この世界で、Am Ampだけが鳴らせる音があった。
俳優、ヴィジュアル系、ロックなど異なるジャンルのメンバーが集まって結成された、異色のロックバンド・Am Ampが結成2周年記念ツアー「Category or Unusual?」の東京公演を7月11日、Shibuya WWWにて開催した。
ジャンルレスを掲げ、ヴィジュアル系、ロック、オルタナティブなど多様な要素を融合し、心に残るエモーショナルな楽曲が特徴のAm Amp。「アツくてヤバイ4人組」として、観客の心を掴むエネルギッシュなステージが評価されているロック・バンドだ。
定刻を迎えSEが流れるなか、これまでの歴史を振り返る映像がスクリーンに投影される。さらに続いて映し出されたのは、会場であるShibuya WWWへ乗り込む4人の姿。さらに5、4、3、2、1の、カウントダウンからロゴが現れ、メンバーが登場した瞬間、観客の鼓動は一斉に跳ね上がった。——Am Amp、結成2周年。ジャンルレスを掲げる異色の4人が、この夜、渋谷に“感情の塊”を投げつけにやってきた。
オープニングを飾ったのは「bakemono」。須賀京介の鬼気迫るようなボーカルが空間を切り裂き、観客は一瞬にしてAm Ampの世界観に引き込まれた。序盤より客席からは雄叫びが響き渡り、フルスロットルで熱量を上げる。彼らはさらに「HEAT」「トレモロ彼女」「うらぎり」を立て続けに。JOHNのオルタナティヴ・ロックの影響を感じるギター・サウンドがまるで感情の断片を刻むように響き、宮城紘大のパワフルなドラムが内臓を直に刺激する。さらに、ベーシスト・矢沢もとはるは、ダンスでも興じるかのごとくステップを踏み、彼の生み出す低音が静かに、でも確実に、観る者の心に深く染み込んでいった。
中盤は、「爪に関する曲」というヒントをもとに「マニキュアだっけ?」「ペディキュアだっけ?」とボケまくるくだりをはさんで、新曲「ジェルネイル」でスタート。日常の痛みすら笑い飛ばすような遊び心が顔を覗かせる。ライブ中とは想像もつかないほど、彼らのMCの時間はメンバー全員がファニーで、「こんなにも親しみやすい人たちなのか」と正直に言うと驚いた。次は「チャイを飲みたい!」のコールアンドレスポンスから「チャイラッテ」。フロアをすっかり笑顔にしたあとは、「責愛」、「夏的小故事」といったラブソングを続ける。しっとりとしたサウンドでShibuya WWWを大きな愛で包み込んだ。さらにライブはここから「慕情」でシリアスに色彩を変化させる。初期の頃にリリースした「chime ga nattara」で、バンドの振り幅を見せた。
ボーカルの須賀は、MC中に自身の言葉で、バンドへの想いや仲間との絆を改めてファンに届けた。須賀は、「2023年6月にこの4人でAm Ampを始めることを発表して、最初のライブをその年の7月27日にやるとプレスリリースで伝えました」と振り返りつつ、「実は最初は僕一人だったんです。そこからこの3人を誘って、ようやく4人組のバンドとしてスタートできた」と、グループ誕生の背景を明かした。
当時を思い出し、「初めて4人で音を合わせた都内某所のスタジオ、その日のことはいまでも忘れられません」と語る須賀。彼が集めたメンバーは、学生時代の仲間である10年来の友人、矢沢もとはる。役者としてのステージで知り合った、宮城紘大。そしてこのバンドを始めることがきっかけで出会った、JOHN。
出身地も経歴も職歴もまったく異なる4人が出会い、一つのバンドとして音を鳴らしてきた軌跡について、「こんなふうに集まったこと自体、奇跡だと思っている」と感慨深げに語った。「自分がこの3人を誘ってできたこのバンドが、本当に自慢なんです」と続けた須賀は、「これからも、このバンドを一番に思って走り続けていきたい」と宣言。MCの最後には「この4人で走り出した曲を、ここで届けます」と言葉を結び、次の楽曲へとつなげた。
須賀の独白から披露されたのは、4人になってはじめてリリースされた「罪綴り」。続く「ミス」、「雨鳴」といったエモーショナルな楽曲群では、須賀の表現力がひときわ輝いた。舞台俳優としての経験も持つ彼の語りかけるような歌声は、ただ音楽を“聴く”という行為を越え、“物語に没入する”体験へと変えていいく。だが、Am Ampはただ“泣かせる”だけのバンドではない。エモーショナルであると同時にハッピーさやダークさ、アグレッシヴさも持ち合わせている。振り幅の大きさが、むしろリアルで、信じられるような気がした。
