そうなんですか?
設楽 「S」のときは考えていなかったんですよ。設楽の「S」、日村の「H」、オークラの「O」で、頭文字をタイトルに付けることは決めていたんですけど、最後を「W」にしようっていうのは「S」をやったあとに決めました。年に1回ライブをやるから、4年がかりで完成するなと。
日村 なるほどね。
設楽 でもコロナで単独をやらない年があったから、4年じゃないんだよね。
日村 そうそう、2年空いちゃってるから。
設楽 そこはちょっと想定外でしたけど。
俳優座への深い思い
──俳優座では今回が最後の単独ライブとなりました。閉館はやはりお二人にとっても寂しい?
設楽 聞いたときはびっくりしました。寂しいですよね、なくなっちゃうなんて。
日村 毎年ライブをやってきた場所だからね。ここでやるのが当たり前みたいになっていたし。
設楽 そう、当たり前じゃなくなるんですよね。僕らは30年以上ずっと単独ライブやユニットライブをやっていますけど、稽古中になくなっちゃうお蕎麦屋さん、中華屋さんとかってけっこうあるんですよ。でも劇場までなくなっちゃうっていうのは驚いた。
日村 これは思わなかったね。建物は確かに古いけど、それがすごく素敵だったから。
設楽 色気のある劇場だよね。
日村 本当にそう。なくなるのはもう寂しいです。大変寂しい。
──DVDのジャケットにもなっているメインビジュアルは俳優座の中で撮影されていますね。
設楽 本来俳優座さんはあんまりこういう撮影には貸していないらしくて。今回は最後ということで撮らせてもらいました。20年間お世話になったんですけど、ゲストで使わせてもらっていた年数で言うと僕らが最長なんですって。このメインビジュアルは何もセットを組んでない状態で撮っているんですけど、これが俳優座のそのままの姿なんです。
日村 ステージのうしろがこんなにカッコいいんだっていうね。俳優座自体がカッコいい。歴史がないとこの味は出ないからね。
設楽 これまではずっと、コント中の背景を白いパネルにしていたんですけど、今回はもとの状態に似せたセットにしました。ラストのネタだけは変えちゃいましたけど。
日村 そうなんだよね。だから今回映像を見たら、「あれ? なんか黒いな」と思ったんだよ。
設楽 今回のライブって全体的に暗いんだよね。白いパネルを立てないから。それによってすごく大人っぽい雰囲気になった気がする。
日村 スタートもこのスーツだから余計に大人っぽいし。
設楽 ね。
日村 だからもう……悲しいよ。
設楽 悲しいライブだよね、今回(笑)。
日村 「もうないんだ、これ」とか思うとさ。悲しい。
──記憶に残っている俳優座でのエピソードを教えてもらえますか?
設楽 まず最初にこの会場を取れたときのことが思い出深いです。歴史ある俳優座さんで、こういうお笑いの単独公演なんてやらせてくれないんじゃないかな?と思っていたので。20年前、全国ツアーをやるときに会場が押さえられてないっていうトラブルがあったんですよ。マネージャーが突然いなくなっちゃって。そんな中、唯一押さえられていた東京の会場が俳優座だったんです。今回のネタにも入れているエピソードではあるんですけど。
日村 もう俳優座でしかコントをやってる記憶がないぐらい、“ここの人”になっちゃってるよね。
設楽 若いときはけっこういろんな劇場を借りていたんだけどね。ここ直近20年は俳優座さんでやらせてもらってたから。
──お笑い好きにとっては俳優座といえばバナナマン、みたいなイメージはあります。
日村 いやー、うれしいね。
設楽 本当は演劇の人の聖地みたいなところなんでしょうけど。
日村 あとは、とにかく暑いっていうのが思い出ですね(笑)。毎回汗だくでやってました。
──設備が古くてエアコンの効きが弱かったんですよね。
日村 俺なんかネタ1本やったらすぐビチョビチョでした。
設楽 「S」「H」「O」「W」のシリーズの完結でもあるし、俳優座ではラストっていう自分たちとしても節目みたいな感じだったから、「W」は思い入れの強いライブになりましたね。
各コント見どころ紹介
──ではライブ本編の話に移っていきましょう。
Wretched man
「この気持ちは恋なのか?」「何をしたら友達?」「普通の人とは?」そんな“線引”について話す2人の会話劇。
設楽 日村さんが口から万国旗を出すシーンがあるんですけど、日村さんって口の中に物を入れると「オエッ!」って吐きそうになっちゃうんですよ。手品をやろうとしているのにオエってなっちゃうっていう、その感じが出るだけで面白いかなと思って台本を書いたら、本番どれくらいの量だろうね?
日村 いやー、どれぐらいだろう。ヤクルト1本ぐらいは出てるんじゃないかな。
設楽 唾というか、透明な液体がビャッと出ちゃって(笑)。
日村 練習のときから100発100中で出てたから。
設楽 それが出た瞬間、このライブの成功は確信しました。これがまた俳優座さんっていうコンパクトな劇場だから、うしろの席からも肉眼でけっこうよく見えるんです、日村さんから出たものが。あそこでドーンとウケると「あ、大丈夫だ」って思えました。
日村 音もなんか、ペタン!っていい音するんです(笑)。でも本番カラッカラで何も出なかったらどうしようっていう不安もありましたね。口ん中カラッカラになったりするから。
設楽 あと、本当に吐いちゃうと笑えないもんね。
日村 それも全然ありえる。だから本番前食べなかった。
設楽 でも毎回ちゃんとできるっていうね。プロだよ、プロ。
日村 まあ、あの唾があろうがなかろうがこれはネタが面白いよ。会話劇でトントントンと進んでいく、言ったらある意味バナナマンの王道真骨頂みたいなネタですよね。オープニングだから一番緊張もしました。板つくときなんかちょっと震えてたし。座ったときにちゃんと正面向けてるのかなとか、不安なことがいっぱい起こるんです。設楽さんを触って本当にいるか確かめたいけど、けっこう遠くにいるから手も届かないし。
設楽 この「S」「H」「O」「W」では大体チラシと同じような格好で始まるっていうのを意識しているんですけど、相手を触って位置を確かめるんですよ。
日村 それができないときもあるから、むちゃくちゃ不安でしたね。
──ではこのコントが成功すると一気に安心できるわけですね。
設楽 「SHOW」ってことで、このネタの中には渥美清さんやチャップリンの名言のエッセンスを入れたりもしていて、さっき日村さんも言ったように会話劇で進んでいくからちょっと大人っぽくてしっとりしすぎるかなと思いきや、ああいうアクションも入ることによっていいバランスのネタになったなと思います。
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俳優座閉館、気になる今後のバナナマンライブ