写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

変わりゆく雑誌の読み方

かつて雑誌は、毎月の発売日に書店へ足を運び、その時々の特集に触れるものとして親しまれていました。しかし近年では、雑誌との付き合い方が大きく変化してきているように感じます。必要なときに、必要な情報を取り寄せるといった「選択的」な読書スタイルが雑誌にも適用されつつあるのではないでしょうか。

この変化には、雑誌自体が隔月刊や季刊へと移行する傾向も影響しているように思います。定期購読をして毎号読むというよりも、関心のあるテーマや特集が組まれた号だけを手元に置く、という読者が増えたということなのかもしれません。実際、私自身も何かを調べる際は、関連するバックナンバーを取り寄せて読むことが多くなったように思います。毎号購読している雑誌は、今では数えるほどしかありません。

しかしその一方で、特定のテーマを深く掘り下げた雑誌が増えたことで、雑誌というメディアの本質的な価値が再確認されてきているようにも感じます。ウェブでは断片的にしか掴めない知見が、雑誌という編集されたメディアのなかで、系統的に、そして豊かに展開されていることが多くあります。

そんなわけで、今日は最近私が購入した雑誌のなかから、いくつかご紹介したいと思います。

『+81 Vol.95: A Visual Encycl. of 100 Years Graphic Design JAPAN』ディー・ディー・ウェーブ(編集)(河出書房新社/2025年)

1冊目は、『+81 Vol.95: A Visual Encycl. of 100 Years Graphic Design JAPAN』。グラフィックデザイン誌『+81』の第95号は、1922年の「赤玉ポートワイン」の広告を起点に、現代に至るまでの日本の広告ビジュアルを俯瞰できる特集号です。

とりわけ1980年代の黄金期や、私自身が写真を学んでいた1990〜2000年代の広告表現を見返すことで、当時の写真の使われ方、表現としての写真がどのように活用され、また影響を受けてきたのかを、改めて別の視点から読み解くことができました。

本号以外にも、同誌のバックナンバーにはストリートアートやサステナブルデザイン、バウハウスなどを取り上げた特集が多数あります。グラフィックデザインの「今」を理解するうえで、極めて重要な視座を与えてくれるメディアだと思います。気になるテーマの号があれば、ぜひ手に取ってみてください。

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『スペクテイター〈53号〉』エディトリアルデパートメント (著)(幻冬舎/2024年)

2冊目は『スペクテイター〈53号〉』です。本号では、「1976年」を軸に、日本のサブカルチャーがどのように花開いたのかを、「アニメ」「オカルト」「パンク」「ムック」など多角的な視点で掘り下げています。1978年生まれの私にとっては、自分が体感する前の時代のことですが、80~90年代のカルチャーの原点があり、自分が夢中になった時代の記憶の「前史」として、非常に刺激的な特集でした。

この雑誌の魅力は、既存のカテゴリに収まりきらない独自のテーマ設定が毎回行われていることです。過去号には、ヒッピー、自然、自己啓発、カレー、ボディトリップなど、他にはないユニークな切り口の特集が並びます。毎号がまさに“文化の地層”を掘り起こすような体験になるでしょう。気になっているライフスタイルやカルチャーがあれば、是非バックナンバーを掘ってみてください。

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『ユリイカ 2024年9月号 特集=石 ―寡黙の極にある美―』内藤礼(著)、宮田珠己(著)、山田英春(著)、青柳菜摘(著)、長野まゆみ(著)、いしいしんじ(著)(青土社/2024年)

最後は、『ユリイカ 2024年9月号 特集=石 ―寡黙の極にある美― 』。現在私が制作中の作品テーマの1つに「石」がありまして、その資料として購入した号です。『ユリイカ』は、何かを調べるときにまずはバックナンバーを検索する雑誌の1つです。写真表現に関する特集などもありますし、1人の作家やテーマを掘り下げる特集も多く、たとえばデヴィッド・リンチやポール・オースター、ロラン・バルトに関する号など、私が関心を寄せるアーティストも数多く取り上げられています。

本号では、「石」というある種漠然としたテーマに対して、美術・文学・思想など多様な観点から論考が寄せられています。ウェブ検索ではたどり着けないような視点や分析が網羅されており、非常に多角的な視点と発見を与えてくれるもので、私にとっては制作における重要な参考書となった1冊です。

『ユリイカ』のバックナンバーは本棚にもたくさんあり、何度も読み返している号は多くあるのですが、個人的に1番印象に残っているのは、「荒木飛呂彦」特集でしょうか。表紙の絵も素晴らしく、棚からたまに抜き出しては眺めています。

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