J-HOPEは「BTSのバランスを作る人物」 音楽評論家が語る、その唯一無二の魅力

BTSのJ-HOPEが2025年5月31日・6月1日に京セラドーム大阪で開催するソロ公演『HOPE ON THE STAGE』。ソロとして初のドーム公演に挑む彼の姿は、これまでグループ内で発揮してきたエネルギーを、より鮮やかに拡張したものだ。

BTSの軌跡を見つめてきた韓国の音楽評論家キム・ヨンデによる最新書籍『K-POPを読む』(&books/辰巳出版)では、K-POPのこれまでと今、そして未来を鋭く切り抜く。本書の中でもJ-HOPEというアーティストの本質が、深く、的確に掘り下げられている。

※本稿は『K-POPを読む』(&books/辰巳出版)を一部抜粋・編集したものです。

 

音楽的挑戦と一貫性が光る、未来への期待

「J-HOPEは、音楽的な面でこれからもっとも期待できるメンバーだと考えています。なぜなら、J-HOPEにはずっと音楽への情熱にあふれていたからです。そして彼は、自分が得意とする範囲、つまり自分が今の状況でどこまでできるのかという「範囲」や「限界」を正確に把握しています。

J-HOPEは常に自分の限界をしっかりと認識し、その中で最大限に良いものを生み出す能力に非常に長けています。そのため、わたしは以前からミュージシャンとしてのJ-HOPEに大きな期待を寄せていました。その期待に応えるように、彼の才能は「MORE」や「Arson」、そして『Jack In The Box』といった作品でもっとも輝く形で発揮されています。

音楽というものは、アーティストが実験的な試みを行うと、「なぜこんなことをするのだろう?」とか、「本人はいいかもしれないけど、わたしは好きではない」と思われることがあります。しかし、J-HOPEの場合、そのような実験的な挑戦においても、彼の持つ人間的な魅力が色濃く反映されており、リスナーにしっかりと伝わっています。

J-HOPEについては、「ストリート」という言葉がよく使われます。この言葉には、彼が光州で夢を追いかけていたストリートダンサーとしてのアイデンティティが含まれています。彼はそのアイデンティティを一度も失うことなく、守り続けてきたように思います。この点を深く理解し、自覚していることが、J-HOPEというアーティストの最大の強みではないでしょうか。」

本書の翻訳者でありライターでもある桑畑優香さんとの対談の中でJ-HOPEに寄せる希望と期待について語るキム・ヨンデ氏。彼は本書の中で、「BTSという世界のバランスを作る人物」だと話す。

 

「他者を傷つけることのない肯定の力」が支える、BTSという宇宙のバランス

たったひとりの存在によって、BTSに絶妙なバランスが生まれる。あえて前に出なくても、BTSという世界の重要な一部を音楽的にも人間的にもしっかり支えてくれるメンバー。

J-HOPEは、BTSのキャリアにもっとも大きな驚きを与えたアーティストだ。ダンス、ラップ、ソングライティング、プロデュース能力まで兼ね備えた、幅広い音楽的な才能。ところがJ-HOPEの魅力は、歌詞の単語ひとつやメロディーの一小節のような細かい要素では評価できない。何か、エネルギーのようなもの。彼の魅力の源を、わたしは「他者を傷つけることのない肯定の力」と呼ぶ。

J-HOPEのラップ、ボーカル、ダンスは、BTSの宇宙を航海する人々をもっとも明るい場所へと導く。いつも楽観的かつポジティブで、彼のメッセージやジェスチャーを理解するために高度な知識や感情は必要ない。それにもかかわらず、J-HOPEは、BTSのすべての音楽的な意図に説得力を与える。「Paldogangsan」に垣間見えるように、J-HOPEはSUGAとともに地域性をストレートに明かす誠実なメンバーで、それを音楽的に表現できるセンスも持ち合わせている。

初のソロ作品『Hope World』は、彼がアーティストとしての自分の色を見せつける重要なきっかけとなった。もちろん、J-HOPEの芸術性を完全に理解するためには、ダンスは欠かせない要素だ。

「Chicken Noodle Soup (feat. Becky G.)」は、光州のストリートにルーツをもつダンサーJ-HOPEが、ハーレムのストリートカルチャーを探究しながら、国境を超えて受けた影響を盛り込んで完成させた意味深い曲だ。

「Outro: Ego」は、陽気でユーモアたっぷりだが、決して慎重さを失わない彼の生き方が、一曲にしっかり表れた傑作。BTSの『MAP OF THE SOUL:7』の最後を飾るにふさわしい人物として、J-HOPE以上に適任はいない。

J-HOPEという名の希望は、いまやK-POPという広大な地平に、確かな足跡を刻んでいる。

 

【キム・ヨンデ】

音楽評論家・文化研究者。韓国大衆音楽賞選定委員。延世大学経営学科卒業。アメリカ・ワシントン大学で音楽学博士号を取得。ソウルで生まれ、2007年からアメリカ・シアトルに住み、10年以上アメリカにおけるポップミュージックのマーケットとK-POPの動向を観察し、研究している。現在は韓国に在住し、「ハンギョレ新聞」など韓国のメディアと、「New York Magazine-Vulture」「MTV」など外国メディアに音楽評論を寄稿。YouTubeチャンネル「キム・ヨンデのSchool of Music」を運営し、K-POPを幅広く分析・s紹介する動画をアップロードしている。著書には『BTSを読む』(柏書房)、『90年代を飾った名盤50』『韓国ヒップホップ 熱情の足跡』(どちらも未邦訳)などがある。

【桑畑優香】

翻訳家・ライター。早稲田大学第一文学部卒業。1994年から3年間韓国に留学、延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学び、「ニュースステーション」のディレクターを経て独立。映画レビュー、K-POPアーティストの取材などをさまざまな媒体へ寄稿。訳書に『BTSを読む』(柏書房)、『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)、『成功したオタク日記』(すばる舎)、『韓国映画100選』(クオン)、監訳書に『BEYOND THE STOR Y: 10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)など。

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