「尊い」と惜しみなく連呼すればするほど、このドラマの尊さと愛おしさはどんどん強化される。主人公たちをさらにぎゅっと強くつよく抱き締めていたくなる。2023年のクリスマスイブに動画配信プラットフォームTELASAで『クランクアップ編』第1話が先行配信、2024年元旦に『クランクイン編』がテレビ朝日系で放送された『BLドラマの主演になりました』の続編となる『続・BLドラマの主演になりました』は、とにかくどこまでも尊い作品だと明言できる。

阿部顕嵐と阿久津仁愛が感じる“BLドラマの影響” ワールドワイドな応援は「素直に嬉しい」

阿部顕嵐と阿久津仁愛がW主演を務めるドラマ『BLドラマの主演になりました』の続編が、『続・BLドラマの主演になりました』のタイト…

リアルサウンド 映画部

 前作では、ネクストブレイク俳優である「あかゆー」こと赤藤優一郎(阿部顕嵐) と、かつて天才子役としてブレイクした青柳萌(阿久津仁愛)によるW主演BLドラマ『恋する俺とおさななじみ』(以下、『恋おさ』)のクランクインから2人が結ばれるまでの過程が描かれた。待望の続編第1話冒頭は、『恋おさ』放送後に特集を組む雑誌のスチール撮影場面から始まる。照明の青色が照らすホリゾントの前で後ろを向く赤藤と青柳のツーショット。カメラマンの指示で振り返った瞬間、照明が赤色に切り替わる。主人公たちの名前に含まれる青から赤への転換があざやかだ。ドラマの世界観を瞬間的なポージングで表現する彼らを見守る弥生(入山法子)ら『恋おさ』制作陣が、しきりに「尊い」と興奮。

 スチールカメラは2人のポーズが醸す色っぽい尊さを逃すまいとシャッターを切り続ける。ストロボの明滅に合わせて弥生は何度も何度も「尊い」と繰り返す。この冒頭場面を映す本作のカメラ自体もまた2人にじりじり前進する。弥生の「尊い」はなおも続く……。するともう1人違う声が「尊い」と呟く。こちらはもっと切実に絞り出すようなうなり声。赤藤である。彼は実は青柳を熱狂的に推すガチオタであり、青柳のことでもうとにかく頭がいっぱい。でも今はスチール撮影中。高ぶる気持ちをおさえた結果、この脳内での「尊い」連呼。プロデューサーと主演俳優の間で「尊い」と発する声と声がオーバーラップする。まるで多重録音のような残響効果があるこの「尊い」連呼合戦に視聴者も参戦せずにはいられない!

『続・BLドラマの主演になりました』TELASAで独占配信中!(PR120秒)

 ドラマ内の登場人物たちが連呼することで視聴者も自然と「尊い」気持ちを共有する作品構造が絶妙である。すずり街による原作漫画第1話1コマ目に描き込まれているのは、実写ドラマ化が決定した『恋おさ』漫画本である。つまり、作品内にもう一つのフレームとしてのBL漫画が登場、なおかつそれが作品内でドラマ化され、現実には阿部顕嵐と阿久津仁愛W主演で実写化するというBLドラマ内でBLドラマを描くダブルフレームの世界観を持っている。原作の構造的豊かさに対して、実写ドラマはさらにユーモラスに描写しようと全力で努める。『クランクアップ編』第1話では撮影前の顔合わせ場面があり、会議室で物語の意図を説明する弥生の後ろのホワイトボードに「エモさ大渋滞!!」と大文字で書かれている。ドラマ内ドラマ(2次元)と実際のドラマ(3次元)がオーバーラップしながら、ときめきの源泉は湧き続けるこの世界観。尊すぎる!

 そもそも、こうした固有の「尊い」世界観を打ち出す人気の火付け役になった作品は、一般的に『おっさんずラブ』(2016年〜/テレビ朝日系)であるとみられている。『クランクイン編』と同じ、テレビ朝日の年末年始恋愛ドラマ枠として放送され、2018年から連ドラとして放送された『おっさんずラブ』はさらに社会現象にまでなるほどエポックメイキングだった。その後、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年/テレビ東京系)や『美しい彼』(2021年/MBS系)、『みなと商事コインランドリー』(2022年/テレビ東京系)など、コンスタントに大ヒット作が生み出されるきっかけになったことは確かである。

 今や「尊い」が日常語的に使われ、「尊い」の大きな供給源の1つであるBLドラマに強いときめきを感じる。その「尊い」を登場人物たちに連呼させ、豊かな心情表現として一言で明確に集約する『続・BLドラマの主演になりました』もまた画期的BLドラマだと言える。

 『クランクイン編』に繊細な表現性を誇る瞬間がある。赤藤と青柳が休日にデートする場面。ゲームセンターやファミレスでわちゃわちゃした後の夜、海浜公園の階段に座る青柳の手を赤藤が握る。手を取る前、カメラが一瞬青柳に前進。この寄りでワンクッション、赤藤が手を取る動作に繋がるのが美しい。カット間にBLの息吹きが込められたかのように手を取り合う2人がさっと立ち上がり、階段上で踊る上下移動で画面はきらめく。僕はこの場面のエモーショナルな盛り上がり方にBLドラマ史上屈指の沸点、名場面の極みを見た。

 第3話ラストカットには、撮影中の『恋おさ』のキスシーンが配置。オフィス内で向き合う赤藤と青柳にカメラが前進。フレーム内に見きれたブームマイクがフレームアウト。今まさに唇と唇を重ねようとする神々しいおあずけで『クランクアップ編』第3話は幕。エモすぎるドラマ内ドラマの締め方は、海辺に寝そべる赤藤と青柳がキスしようかというところでカチンコが2人の唇を隠す『続・BLドラマの主演になりました』オープニングと連動する。

Leave A Reply
Exit mobile version