万博会場にて。未来型のスキンケアシステム「スキンボイス」の様子
明治期創業の老舗化粧品メーカーである桃谷順天館は6月10〜16日と9月23〜29日、大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」の展示・出展ゾーン「リボーンチャレンジ」エリアに出展する。現存する日本最古の化粧品専用研究所を1913年に開設して以来、研究開発に注力してきた同社が近年開発した最新技術を披露し、次世代のライフスタイルを提案する。
未来のスキンケアを体験
「スキンボイス」とは
6月10〜16日の展示テーマは「未来の生活スタイル〜スマートルーム〜」。未来型のスキンケアシステム「スキンボイス」を展示する。定常的に肌測定を行うセンサーを取り付けたメガネ型デバイスで肌の状態をリアルタイムで測定し、分析データをもとにシューター型デバイスから最適な化粧水を超微粒子化された状態で噴射する仕組みだ。
万博会場には、未来のドレッサールームを模した空間を用意。体験者はドレッサーの前に座り、メガネ型デバイスをかけるだけで、肌診断からスキンケアまでの一連のプロセスを約3分間で体験できる。AI(ディープラーニング)を活用することで体験者の肌水分量と肌バリア機能、肌年齢、肌タイプ(脂性肌、乾燥肌、混合肌など)を解析。結果は目の前のモニターに提示され、AIキャラクターの「モモ」がナビゲーターとなって分かりやすく説明してくれる。プライバシーに配慮し、計測結果をQRコードで持ち帰れるようにしている。
「肌の状態は日内で変動し、紫外線やストレスといった外的・内的要因で絶えず変化している。しかし、それに即したスキンケアをタイミングよく行えている人はごくわずか。スキンボイスは、そうした変化を常時捉え、肌トラブルを未然に防ぐ新しい仕組みだ。困っている人の悩みを解決するという創業精神にもとづき、肌トラブルのない世界をつくることをめざしている」と、同社桃谷総合文化研究所の杉野哲造所長は説明する。
メガネ型デバイスは、神戸大学大学院工学研究科の塚本・寺田研究室が開発した技術を基に、測定機器データとの比較や肌状態の判定システムを共同研究で開発した。シューター型デバイスに搭載する化粧水の成分は、大阪大学医学系研究科の濵田吉之輔特任教授との共同研究の成果がベースとなっており、産学連携による先端技術を結集している。
開発に取り組んだのは8年ほど前から。製品の枠を広げるために異業種と交流するなか、当時ウエアラブルコンピューターで注目されていた神戸大学の研究室との出会いがあった。「コツコツと研究を続け、うまく測定できるようになったのは万博への出展が決まってから。デバイスに付けるセンサーの位置が少しずれただけでもデータが変わるので、位置の固定やデータの取り方など試行錯誤して完成させた」と杉野所長は振り返る。
メガネ型デバイス着用の様子
AI動画の様子
「スキンボイス」体験の様子
桃谷総合文化研究所の杉野哲造所長
“着るスキンケア”
新素材「モイストファイバー」
スキンボイスにも使用される化粧水の成分“フローラコントローラFC161”は、同社が長年研究してきた肌常在菌の制御技術から生まれたもの。従来の殺菌剤とは異なり、肌トラブルの原因となる悪玉菌だけを殺菌し、肌にとって有益な美肌菌を増やす特徴がある。
このFC161を繊維に練り込み、スキンケア効果のある繊維として開発されたのが「モイストファイバー」だ。クレンジングオイルの処方技術を応用し、オーミケンシとの共同研究によってFC161を高濃度で繊維に配合することに成功。洗濯後も成分を維持でき、着用することで皮膚の水分量を向上させるなど化粧品としての効果があることが実証されている。
モイストファイバー開発の背景には、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の患者が増加し、ファッションを自由に楽しむことが制限されているという現状がある。「アトピー性皮膚炎は食物アレルギーや喘息の引き金になるとも言われている。縫い目がない服を選ばないといけなかったり、着ることができない素材があったりもする。だから“着ることがスキンケアになる服”を届けたいと考えた」と杉野所長は語る。
最近の研究では、肌のバリア機能を壊す黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎の原因ともいわれ、黄色ブドウ球菌を減少させるモイストファイバーへの期待が高まっている。
後半は「未来のファッション」を提案
「化粧品会社にとどまらない」を体現
9月23〜29日は「サステナブルに基づく繊維・ファッション産業の未来共創プロジェクト」のテーマで出展。モイストファイバーを活用した未来のファッションの展示を行う。同社とオーミケンシに加え、吊り編みメーカーで知られる和歌山の東紀繊維とレディスアパレルのマツオインターナショナルの4社で取り組む。
展示は3つのゾーンで構成。「光合成する服」ゾーンでは、モイストファイバーの保湿機能を活用し、特殊なメッシュ状の生地に植物の種子を植え付けて育てた衣服を展示する。「大阪は全国一、緑が少ないといわれている。それは肌にとっても良くないこと。未来に向けて緑を増やしていきたいという思いを、インパクトのあるデザインで表現する」(杉野所長)。
試作段階の「光合成する服」
「透明人間の服」ゾーンでは、緑をテーマにした空間に再帰性反射素材を使ったドレスを展示。あるポイントに立つとドレスが消えて見えるという体験ができる。さらに「ドライゾーン」では、同社の調香技術を活かし、未来や環境問題へのメッセージを表現。スタートアップとの協業により、音と映像に連動した海や森林、屋久島の香りなどが広がる空間を演出する。
モイストファイバーは2023年頃から素材供給が始まり、現在、12社がインナーやソックスなどの製品化をめざして開発中だ。繊維だけでなく、皮膚細菌の研究が進化し、腸内細菌の研究にも着手。腸内の美肌菌を増加させる成分を開発し、サプリメントやコーヒー、プロテインのほか、食品の製品化も進めている。
杉野所長は「今後も化粧品の枠を超えた事業にチャレンジし、化粧品会社にとどまらず、美と健康を提供していく会社をめざす」と抱負を述べた。