4歳で芸能界にデビューして以来、多くの話題作に出演し続けている俳優の小林涼子さん。20代の頃、自分の将来に悩み続けるが、そんななかで出合った「農業」がきっかけとなり、2021年、持続可能な農業を目指して起業。俳優業と農業とのパラレルキャリアをスタートさせた。就職したばかりのフレッシャーズはもちろん、彼・彼女らを迎え入れる上司や先輩社員にとっても、「キャリア形成」は正解を見つけにくい難しいテーマだ。新卒社員(2026年4月入社予定者)向け媒体「フレッシャーズ・コース2026(*1)」にも出演している小林さんに、自身のキャリアの見つけ方について語ってもらった。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
*1 「フレッシャーズ・コース2026」(ダイヤモンド社)は、全7巻ワンセットの新卒内定者フォローツール。小林涼子さんは、第4巻の「The Life」(著名人インタビュー)に出演している。
“二つの仕事”で生み出される、ポジティブな相互作用
子役でデビューし、俳優のキャリアを順調に重ねていった小林涼子さんだが、20代になると、自分が思い描いていたキャリアとのズレに悩み、精神的にも疲れていく。そんななか、両親から誘われた米づくりの手伝いが、小林さんの意識を大きく変えることになる。
小林 新潟で農業のお手伝いをさせていただいて、自然の実りの豊かさを知りました。農業の楽しさ、お米のおいしさ、農家の方たちの優しさに惹かれ、繁忙期には、毎年、お手伝いに通うように。でも、その後、家族が体調不良になったことやコロナ禍の影響で、新潟へ通うのが難しい状況になりました。その農家は高齢の方が多く、作業もぎりぎりの人数で行っていたので、私たちの人手がなくなるだけで大変な状況になってしまいます。どんな理由があったとしても、季節は待ってはくれません。田植えの時期に人手がなければ苗は植えられないし、お米をつくることができません。それまで、「ご飯を食べられるのは当たり前」だと思っていましたが、おいしいお米を毎日食べられるのは、つくってくれる人がいるからこそ。決して当たり前ではないことに気がつきました。
「このままでは、農業は持続不可能になってしまう、おいしいお米が食べられなくなってしまう」――小林さんは大きな危機感を抱き、農業での起業を決意。2021年に株式会社AGRIKOを創業するが、新たなキャリアを始めることに不安はなかったのだろうか。
小林 とにかく、「何か、やらなくちゃ!」という気持ちが強くて、不安を感じる余裕はありませんでした。とはいえ、長年のお手伝いの経験から「私一人でできることは限られている」と知っていました。そこで、周りの人の力も借りながら、組織として農業をやろうと考え、起業することに決めました。当時はまだ、パラレルキャリアで働く人が珍しかったので、うまく理解してもらえないこともあり、「片手間でやっている」と言われることもありました。しかし、私のなかでは、農業も10年以上続けてきたことだったので、俳優業と農業とのパラレルキャリアに違和感を覚えることはありませんでした。二つの仕事に力を注ぐのは、もちろん疲れることもあるし、大変なことも多くあります。でも、やってよかったと思うことしかありません。
小林涼子 Ryoko KOBAYASHI
俳優/株式会社AGRIKO 代表取締役
1989年、東京都生まれ。4歳で子役としてデビューした後、多くのドラマや映画で注目され、2024年にはNHK連続テレビ小説『虎に翼』にも出演。2014年に農業と出合い、2021年、株式会社AGRIKOを設立。農林水産省「農福連携技術支援者」を取得し、2022年、自然環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」の運営を開始。2024年、農林水産省 食料・農業・農村政策審議会の「食糧部会 臨時委員」を拝命。ほかにもJ-WAVE「EARLY GLORY」のナビゲーターなど幅広く活躍中。「Advertising Week Asia 2023」で開催された「Future is Female Awards」では、“次世代の活躍を担うファイナリスト10人”に選出。
起業して、小林さんがいちばん感じているメリットは、「チームで動く」という点だ。俳優業でも、監督はじめ技術スタッフと一つの作品づくりに向かっていくように、チームであれば、仲間と共に壁を乗り越えていける。特にアイデアの広がり方は、さまざまな考えを持つ人が集まるからこそ、だ。
小林 会社設立当初は一人で働いていたので、自分が想像する範囲でしか仕事が広がっていきませんでした。いまは従業員も増え、たくさんの人が事業に関わってくれるようになったので、自分が想像していた以上にアイデアが広がっていったり、伸びていったりと、チームの力の大きさを感じています。また、会社のことで考えが行き詰まったときは俳優業で頭を切り替えると、ふと解決策が見つかることがありますし、逆に俳優業で行き詰まったときは、農業のお仕事をすると気分がリフレッシュします。ファームのスタッフの皆さんから、「(小林さんが出演している)ドラマを見たよ、がんばってね!」と応援してもらえることも大きなパワーになっていて、パラレルキャリアで、よい相互作用が働いていることを実感しています。