複雑な感情の変化を表現することのできる変幻自在な俳優、仲野太賀。エンターテインメントに一歩踏み込んだリアリティをもたらす彼は、32歳という年齢ながら、役者としてのキャリアは約20年と長い。その長いキャリアにおいても常に、最先端の自分であり続けるためのアップデートを怠らない。そんな彼の最新の姿を映し出すのが、短編映画『ラストシーン』だ。
是枝監督が初めて挑んだタイムトラベルストーリー
「未来に何が残り、何が消えるのか」をテーマに、是枝裕和監督が全編iPhone16 Proで撮影した『ラストシーン』で仲野が演じたのは、脚本家の倉田。ある日、50年後の未来から来たという少女・由比(福地桃子)が現れ、倉田が手がけているドラマのラストシーンを書き直してほしいと懇願する。実は倉田は自身の意に反しながらも、プロデューサーの意見に応じてラストシーンを書き直していた。少女はドラマの主演女優の孫であり、倉田が書き直したラストシーンのせいで未来の世界からドラマが消えたと告げる。事実を知った倉田は、自身の今後の人生を左右する、とある決断をする。仲野は本作の出演の経緯をこう語る。
「『泣く子はいねぇが』という作品の、プロデューサーをしていた方から声をかけていただいたのがきっかけです。是枝さんとご一緒するのは僕の夢だったので、願ってもないチャンスでした。ただ、オファーをいただいた時点では双方のスケジュールの確認が取れていなかったので、僕としては本当に無事着地してくれることを願いながら待っていました。是枝さんの作品はすべて観ていますが、脚本を手にしたことはなかったので、初めて手にしたときは『これかぁ〜』という感動がありました。役柄は、是枝さんも当て書きで書いてくれたのではないかなと思うくらい、お芝居しやすいキャラクターだったので、特別何かを準備することはなく、自分に近い感覚で演じられたかなと思っています。ただ、僕が倉田のような選択を迫られたら、どうするかはわからないですね。ドラマの未来を救いたいですが、そう簡単でもなさそうですし……。目の前にあることを何とかしたいと思うかもしれないです」
撮影は全編iPhone16 Proのカメラで行われたが、観ている者は言われない限りiPhoneで撮影したとは気づかないだろう。演じている側は普段の映画やドラマの現場とは大きな違いがあったのだろうか。「iPhoneの撮影に関しては、機材の圧というかプレッシャーがないので普段の自分と地続きというか、力まずにお芝居ができたのですごく良かったです。カメラが小型であればあるほど、演じる側としては楽なんじゃないかなという気がします」