ドタバタなのに涙してしまったのは、『半分、青い。』(2018年度前期)の上京劇だ。ヒロイン・鈴愛(永野芽郁)は漫画家になるため東京に行こうとするのだが、母・晴(松雪泰子)の大反対にあう。鈴愛は片耳が聞こえないため、それを案じてのことだった。晴は、人と競争したりせず、平凡でも穏やかに生きてほしいと願い、コネを使って役所の仕事まで用意していた。しかし、鈴愛は「お母ちゃん。漫画は競争の世界やない。夢の世界や。私は、夢の種を手に入れたんや」と訴える。

 実は、晴は寂しくてたまらないだけだった。「あんたは楽しいばっかりでいいね。お母ちゃんは、お母ちゃんは寂しくてたまらん」といって泣くのだ。そうして晴は散々暴れるのだが、最後には、同じ日に鈴愛の幼なじみである律(佐藤健)を産んだ和子(原田知世)に諭され、ようやく鈴愛の可能性に思い当たる。

「あんたには、夢見る力がある。憧れる力がある。あんたのそばにいて、あんたを育ててきて、お母ちゃん、そういうの何回も見せてもらった気がする。もしかしたら、本当にもしかしたらやけど、親バカかもしれんけど、あんたの夢をたくさんの人が一緒に見るのかもしれん。あんたの作る世界を楽しみにするのかもしれん。鈴愛の夢は、お母ちゃんの夢や」

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リアルサウンド 映画部

 旅立ちの前夜、鈴愛は子どものように母の布団に潜り込み、子ども時代の終わりのような時間を噛み締める。そしてバスターミナルから大粒の涙を流しながら東京へと向かうのだ。

 『あんぱん』ののぶと嵩の上京はどんなふうに描かれるだろう。母や姉妹たち、高知新報の面々はどんな表情を見せるだろうか。視聴者としても、思い入れのあるキャラクターたちとの別れでもある。寂しいながらも、新章への扉が開く時を楽しみにしたい。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

尾崎真佐子


尾崎真佐子

生活情報誌の編集長やレシピサイトの広報部長を経て、50歳をすぎてからフリーランスに。暮らし、レシピ記事のほか、タレント取材なども担当する。出版・ライフスタイルコンサルタントとしても活動中。

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