2025年6月27日、東京・中野坂上のイード社セミナールームにて、トークイベント「Dialogue for BRANC #06 日本にアニメーション映画祭、どうして必要なんですか?」が開催された。ゲストにアニメジャーナリストであり、2025年12月に第1回が開催される「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」のアーティスティック・ディレクターを務める数土直志氏を迎え、Branc編集長の杉本穂高がMCを担当。世界最大のアヌシー国際アニメーション映画祭の現状報告から、日本で新たな映画祭を立ち上げる意義まで、熱い議論が交わされた。
視聴チケット購入はこちらからきっかけは故・堀越謙三氏の「大風呂敷」
数土氏はANIAFFのディレクターに就任する前は、新潟国際アニメーション映画祭のプログラム・ディレクターを務め、映画祭に関わるようになった。イベント冒頭、数土氏はアニメーション映画祭に関わることになったきっかけを語った。それは、新潟国際アニメーション映画祭を立ち上げた故・堀越謙三プロデューサーとの出会いだったという。
数土氏は、「4年ほど前、堀越さんから『新潟でやりたいことが3つある』と話を持ちかけられた」と振り返る。その3つとは「美術館の設立」「アニメーション映画祭の開催」「批評家発信プロジェクト」だった。その中で数土氏が「国際アニメーション映画祭は絶対にやるべきだ」と気軽に答えたところ、様々な経緯を経て、最終的に自身がディレクターを務めることになったという。「堀越さんは『最初からそのつもりだった』と言っていました。本当に自由でわがままな人でしたが、こういう人が世の中を動かすのだと感じました」と、苦労を滲ませながらも故人を偲んだ。
なぜ、数多くある映画祭の中で「長編主体」のアニメーション映画祭にこだわったのか。数土氏は「明確な差別化」を理由に挙げる。世界のアニメーション映画祭は伝統的に短編作品が中心であり、長編を主体とすることで、カンヌやベルリンのような世界的な映画祭のフォーマットをアニメーションに応用し、アヌシー国際アニメーション映画祭に次ぐ「世界で2番手は取れるんじゃないか」という目算があったと戦略を明かした。
世界最大「アヌシー映画祭」のリアルと映画祭の機能活況を呈するマーケットと「リクルートの場」としての役割
映画祭の重要な機能として、作品の売買が行われる「マーケット」がある。数土氏は、世界的にリアルなアニメーションの見本市で「唯一活発なのがアヌシーのマーケット(MIFA)だ」と指摘。MCの杉本氏も、日本のブースが大変な賑わいを見せていたことに感動したと語った。
さらに数土氏は、アヌシーの特異な機能として「リクルーティング」を挙げる。「MIFAのスタジオブースは、ビジネスの取引の場というより、学生のリクルーティングの場なんです」。世界中からアニメ業界を目指す若者が集まるため、アヌシーは才能発掘の場としても重要な役割を担っていると分析した。これは実写の映画祭ではあまり見られない、アニメーション映画祭ならではの特徴と言えるだろう。
話題は、先日開催されたばかりの世界最大のアニメーション映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭2025」のレポートへ移った。
MCの杉本が、初参加した今年のアヌシーの様子を写真入りのスライドで解説。アヌシーはとにかく上映本数もシンポジウムも数が多いため、その全貌を個人で把握するのは困難だ。さらに、連日のようにあちこちで人脈作りのためのパーティが開催されている。シンポジウムも充実した内容ばかりで、その一部はBrancでレポート記事を配信している。
映画祭は作品を発見し、「商品」に変換する場
映画祭は、優れた作品を発見し、世界に流通させる「商品に変換する場」でもある。その好例として、ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督が挙げられた。同監督は数年前に『Away』でアヌシーのコントルシャン部門グランプリを受賞して注目を集め、今年の新作『Flow』は世界中で配給されるヒット作となった。「まさに映画祭が監督を発見し、ブランドにして、次回作をプッシュした流れだ」と数土氏は語り、インディーズ作品が世界へ羽ばたく上で映画祭が果たす役割の大きさを強調した。
愛知・名古屋の新アニメーション映画祭(ANIAFF)が目指すもの
新潟での3年間の経験を経て、なぜ今、愛知・名古屋で新たな映画祭を立ち上げるのか。数土氏は「持続可能性、基本的にはお金の問題」と率直に語る。新潟で培った経験とコンセプトを延長線上で実現するため、愛知・名古屋という新たな地を選んだという。
アジアにおける国際的な発信拠点へ
「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」が目指すのは、カンヌやベルリンのような実写映画祭のフォーマットをアニメーションで実現すること。長編コンペティションを主軸に据えつつ、短編、テレビシリーズ、XR/VR、ミュージックビデオまで、アニメーションを広く捉えたプログラムを構想している。
特に重視しているのが、「アジアからの発信」だという。数土氏は「東アジアから東南アジアを見渡しても、国際的に価値のあるアニメーション映画祭はほとんどない」と指摘。地理的にアジア各国からアクセスしやすい日本で国際的な映画祭を成功させれば、「ここに来ればアジアの全ての情報が一望できる」と欧米のバイヤーやクリエイターにとっても価値のある場になりうると、そのビジョンを力強く語った。
成長への課題と展望、そして可能性
映画祭を成功させるためには、作品の質はもちろん、バイヤーや投資家が集まるマーケットの活性化、メディアへのアピール、そして地域からの理解と協力が不可欠だ。
数土氏は、新潟での経験から、上映作品のラインナップの質が海外の配給会社からの評価に直結した手応えを語る一方、「ポッと出の映画祭にどうやって来てもらうか」という初回開催の難しさも吐露した。それでも、「日本はアニメ大国だと思われており、作り手は我々が思う以上に日本で見てもらうことに意味を感じている。この優位性があるうちに価値を積み上げたい」と意気込みを見せた。
イベントの最後には、「夢は大きく語っておけば、いくつかは実現する」という堀越氏の言葉を引用し、日本、そしてアジアを代表するアニメーション映画祭へと育てていく決意を表明し、トークセッションを締めくくった。
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