のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)がようやく結ばれた。NHK連続テレビ小説『あんぱん』放送開始からおよそ4カ月。折り返しを迎え、全体の後半パートに入っている第17週の第85話での出来事だ。『あさイチ』(NHK総合)「プレミアムトーク」に出演していた東海林編集長を演じる津田健次郎による「よかったにゃー! のぶ! 柳井! ここまで長かったにゃー!」という“朝ドラ受け”が視聴者の声をそのまま代弁してくれている。

 筆者の記憶ベースで、朝ドラヒロインがその相手(しかも幼なじみという条件)と結ばれるまでの期間が長かったのは、福原遥が主演を務めた『舞いあがれ!』(2022年度後期)。舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)が互いの気持ちを確かめ合ったのが第96話だった。『舞いあがれ!』の場合、舞と貴司がそれぞれ自身の気持ちと向き合うための存在として、史子(八木莉可子)と北條(川島潤哉)が登場したことが大きな意味合いにあった。そこでようやく2人は互いに相手が特別な存在であることに気づくことができたのだ。

『舞いあがれ!』ずっと想い合ってきた舞と貴司の20年 一気に溶けた“幼なじみ”の距離感

<君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた>
 この歌の裏に“君”を想う溢れんばかりの愛情と心からの賛歌が降…

リアルサウンド 映画部

 『あんぱん』の場合、朝ドラヒロイン史上最も鈍感とも言えるのぶと、好きな気持ちを言い出せずにいる嵩という組み合わせ。高知と東京という場所で2人は幼い頃から付かず離れずの距離感にいた。のぶが嵩への潜在的な思いに気づいたきっかけは、高知での地震。高知への通信手段が断たれ、安否の状況が分からない中で、のぶはようやく嵩の存在の大切さに気づくのだった。

 八木(妻夫木聡)から聞いた戦地での嵩の言葉も、のぶが彼をなくてはならない人だと気づくポイントにあったが、一方の嵩の背中を後押ししていたのは蘭子(河合優実)だった。嵩がのぶへの思いを押さえ込んでしまっている理由に、戦死した千尋(中沢元紀)の存在がある。千尋は愛するのぶに思いを告げられぬまま日本に帰ってくることはなかった。その思いの強さに嵩は敵わないという引け目を感じていたが、そんなことは千尋は望んではいないと蘭子は嵩を説得する。蘭子も出征する豪(細田佳央太)と思いを通じあい、一緒の時間を過ごすことができた。

「うちはどんなに思うても、もう気持ちを伝えることはできん。戦争で死んだ人の思いを、うちらあは受け継いでいかんといかんがやないですか? 人を好きになる気持ちとか、そんなに好きな人に出会えたこととか、なかったことにしてほしゅうないがです」

 この蘭子の言葉が後押しとなり、嵩は徹夜で『月刊くじら』の表紙と挿絵を描き上げ、高知から東京へと向かう。嵩にとって絵を描くことは、自身と向き合うこと。そこにはいつだってのぶの姿があった。

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