【インタビュー】音楽プロデューサー&シンガーソングライター清野研太朗、デジタルシングル「素敵な人生」をリリース「大衆性を意識した曲作りをやっていきたい」
音楽プロデューサー・“けんたあろは”としても活動する・清野研太朗。
多数の歌手に楽曲提供を行っていた“けんたあろは”は、清野研太朗として2024年1月にソロデビューした。アニメ『サラリーマンが異世界に行ったら四天王になった話』オープニングテーマ「異世界協奏曲」のリリックビデオは23万回再生、嵐・二宮和也が自身のカバーアルバム『○○と二宮と2』でカバーするなど話題だ。
そんな清野研太朗が6月11日に、デジタルシングル「素敵な人生」をリリースした。BARKSではこれを機にインタビューを実施。初登場となるので、そのルーツから音楽制作のこだわりまで、じっくり話を聞いてみた。
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──清野さんと音楽との関係において、もっとも古い記憶ってどういったものでしょう。
清野:姉がピアノを習っていて、それについていく形で自分もピアノを習い始めたんですけど、それが3歳ぐらいだったのかな。一番古い記憶となると、それですね。
──リスナー視点では、どのように音楽と接してきましたか?
清野:僕は特定のアーティストやジャンルにハマるといったことはほとんどなくて。なので、普通にテレビから流れてくるようなヒット曲からアイドルまでを聴くみたいな、そういう雑食な付き合い方を高校生くらいまでしてきました。大学に入ってからはジャズとかにも触れるようになって、好き嫌いせずいろいろ聴くようにしています。
──清野さんの楽曲を聴いているといい意味でルーツが見えないので、そのへんがとても気になっていたんです。アレンジ的には随所でマニアックなことにトライしているんだけど、軸にあるメロディは非常に普遍性の強いものがある。これはご自身の雑食性によるものが大きかったんですね。
清野:そうですね。ひとつの分野に特化するわけではなく、大前提としてポップソングというか大衆性というものは自分の中でも守りたいポイントというか。その上で何ができるのかを目指すことが理想なので、そういうものづくりができたらなと思っています。
──となると、プレイヤーやソングライターとして影響を受けた存在というのも……。
清野:あまり具体的にはいませんね。
──そもそも曲作りはいつ頃、どんなきっかけで始めたんですか?
清野:幼少期から始めたピアノを弾きながら、自分でメロディを作ること自体は好きだったんですね。あとは、ニンテンドーDSのゲームソフトを使って音楽を作ったりと、本当に遊びの延長なんですけど。ただ、それを公開したりするでもなく、自分の趣味のひとつとしてやっていただけなんです。でも、大学生になってからいわゆるDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション。パソコン上での音楽制作)に触れたのをきっかけに、歌モノを本格的に作り始めたんです。
──では、それまでバンド活動をしたり、人前で歌った演奏したりしたことは?
清野:大学に入るまではなかったです。大学では音楽を勉強していたんですけど、将来的にはサポートミュージシャンみたいな形でキーボーディストとして活動していけたらと思ってライブに参加することもありましたが、自分で歌ったりするようになったのは最近のことですね。
──大学で音楽を学ぶこと含め、音楽の道に進もうと決心したのはいつ頃でしたか?
清野:中3とか高1の頃にはもう決めていて。僕はピアノも習いつつ、小学校からずっと野球少年でして。大学で音楽を学びたいと決めていたから高3ですっぱり野球をやめて、音楽の道に進みました。
──なるほど。で、大学入学を機に本格的な音楽制作に取り掛かるようになったと。実際にDAWで音楽を制作するようになってから見つけた楽しさは、どういったものでしたか?
清野:もともと何かモノを作ることに興味を持っていたので、たとえばトラックを作るのもそうですし、メロディや歌詞を作ること、そういう積み重ねでアレンジをしていく面白さが自分の中では一番魅力的だったのかなと思います。
──そして、2020年前後から「けんたあろは」名義にてSNSでの楽曲投稿が始まります。当時はご自身では歌っていませんでしたよね。
清野:そうですね。そもそも自分の見せ方が当時はよくわかっていなかったので、とりあえず曲を作って、それを人に歌ってもらって投稿することに注力していました。
──2022年からは、でんぱ組.incや私立恵比寿中学などへの楽曲提供も始まります。
清野:初期にSNSに投稿していた曲を聴いてくださった関係者の方から「こういう仕事の伝手があるんだけど」と連絡をいただいて、そこから楽曲提供へとつながっていきました。最初は単純に好きに作っていただけだったんですけど、ちゃんと聴いてくれる人、評価してくれる人がいるんだと気付かされた瞬間でした。
──当初はキーボーディストとして活躍しようと思っていたところ、思いがけず職業作家としての道も開けたと。
清野:もちろん今でもプレイヤーとしての側面も好きですけど、結果的には音楽を作るほうが自分の性に合っていたんでしょうね。
──楽曲提供となると先方からオーダーを受けて、それに沿って楽曲を制作していくわけですよね。ただ自分が好きなものを作っていた初期の頃とは、また勝手も違うのかなと思いますが。
清野:その壁は現在もぶつかっている最中ではあるんですけど、自分がやりたいことと、オーダーを受けて作る中でも「長く歌われてほしい」という思いや自分らしい爪痕を残さなきゃという思い、そのバランスをどう取るかがすごく難しくて。ただやりたいことだけをやっても聴かれなかったら意味がないし、僕の曲として世に出るわけではなく提供させていただいたアーティストの曲として出るわけなので、そこは今も常に考えを巡らせながら制作に臨んでいます。
──ご自身の中で、作家としてターニングポイントになった楽曲ってありますか?
