朝日中高生新聞 別府薫

映画『国宝』の一場面(全国東宝系で公開中) ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

歌舞伎の生々しい魅力が浮き彫りに
観客動員数3週連続トップ

日本の伝統芸能・歌舞伎を題材にした映画『国宝』が公開から1か月間、右肩上がりのヒットを続けている。配給元の東宝は7月7日、観客動員数が319万人、興行収入が44億8千万円を突破したと発表した。興行通信社によると、週末の観客動員数は3週連続トップ。前の週の成績を4週連続で上回っているという。

吉田修一さんの同名の小説を、李相日監督が映像化した。任侠の家に生まれた主人公の喜久雄(吉沢亮さん)が、芸の力で歌舞伎俳優の頂点にのぼりつめていく、約3時間の大作だ。歌舞伎の名門に育った俊介(横浜流星さん)との友情と葛藤を描き、渡辺謙さん、田中泯さん、寺島しのぶさんらが脇を固める。

東宝によると、観客は大学生以下の若年層の増加がめだつ。6月6日の公開直後と4週目の土日で比べると、観客全体に占める割合は倍増。実数では3倍を超えるという。

原作も映画の効果で重版がかかり、累計115万部を突破した。版元の朝日新聞出版によると、紀伊國屋書店、くまざわ書店など全国の書店で、6月の文庫本売り上げ1位を独占している。

登場人物に古典重ね合わせ感動呼ぶ

歌舞伎を中心とした評論で知られる演劇評論家の犬丸治さんは、吉沢さんと横浜さんの歌舞伎舞踊や演技におどろいたという。「1年半の稽古でよくあれだけの技芸やエッセンスを習得した。まるで2人の成長のドキュメンタリーを見ているようだ」 

一陽斎豊国の錦絵『霜釖曽根崎心中 天満屋おはつ・平野屋徳兵衛』 国立国会図書館デジタルコレクションから

犬丸さんが特に注目するのは、江戸時代に近松門左衛門がつくり、上方歌舞伎の人間国宝・故坂田藤十郎さんが昭和の時代によみがえらせた「曽根崎心中」の描き方だ。若い男女が追いつめられて自ら命を絶つまでの芝居を、喜久雄と俊介のドラマに重ねて見せることで、古典の感動をリアルに伝えている。「歌舞伎が本来もっている、切れば血が出るような生々しさを浮かびあがらせ、すごいものを見てしまったと多くの人に思わせたのだろう」

豪華な衣装やセットも話題に。客席からは見られない位置から舞台や舞台裏を映しているのも映画ならではだ。犬丸さんは「映画で興味をもったら、ぜひ歌舞伎も見てほしい」と話す。

大作ぞろいの夏、記録どこまで

7月18日には、前作が日本歴代興行収入1位の404億3千万円の記録を打ち立てた『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開。戦後80年のこの夏は、カズオ・イシグロさん原作の『遠い山なみの光』など、さまざまな角度から戦争を見つめる映画の公開もあいつぐ。大作づくしのなか、『国宝』がどこまで記録を伸ばすか注目される。(編集委員・別府薫)

※『国宝』はPG12に区分されます。小学生以下が見る場合は保護者の助言や指導が必要です。

歌舞伎

400年以上前の江戸時代に、いまの京都で生まれた芸能。最初は女性も出演していたが、幕府が風紀の乱れを理由にくり返し禁止するうちに、男性だけになった。「歌」は音楽、「舞」は舞踊、「伎」は演技を指す。

(朝日中高生新聞2025年7月13日号)

歌舞伎の襲名って? 菊五郎と菊之助、父から子へ名前と芸をつなぐ

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