東京都写真美術館で「総合開館30周年記念 TOPコレクション トランスフィジカル」が7月3日から9月21日まで開催されます。
平成7年(1995年)、日本で唯一、写真と映像を専門に扱う総合的な美術館として開館した東京都写真美術館。総合開館30周年を迎えた2025年は、「総合開館30周年記念」と銘打った展覧会や関連イベントを多数開催し、1年をとおして写真・映像の未来をじっくりと見つめていきます。
総合開館30周年を記念するTOPコレクション展は、2期にわたって開催されます。第1期「不易流行」に続く第2期となる本展は、学芸員4名による共同企画で、オムニバス形式により構成されています。多角的な視点から同館コレクションを選りすぐり、約185点の作品で、写真と映像の魅力を多面的に紹介します。
総合開館30周年記念 TOPコレクション トランスフィジカル
会場:東京都写真美術館 3階展示室(東京都目黒区三1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
会期: 2025年7月3日(木)~ 9月21日(日)
開館時間:10:00~18:00
※木・金曜日は20:00まで、8月14日(木)からの木・金は 21:00 まで開館
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(月曜日が祝休日の場合開館、翌平日休館)
入館料:一般700円、学生560円、高校生・65歳以上350円
※中学生以下及び障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料
※8月14日(木)から9月19日(金)の木・金曜日17:00~21:00はサマーナイトミュージアム割引(学生・高校生無料、一般・65歳以上は団体料金。学生証・年齢が確認できるものをご提示ください。)
詳しくは美術館公式サイトへ
「トランスフィジカル」が意味するもの
安村崇《湯かき棒とゴム手袋》〈日常らしさ〉より 1999年 発色現像方式印画 東京都写真美術館蔵
本展のタイトルは「トランスフィジカル」。フィジカルは「物質的」「身体的」といった意味を持ち、本展では、モノとして存在する写真の「物質性」や、被写体や作家自身の「身体的表現」に着目します。また、「トランス」という接頭辞は、対象がそのもの自体から、別の形態や位置へ移動していくプロセスや行為を意味します。
開館30周年という節目にあたり、これまでのコレクション作品を新たな視点から読み解き、イメージがつくられていくその豊かな過程へ目を向けます。デジタル化が進む現代において、同館の珠玉の名作が、写真・映像の現在に鮮やかな一石を投じることでしょう。
TOPコレクション展について
日下部金兵衛《風にあおられる着物》1881-1912年 横浜写真アルバム 東京都写真美術館蔵
1986年に第2次東京都長期計画で「写真文化施設の設置」が発表され、東京都写真美術館は1988年より作品収集を開始しました。学芸員の調査研究に基づき、これまでに収集された作品数は約38,000点を超えます(38,759点、2025年3月31日現在)。
TOPコレクション展は、黎明期から現代まで写真・映像史を網羅するような、東京都写真美術館の体系的なコレクションの中から、特定のテーマに沿って作品を厳選することで、写真・映像文化への理解を深め、時代を超えて語り継がれる優れた写真・映像作品を紹介する重要な場として、毎年開催されています。
4人の学芸員による多彩なテーマ
オノデラユキ《No.CO-2》〈12 Speed〉より 2008年 インクジェット・プリント 東京都写真美術館蔵
前述のように、本展は4名の学芸員が共同で企画するオムニバス形式の展覧会です。展示室にはそれぞれテーマが設けられており、全5室を使って5つのテーマが展開されます。異なる視点を備えた学芸員たちによって紡がれるキュレーションは、本展の大きな見どころと言えるでしょう。
初期写真から出発して写真と絵画の関係性を探る「第1室 撮ること、描くこと」、「踊り」という身体表現による衝動と社会性に迫る「第2室 dance」、色で広がる視覚表現を体感する「第3室 COLORS」、コンセプチュアル・アート*に影響を受けたステージド・フォトグラフィと実験的なビデオアートを取り上げる「第4室 虚構と現実」、デジタル時代において写真の物質性とオリジナルプリントの価値を問い直す「第5室 ヴィンテージと出会うとき」と多彩な5つのテーマで展示は構成されます。
38,000点を超える多彩な収蔵作品の中から選りすぐりの名品を通じて、写真・映像の歴史や社会との関わりを振り返るともに、過去の表現を現在の視点で見つめ直し、現代における表現の在り方を考えます。
*コンセプチュアル・アート(概念芸術):1960年代に登場した、物質的な表現よりも背後の概念や着想に重きを置く芸術
貴重なオリジナルプリントが一堂に会す
ルイ・デュコ・デュ・オーロン《アジャンの風景、木と水の流れ》1877年 エリオクロミィ 東京都写真美術館蔵
同館ならではの、“お宝”とも言える貴重な作品が多数紹介されることも、注目したい見どころのひとつです。第1室では、世界最古のカラー写真《アジャンの風景》(1877年)を、第5室では、モホイ=ナジの貴重なフォトグラムや、万延元年(1860年)に撮影された《野々村忠実像》、明治初期に活躍した河野浅八の作品などを公開します。コピーが容易な現代だからこそ、写真が持つ「唯一性」や「物としての魅力」を改めて実感できる展覧会です。
アーウィン・オラフを初展示
アーウィン・オラフ《Auf dem See》〈Im Wald〉より 2020年 アーカイバル・プリント©Erwin Olaf Courtesy of KONG Gallery – Seoul, Korea 作家蔵
さらに第4室では、KYOTOGRAPHIE 2021(京都)で注目を集めたオランダの写真家アーウィン・オラフの作品を、東京都写真美術館で初めて展示します。新型コロナウイルスのパンデミック下における自主隔離の様子をとらえた写真と映像作品〈エイプリルフール〉(2020年)*のほか、〈Im Wald〉シリーズ*から、絵画のように構成された大型作品も出品します。*すべて作家蔵
主な出品作家
アンセル・アダムス《月とハーフドーム、ヨセミテ渓谷、カリフォルニア州》1960年 ゼラチン・シルバー・プリント ©The Adams Publishing Rights Trust. 東京都写真美術館蔵
本展で取り上げられる作家は下記のとおりです。ゾーン・システムの祖のひとりであるアンセル・アダムスから、現在活躍中の作家まで幅広く紹介されていますが、写真史的な流れに沿った構成ではありません。あくまで個性豊かな5つのテーマに基づいてキュレーションされている点こそ、本展の真骨頂。作品を従来とは異なる視点から見つめ直すことによって、これまで気づかなかった魅力や意味を発見できる機会となるでしょう。
アンセル・アダムス/ウジェーヌ・アジェ/アンリ・カルティエ=ブレッソン/ルイ・デュコ・デュ・オーロン/ウィリアム・エグルストン/ロバート・メイプルソープ/アーウィン・オラフ/ゲルハルト・リヒター/シンディ・シャーマン/チェン・ウェイ/石原友明/出光真子/今井壽惠/岩根愛/瑛九/エキソニモ/オノデラユキ/川内倫子/小本章/小山穂太郎/鈴木のぞみ/田口和奈/多和田有希/東松照明/内藤正敏/野村佐紀子/浜田涼/細倉真弓/森村泰昌/安村崇/山沢栄子/山城知佳子/山本糾ほか
30周年という節目を迎えた東京都写真美術館。その歩みを振り返り、これからの写真表現に思いを巡らせるひとときを過ごしに、足を運んでみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)