終盤のMCでは、メンバーひとりひとりがこの日を迎えた思いを語る。(ちなみに、順番は照れ隠しをするメンバーのせいで、なかなか決まらず、宮城の「出さんが、負ーけよ」!というローカルなジャンケンで決まった)。まず最初にベース・矢沢もとはるは「このバンド、普通じゃないんですよ。曲も少ないうちからワンマンばっかりやってて(笑)。普通は何バンドも一緒に出るイベントに出ながら、少しずつ名前を広めていくんでしょうけど、うちは最初から“曲、どうする?”みたいなノリでスタートして」と結成初期をこう振り返る。そしてセットリストを見ながら一曲一曲に“あのときこうだったね”って今日は思い出していたと言う。さらに矢沢は「今こうして立っていられるのは、その積み重ねがあるから。本当にありがとうございます」と語った。
続いてマイクを握った宮城紘大は、Am Amp加入のきっかけとなった出来事を明かした。「二年前、僕が初めてライブハウスに行ったのが代官山(UNIT)だったんです。誕生日の日にライブハウスデビューして、そこから初めて“対バン”って言葉を知って、いろんな人に出会って……。今日やった曲たちも、僕らが出会ってなかったら生まれてなかった。そう思うと胸が熱くなります」さらに、舞台出演を控えていることを明かしつつ、「自分の“好き”を続けたい。このメンバーがいるから、Am Ampって場所があるから、頑張れてるんです」と、等身大の苦悩と感謝を語った。ギターのJOHNは「俺は喋るの得意じゃないから……」と前置きしつつ、「でも、長い付き合いになると思う。Am Amp、これからもよろしくお願いします」と短くも力強い言葉で会場を沸かせた。
そして最後にマイクを握ったのは、ボーカルの須賀京介。「最近、音楽の消費スピードがすごい速いじゃないですか。TikTokとかショート動画とか、すぐに“バズる曲”とかウケるキャラ”とか求められる。でも、Am Ampってバンドは、そういう打算抜きで、自然体でいられる場所なんです」さらに、「みんな、それぞれの肩書きや立場があると思う。でもこの空間では関係ない。同じ音楽を聴いて、同じ時間を過ごしてる。それだけでいい。しがらみ全部忘れて、最後まで一緒に楽しんでいきましょう」と語り、満場の拍手を浴びた。
「かっこいいライブにしようぜ!渋谷!」という熱血な煽りからライブは「わたしの」でクライマックスへ突入する。何かを愛しすぎて壊れてしまう、そんなギリギリの感情を、須賀は渾身のシャウトでぶつけてきた。あまりの熱に、会場はこれに呼応するように声をあげて、バンドの魂の熱演を受け止める。須賀が拡声器を用いた「PZA」では、熱狂が一気に爆発し、誰もが腕を突き上げていた。そしてラスト、「エンドロール」。ステージも、フロアも、感情も、何もかもが燃えていた。Am Ampという名の熱に包まれて、全員が一つになった。
ライブはさらにアンコールまで最高潮の盛り上がりを見せた。ここで幕を閉じるかに思えたが、再び彼らの登場を求めるが会場に響き渡り、4つ打ちのビートと共にメンバーがステージに戻ってきた。そう、Wアンコールである。「お前ら!呼んだからには、わかってんだろうな?」という矢沢もとはるの挑発的な一言に、客席のボルテージは一気に最高潮へ。そしてバンドの想いに応えるように、オーディエンスは一斉に飛び跳ねる。その熱気の中、須賀は勢いよくフロアへと降りていき、最後まで渾身の歌声を届け続けた。
Am Ampの音楽に、“カテゴリー”など必要ない。なぜなら、それはむき出しになった感情であり、混沌であり、でも確かに「生きている音」だからだ。2年という時間の中で、彼らが築いてきたのは、“音楽”という名の生々しい感情の連なり。そのすべてが、今夜のShibuya WWWで、爆発していた。このバンドを、簡単に理解しようとしてはいけない。彼らの音は、理解するものではなく、感じるものなのだから。
取材&文:ニシダケン
カメラマン:大川 茉莉
Am Amp「Category or Unusual?」東京公演 セットリスト
2025.07.11@渋谷WWW
M1.bakemono
M2.HEAT
M3.トレモロ彼女
M4.うらぎり
M5.SUGAR SPOT
M6.psycho
M7.貴方の屍になりたい
M8.A Hard Day’s Nite
M9.ジェルネイル
M10.チャイラッテ
M11.貴愛
M12.夏的小故事
M13.慕情
M14.chime ga nattara
M15.罪綴り
M16.ミス
M17. 雨鳴
MI8.わたしの
M19.PZA
M20.エンドロール
EN1.Ao
EN2.トロイメライ
EN3.HEAT
EN4. bakemono