不倫、DV、殺人事件……。過激なテーマとともに、満たされない人たちの、歪んだ人間模様を描き話題となっている金曜ナイトドラマ『魔物(마물)』(テレビ朝日系)。地上波初の日韓合同制作かつ完全オリジナルという意欲作であり、原案はシン・ウニョン、脚本は関えり香、監督はチン・ヒョク、そしてキャストとロケーションは共に日本という、両国ががっつりとタッグが組んだことで、カルチャーの融合感を楽しめる要素が満載となっている。

 たとえば、毎話1つの韓国料理がフィーチャーされている点は注目ポイントのひとつ。1話ではヤンニョムチキン、2話ではキムチチゲ、3話でサムギョプサルと、日本でもお馴染みの韓国料理が次々と出てくる。当初、「何で韓国料理?」と若干の唐突感を感じたものの、回を重ねるにつれて「今回はどんな料理が?」と、ある意味お楽しみ要素にもなっている。さらには色の鮮やかさやスパイシーな感じ、グツグツとした温度感が伝わってくる映像によって、そのシーンにおける感情を増幅させる演出に。5話において、主人公・華陣あやめ(麻生久美子)が最上陽子(神野三鈴)、源夏音(北香那)とテーブルを囲み、お互いの腹を探り合うシーンに登場したのはサムゲタン。煮えたぎる丸鶏の腹から白い餅米がドロリと溢れ出る映像は、会話の内容と連動してグロテスクでさえあった。

『魔物(마물)』は究極の“アンチグルメドラマ”だ “食べない料理”が炙り出す人間の本性

近年、テレビドラマにおいて「グルメ」は欠かせない要素となっている。火付け役となったのは、言うまでもなく『孤独のグルメ』(テレビ東…

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 このドラマのキャッチコピーは“愛と欲望のラブサスペンス”。このコピーからは“ドロドロの愛憎劇”を思い浮かべるが、韓国チームが吹かせる“風”によって単なる愛憎劇にはない深みが増している。それは韓国ドラマでよくみられる“メロ”の要素だ。5月9日に放送された特別編『-日韓共同制作の裏側-』の中で、チン・ヒョク監督は「“メロ”と“サスペンス”のバランスを大事にしている」と語っている。

 “メロ”は、韓国の恋愛ドラマでは大事な要素。日本でいうところの“メロドラマ”とはニュアンスが異なり、「男性が女性を守ってくれるところから始まる」が“メロ”のお約束のパターン。そして主人公の男性がガチガチのマッチョイズムに支配されておらず、女性を尊重しジェントルに接するその挙動も重要。“メロい”“メロな彼”などと形容されることも多いが、本ドラマの主人公・源凍也(塩野瑛久)も、まさに“メロ”を高次元で体現するキャラクターとして設定されている。日本のドラマでここまで見事な“メロ”が描かれたことはかつてなかったのではないだろうか。

 たとえば1話であやめが凍也に恋に落ちた瞬間を映しており、キービジュアルにも使用されている印象的な“傘”のシーン。ホースの固定が外れ、大量の水があやめに降り掛かった時、凍也がさっと傘を差し掛けあやめを守る。太陽の下で相合傘をする形となった2人。ピュアな眼差しの凍也、その横顔を乙女のように見つめるあやめ。そしてそこには虹がかかり……。

 このシーンを何度もリピートした人も多いのではないだろうか。全女性を沼らせる、まさに究極の“メロ演出”がなされていた。当初の脚本では「あやめが濡れ、そして虹がかかる」となっていたが、「それだけでは“メロ”が足りない」と、チン監督によって傘のシーンが急遽追加されたと『特別編』で語られていた。

 恋に落ちるその瞬間に韓国流“メロ”が究極に高まったからこそ、3話の後半で凍也が“凶暴さ”を剥き出しにする展開は衝撃的だった。“愛という名のもとに行われる暴力”に最初はとまどうも、深く愛してしまったが故に次第に受け入れるようになるあやめ。観ている側は「愛とは何なのか」を深く問われているような感覚になる。

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