厨房(ちゅうぼう)を舞台にした作品と言えば、グルメものを頭に浮かべる。が、タイトルがスペイン語のそれを指す「LA COCINA ラ・コシーナ/厨房」(6月13日公開)では、ニューヨークの大型レストランの裏側の、想像を絶するけん騒が描かれる。

観光客に人気の「ザ・グリル」の厨房(ちゅうぼう)はほぼ移民で構成され、多言語が飛び交う。ピーク時は明らかなオーバーフロー状態で、異民族間のののしりあいや小競り合いが頻発する。

料理人のペドロは気も良く腕もいいのだが、感情の抑えが効かず、しばしばトラブルを起こす。しかも、妊娠した恋人のウエートレス、ジュリアが中絶を希望したことに心中穏やかではない。

おまけにこの日は売上金盗難事件が起きて、スタッフ全員に疑いがかけられ、空気はヒリついている。文字通り戦場のような厨房の1日に平穏な終わりはくるのだろうか-。

「グエロス」(14年)以来の3作品がいずれも国際映画祭で高評価を得ているメキシコのアロンソ・ルイスパラシオス監督のモノクロ映像は、多人種間の見た目の違いを抑え気味に見せ、個人対個人の人間ドラマを際立たせる。

「コップ・ムービー」に続いてルイスパラシオス作品主演となったペドロ役のラウル・ブリネオスは、気のいい男がしだいに狂気を宿していく様子を巧みに演じている。

ヒロイン、ジュリアを演じるのはハリウッドの注目株、ルーニー・マーラ。ブリネオスとは対照的に押さえた演技が印象に残る。

この映画の撮影で初めてニューヨークに来たという新人アンナ・ディアスが、そのまま狂言回しとなる新人料理人役となり、観客の目となって厨房のけん騒を映し出す。

名物のロブスターを泳がせる水槽や巨大な冷蔵室が、ペドロとジュリアのしばしロマンチックな雰囲気を盛り上げる。厨房にカタカタと注文を伝えるロール式の伝票印刷機が、過酷な職場環境を印象づける。大道具、小道具が効果的だ。

厨房とはテンポも空気も一変する裏通りの休憩時間のひと幕は、他人種間の融和を映し出して心温まる。

チクチクと風刺の効いたカオスの果ての結末に、不思議な爽快感を覚える作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

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