清野:『IDOLY PRIDE』というメディアミックス作品に「MELODIES」という曲を提供させていただいたんですけど、それまで制作してきた……例えば、でんぱ組.incあたりは情報量の多さにこだわって曲を作っていたんですけど、「MELODIES」に関しては引き算を意識して作ったところがあって。そういう曲は以前から作りたかったんですけど、自分に求められていること含めてなかなか形にできなくて、それが自分の中でひとつ結果として形に残せたのが「MELODIES」なんです。
──なるほど。以降もアイドルや声優さん、アニメ作品への楽曲提供が続きますが、2024年に入ると今度は「清野研太朗」名義での音楽活動も始まります。清野研太朗としてはご自身で歌うことになるわけですが、この活動に踏み切った理由は?
清野:そもそも自分で歌うという発想が最初はなかったんですけど、楽曲提供をする際に自分で仮歌をよく歌っていたら、周りの人から褒められることが多くて。それが意外と嬉しかったんですよ。で、「自分に楽曲提供する感覚で音楽を作ってみたら面白いんじゃないか」というアイデアが浮かんできて、その結果が今なんですよ。
──「自分に楽曲提供する」って面白い感覚ですね。
清野:そうですよね(笑)。でも僕自身、楽曲制作をするときはあまり主観的になりすぎないことを心がけているので、そういう意味ではあながち間違っていないのかなと思っています。
──清野研太朗としてはどんな音楽を制作していきたいと考えましたか?
清野:シンガーソングライターとして広く愛される上で、後悔ないぐらいしっかりと大衆性を意識した曲作りをやっていきたいというのが大前提としてあって。一番は歌詞が重要になってくるのかなと思っています。それこそ、聴いている人の背中を押してあげたり、共感してもらえるポイントが要所要所にあったりすることも大切で、そのためにも難しい言葉を使わないとか譜割りがすっと入ってくるとか、そういう洗練された表現も心がけています。
──清野さんの楽曲を聴いていてすごく新鮮だなと思ったことがありまして。昨今のポップミュージックの多くがヒップホップ以降の譜割りだったりアクセントの付け方が主流ですが、清野さんの楽曲はもっとクラシカルで普遍性が強い、どの時代に聴いても色褪せないメロディラインだなと思ったんですよ。
清野:ああ、すごく嬉しいです。ありがとうございます。アイドルに楽曲提供する際は「音がぶつかってないかな」とかチェックしたりするんですけど、自分で歌うプロジェクトに関しては「そういう細かいことを気にすんなよ」みたいな発想で曲作りをしようと思っているので、それが普遍性とか大衆性につながっているのかもしれませんね。
──それこそ今年発表した「異世界協奏曲」はテレビアニメ『サラリーマンが異世界に行ったら四天王になった話』の主題歌として流れてきた瞬間、グッと引き込まれるものがありますし、一度聴いただけで鼻歌を歌いたくなるような、そんな魅力があるんですよ。この曲に対する反響も、相当大きかったんじゃないでしょうか。
清野:「異世界協奏曲」はメロディはもちろんですけど、特に歌詞に関して今まで僕が作ってきた中では一番反響が大きかったです。僕が届けたいと思って書いたところにちゃんと届いたという実感が得られたのも、シンプルに嬉しかったですし。
──気付けばこの曲、二宮和也さんのカバーアルバム『○○と二宮と 2』にまで取り上げられましたからね。
清野:すごいことが起きてますよね(笑)。もちろん、僕は嵐を聴いてきた世代なので、あんな著名なアーティストさんにカバーされる日が来るなんて、さすがに驚きました。正直、最初は「本当なのかな?」と現実感があまりなかったんですけど、最近になってやっと実感が湧いてきたところです。
──アニメファンはもちろん、二宮さんのような世代にまで歌詞やメロディがしっかり響いたと考えると、当初考えていた以上の手応えだったのではないでしょうか。
清野:確かにそうですね。若い人だったらTikTok経由で出会うことも多いだろうし、そこも作り手として意識しなくちゃいけないと思うんですけど、どうしても一過性の盛り上がりで終わってしまうことが多い。でも、「異世界協奏曲」はそこを超えて、二宮さんのもとにまで届いたってことを考えると、ひとつ成功だったんじゃないかなと思います。
──これまでやってきたことが間違いではなかったという証明にもなりましたよね。そして、6月11日には新曲「素敵な人生」がリリース。これまためちゃくちゃいい曲ですね。この曲はSNSでデモを公開して、反響を見ながら完成させていったそうですが。
