ご存知、SHISEIDO EYEBROW PENCILと書かれた資生堂の眉墨鉛筆。今は、ダークブラウン一択。この柔らかさ硬さの絶妙バランス、色の自然さ。いろいろ試しているけれど、結局ここに戻る。
「結局、この眉ペンシルに戻るんですよね……」と、有名俳優から文化人まで、多岐にわたる仕事をするヘアメイクアップアーティストの方が、そっと話してくれたことがある。
近所のドラッグストアで買っている。いつも「おひとりさま２本まででお願いします」などと書いてある。昔からのプチプラコスメの、変わらぬ逸品、大スターコスメだ。安価なものにも手を抜かず、最高のものを作り出そうとする日本のものづくり精神が息づいている。
ノーメイクでも眉だけは書く、眉だけはアップデートしたい、そういう人は多い。「眉は、顔の額縁」とはよく言われること。さらにいえば、顔のみならず、人の格、人格まで決めてしまうのが、眉だと思う。
皆、実は、人格をアップデートしたいのかもしれない。
で、「人格」とはなんだろう、と検索してみると
「生まれ持った特性（気質）と後天的な経験や環境によって形成される、個人の内面の特徴」「具体的には、価値観、信念、行動パターン、感情の表現などが含まれる」というのが妥当かな、と思う。
性格は人格に含まれる。
性格が「上がる」とはいわないけれど、人格は「上がる」「下がる」という表現もある。
性（しょう）＝性質には上下の格はないけれど、人には格があるのかもしれない。
メイクの中でアップデートをひとつしかできない、となったら、皆いろいろ違うだろうが、私の場合、眉になる（今は、長井かおりさんの「眉頭のコンシーラーづかい」に感動し、秘かに修行中）。
眉を描かないと、人間として「降りてる感」、つまり人格が下がる気がしてしまう。
顔を洗っていないくらい、雑な雰囲気が出てしまう。人からわからなくても、自分の気持ちの問題だ。
綾瀬はるかさんの御祖母さまは、誰にも会う予定がなくても、90歳過ぎた今も、「みだしなみだから」と、朝からきちんとお化粧しているそうだ。そこまでできなくても、せめて眉だけは描こう、と思う。
ところで。伝説の名作漫画『浮浪雲』で、激動の幕末を飄々と生きている主人公・雲が「道楽は何ですか？」と聞かれて「生きてることでんす」と答えて、皆を笑わせる。その娘、天真爛漫な幼い女の子、お花ちゃんはさらにすごい。周りの大人が「もう年で……」などと言っているのを聞いて、「生きてる間は、みんな同い年なんだよ！」と大笑いする。読んで以降、これが私のちょっとした座右の銘になった。
Amazonで、お花ちゃんが表紙に出てるコミックスを探してみた。奥の、まったく女の子らしくなくのびのびしている子どもがお花ちゃん。かなり昔の、かつ青年誌で連載していた漫画なので知らない方も多いと思いますが。
そう、生きている間は、「もう年だから」「若くないから」なんて甘えてる場合じゃないのだ。経験値や、生まれ持った個性は違っても、イーブンに「ほんもの」の健全な人間関係を結ぶために、「生きてる間は、みんな同い年」を意識して、ささやかなアップデートは試みたい。
※この連載は、月曜日と木曜日に更新しています。
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