デビューアルバム『Prelude To Ecstasy』発表後の2024年7月の初来日に続き、2025年4月に再来日公演を行ったロンドン出身の5人組バンド、The Last Dinner Party。ロマンティシズムとダイナミズムを増幅させたバンドサウンドとドレッシーなスタイル、シアトリカルなパフォーマンスが全世界から注目を浴びている彼女たちは新作アルバムの制作を行いながら、ライブアクトとしても止まることなく成長を続けている。バンド結成から現在まで、The Last Dinner Partyが辿った活動の軌跡やバンドのスタンスについてうかがうべく、5人にインタビューを行いました。『装苑』7月号の「今会いたい音楽の人」に掲載していますが、ここではオンラインバージョンでお届けします。

photographs: Jun Tsuchiya(B.P.B.) / interview & text: Yu Onoda

ライブでは、曲が生まれ変わり、みんなのものになる瞬間を目の当たりにする。

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──2018年にメンバー3人が出会い、コロナ禍を挟んで、2021年にバンドを本格始動させてから、4年弱が経ちました。ブリットアワードのライジングスター賞を獲得した2024年のデビューアルバム『Prelude to Ecstasy』を含め、ものすごいスピードで成長を遂げたバンドの歩みを振り返っていかがですか?

アビゲイル「アルバムに対してあれだけ喜んでくれたファンのリアクションは私たちにとってありがたいことだなって。私たちはアルバムを愛しているし、誇りに思ってはいるんだけど、ソングライターである私からすると18歳から20歳くらいの時に書いた、かなり昔の曲だったりするし、その頃の自分と今の自分は距離があるように感じていて。そういう曲を毎日ライブで繰り返し演奏することはバンドだけでやっていたら、すごくつまらないことになっていたかもしれない。でも、そこに曲を自分のことのように捉えてくれるお客さんがいて、反応を返してくれることで、曲が新しい意味を帯びて生まれ変わる瞬間を目の当たりにしている気分。もはや曲は私たちのものではなく、みんなのものなんだなと思いながら、日々楽しくライブに臨んでいますね」

──音楽的には、70年代のアートロック、グラムロックをはじめ、クラシックロックがベースに、ステレオタイプなスタイルに陥ることなく、フレッシュに響かせているところに驚かされました。

ジョージア「バンドの音楽性はメンバーみんなで色んなライブを見に行くなかで自然と固まっていった感じ。よく足を運んだのは(ブラック・カントリー・ニュー・ロードやスクイッド、ブラック・ミディといった新世代バンドを多数輩出した)サウス・ロンドンのウィンドミルというライブハウス。まぁ、全然大きくないし、音響も最悪な箱なんだけど(笑)、アンダーグラウンドの新しい震源地でもあったから、私たちはそこで演奏することを夢見ていたし、実際にステージに立てた時は本当にうれしかった」

アビゲイル「ただ、アルバム『Prelude to Ecstasy』のデモは新世代のポストパンクバンドのそれとは違って、もともとはエイサップ・ロッキーに影響を受けたトラップビートやエレクトロの要素を取り入れたものだったし、その後の試行錯誤を経て、そういう要素は払拭されて、気づいたら、70年代、80年代のクラシックロックの影響が色濃いサウンドになっていた(笑)」

一つにハマって、長く深く掘り下げられるような曲を提示したい。

──つまり、バンドの音楽性の紆余曲折がクラシックロックの現代的なアップデートに繋がったというわけですね。

エミリー「私の父は70年代に10代を過ごした人だから、個人は70、80年代のクラシックロックを聴き親しんできたし、そうした要素が作品に自然に投影されたのは私たちが育ってきた環境や世代的なことも関係しているのかも」

──世代や時代という意味において、現代はミニマリスト的な価値観が主流で、音楽に限らず、タイムパフォーマンス、コストパフォーマンスの考え方が支配的だったりします。それに対して、The Last Dinner Partyはマキシマリストをうたっているわけですが、そのスタンスは現代に対するカウンターでもあるんでしょうか?

オーロラ「私たちは放っておくと10分くらいの長い曲を書いてしまいたくなるんです。でも、それは好きでやっているだけのこと。ただ、現代の若いリスナーから音楽をじっくり聴く集中力が失われていて、作品のコンセプトが共有されないまま、SNSで音楽が断片的に聴かれている現状はすごく残念なことだと思うし、アルバムというフォーマットにこだわっている私たちのスタンスはオルタナティブなやり方だと考えています」

エミリー「あれも欲しいでしょ?これも欲しいでしょ?って、追い立てられるようにどんどん新しい曲を出して、数ヶ月ごとにファッションやトレンドがどんどん変わっていく世の中の流れは冷静に考えると恐ろしいことじゃないですか?私たちはSNSに合うように、切り刻んだ音楽を発信するんじゃなく、一つのことにハマって、長く深く掘り下げられる音楽を提示したい」

気持ちよくお洒落できるようなコミュニティ感覚が生まれたらいいな。

──今はやっていないということですが、ライブにおいてドレスコードを設定していたそうですね。バンドの服飾スタイルやヴィジュアルについての考え方、インスピレーションソースについて教えてください。

アビゲイル「通っていた学校の個性的な図書館司書さんから紹介された日本のファッション誌『FRUiTs』をバイブルのように読んでいました。そこに載っていたスナップを見て、マネキンにセットされた服そのままを着るんじゃなくて、自分で買い集めたもの、持っているものを加えてアレンジしているところが日本独自でクリエイティブであるように思いました。決まりきった服をきちんとそのまま着るように育った私は、誰かのために着る、誰かが言ってるから着るではなく、個性を大事にして、自分主体で好きに着るスタイルに影響を受けました」

──ライブにおけるドレスコードの設定を経て、オーディエンスのスタイルにどんな変化がありましたか?

リジー「オーディエンスみんながお洒落して来てくれるようになって、それがうれしい。ただ、私たちより全然お洒落なオーディエンスを見かけると、私たちのショーなんだけど!って思ったりします(笑)」

ジョージア「普段は着られないんだけど、着てみたいと思ったものを着られる場を提供できるのはいいことだなと思うし、ライブには同じような意識を持った人が集まるので、気持ち良くお洒落ができるコミュニティー感覚が生まれたらいいですね」

The Last Dinner Party
2021年にロンドンで結成された5人組バンド。メンバーは、アビゲイル(Vo)、リジー(Vo、G)、エミリー(G)、ジョージア(B)、オーロラ(Key)。大学の新入生ウィークで出会い、サウスロンドン周辺で様々なライブを見ながら音楽性を固めた。2023年以降、急速にバンドの名が広まり、2024年にリリースされたアルバム『Prelude To Ecstasy』は英国の音楽賞<マーキュリー・プライズ>の候補にノミネートされるなど、人気、実力共に注目を浴びている。今年4月には東名阪を巡る単独ツアーを敢行し、日本でも耳目を集めている。

公式サイト:https://www.thelastdinnerparty.co.uk/
TikTok:@thelastdinnerparty
YouTube: @thelastdinnerparty
Instagram:@thelastdinnerparty

THE LAST DINNER PARTY
『Prelude To Ecstasy』

デジタル配信UNIVERSAL MUSIC
アークティック・モンキーズやゴリラズを手掛けるジェームス・フォードをプロデューサーに迎えた1stアルバム。グラムロックやゴス、ポストパンク、クラシックやオペラの要素を内包したアートロックがドラマティックかつロマンティックに鳴らされている。
https://umj.lnk.to/TLDPPE

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