清野:そうですね。この曲はさっき言ったようなSNS映えじゃないけど、SNSに特化した曲ではないと思っていて。そういう意味では、この曲はテンポも含めてバラードということでリスクやデメリットもあると思うんです。でも、「異世界協奏曲」を通して歌詞がしっかり届いた、共感してもらえたというポジティブな経験を得られたので、今回も歌詞がしっかり聴き取りやすくて、かつ共感できる内容をすごく意識して完成させました。
──言葉自体はすごくシンプルで素直なものが多いんですが、だからこそめちゃめちゃ刺さるんですよ。
清野:それこそ、1回聴いて歌詞がわからない、聴きとれないみたいな言葉がないことってすごく大事だと思っていて。逆に、シンプルすぎても今度はつまらなくなっちゃうので、何度も推敲してこの形にたどり着きました。
──リスナーに問いかけるようなフレーズによって聴き流すことができず、聴いているうちにどんどん引き込まれていくんです。
清野:テンポも含めて、そうやってじっくり聴いてもらうための歌詞になったかなと思います。
──清野さん自身は、この「素敵な人生」というタイトルや歌詞を通じて、どんなことを表現したかったのでしょうか。
清野:自分にとっての「素敵な人生」を問いかけて、「何を持って素敵だというんだろう?」みたいな歌にしたいなと思って。サビの歌詞でも歌われているんですけど、もがき続けて何かを得ようとする、何かを頑張り努力するその過程の素晴らしさだったり、その過程が他人に良い影響を与えたりするポジティブな連鎖が続いていくことが、僕は「素敵な人生」だと思ったので、そこを伝えたいなと思いました。
──そういう歌詞を最初はピアノ伴奏でシンプルに聴かせ、曲が進むにつれてストリングスが加わってどんどん壮大さが増していく。だけど、全体的には音の隙間が大切にされたアレンジで、それによってじっくり余韻も得られるので、この歌の世界に浸ってしまいたくなるんですよ。
清野:その意見は嬉しいですね。「異世界協奏曲」やそれ以前にリリースした楽曲も、情報量が多くて聴き手を飽きさせないアレンジを心がけていたんですけど、今回の「素敵な人生」に関してはおそらく今までで一番音数が少ないんじゃないかな。だから、聴いて「楽しかった!」で終わるんじゃなくて、この歌詞の意味についてじっくり考えたくなるようなアレンジを意識しているんです。
──なるほど。個人的には〈この世界でたった一人きり〉での転調で、ガラッと空気が変わるアレンジが絶妙だなと思いました。そこから再びAメロに戻っていく流れを含めて、すごく凝った曲構成ですよね。
清野:大衆性という点では、ポップスのフォーマットであるべきだと思うんですけど、実はこれ、知る限りではあんまりないコード進行なんです。それをなるべく違和感がないように聴かせられるようなアレンジにはなっているのかな。最近、海外ではJ-POPのことを「キラキラポップ」と呼ばれるようになっているんですけど、それってJ-POPのフォーマットがどんどん進化して、ある種凄技みたいなところでの発展の仕方をしているのかなと思っているんです。それ自体は素晴らしいことだとは思うんですけど、でも僕の中ではかつてのスリーコードで弾ける、昔から愛され続けているシンプルな曲をやりたいと思う気持ちもあって。ただ、そういう曲はサブスクでは飛ばされてしまうという今の時代背景もあって、すごく悩ましい。その上で、今回はみんながカバーしたくなるような曲にしたいと思いましたし、だからこそシンプルさを大切にしているんだけど、同時にコード使いやアレンジなどで難しさだったりにこだわりも用意されている。そのバランスに関しては何が正解なのか、まだ自分の中で答えは出ていないんですけど、「素敵な人生」に関しては今までの中でも比較的わかりやすいものになったんじゃないかなと思います。
──「異世界協奏曲」に続くこの「素敵な人生」がどんな反響を得られるのか、今から本当に楽しみでなりません。今年前半はこの2曲から非常に充実した時間を過ごせていることが伝わりますが、音楽家としてここからのビジョンについては具体的にどんなイメージを持っていますか?
清野:めちゃくちゃいろいろ考えてはいるんですけど、それこそバンド編成でライブをしたいなとか、自分でアイドルの曲を書いているんだから、いずれはアイドルをプロデュースしてみたいなとか。でも、最近はシンガーソングライターとしての活動においてひとつ結果を残し始めているので、頑張ってどこまでいけるのかを試したくて。加えて、プロデューサーとしてもいろんな形で活躍したいなという思いもあって、それこそつんく♂さんとか、もっとプレイヤー寄りでいうと川谷絵音さんとか、そういう方々に続く存在になれたらと思っています。
取材・文◎西廣智一
「素敵な人生」
2025年6月11日(水) リリース
配信リンク:https://seinokentaro.lnk.to/Wonderfullife