「生まれ変わったら長澤まさみさんになりたい」
FRaUwebでエッセイを連載をしている「ひみつのうつ子ちゃん」はSNSのプロフィールにこう書いている。彼女だけではなく、同じように思っている人は少なくないだろう。
多くの作品で魅了する長澤さんは、なぜここまで私たちを惹き付けるのか。
「FRaU」SDGs特集号のカバーに登場した長澤さんにインタビューする前編では、『ドールハウス』までにも数々の代表作を持つ長澤さんに仕事に対する思いを聞いた。
後編では、映画でもキーワードのひとつともいえる「うらやましい」という気持ちについて、長澤さんの率直な言葉をお届けする。
自分の狭い視野が自分の道を狭めていく
「固定観念」という言葉がある。
「この人はこういう人だろう」「女性なんだからこうだろう」「仕事はこうやらないとだめだろう」というなにかにおける「決めつけ」だ
なかでも「母親はこうでなくてはならない」という固定観念は、SNSでも大きな議論になる。「母性神話」「母たるもの」……むしろこういう言葉は「ちゃんとしたい」と真面目に思う人ほど苦しむ言葉になってしまうのかもしれない。
長澤まさみさんが映画『ドールハウス』で演じる鈴木佳恵は、愛に溢れた母親だ。子どもたちをのびのび遊ばせてあげたい、おやつも出して喜ばせてあげたい。そう思って行動するが、5歳の愛娘・芽衣を不慮の事故で亡くしてしまう。
セラピーも受け、瀬戸康史さんが演じる夫の忠彦も忙しい総合病院の看護師の仕事をこなしつつ寄り添うが、なかなか立ち直ることができずにいた。そんなときに骨董市で出会ったのが芽衣にそっくりな人形だった。佳恵はその人形を購入すると、まるで本当の自分の娘のようにかわいがり始め、穏やかな心を取り戻していく。そんな中で佳恵と忠彦の間に新たな命が芽生え、真衣が誕生。真衣の世話につきっきりになる佳恵の横で、「不思議なこと」が次々と起こり始めるのだ。
(C)2025 TOHO CO.,LTD.
長澤さんは言う。
「主人公の佳恵は主婦で、狭い世界の中に生きています。価値観もたぶん、多くの人がそうであるように固定観念に縛られているのではないかな……。自分の狭い視野がどんどん自分の道を狭めていくような怖さが根底にあるから、この物語はゾクゾクしていくんだなとも感じました。
だから日々の生活をして行く中で、『こうでなくてはいけない』と思ってたことに自分がどのように向き合っているか、気づきを持って生きていけるか考えないとな、と思いましたね。
佳恵に限らず、自分が信じているものだけの世界にいると、ものすごく視野が狭くなっていきます。そこからはみ出すには勇気がいるけど、やっぱり自分の人生を楽しもうと思うと、その一歩がとても重要だったりします。私は、その一歩を大事にして、もっともっと視野を広く持って人生を送りたいです」
ペットボトルを再利用したリサイクル可能なナイロン糸から紡がれた素材のカーディガン 317,900円(ステラ マッカートニー/ステラ マッカートニー カスタマーサービス)撮影/熊谷勇樹
「大切ななにか」を失った経験がある人は少なくないだろう。佳恵の苦しみは「良き母でなくてはならない」のに、自分の不注意で失ってしまったと感じているからこそ、大きかった。そこから立ち直ることができず、髪を整え、洋服を着替えさせ、ベビーカーに乗せて散歩にいくほど「人形を我が子のようにケアする」ことで少しずつ自分を取り戻す。もちろん、グリーフケアにはさまざまなかたちがあってよいし、何より大切なのは元気になることだ。しかし佳恵が「そこまでしなければ自分を取り戻せなかった」理由の背景に、「良き母でなくてはならない」という固定観念もあったともいえる。
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「こうでなくてはならないということが、自分を苦しめていることに繋がっている。この映画にはそういう問いがあるように思います」