※日経エンタテインメント! 2025年5月号の記事を再構成

20代の俳優として様々な活躍をみせる今田美桜が、いよいよNHKの連続テレビ小説で主演する。3月31日にスタートした『あんぱん』(月~土曜8時/NHK総合ほか)は、『アンパンマン』を生み出した遅咲きのマンガ家・やなせたかしと、その妻・暢(のぶ)をモデルとした物語だ。

今田美桜

(写真/中川容邦)

今田美桜(いまだ・みお)

1997年3月5日生まれ、福岡県出身。18年のドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season ~』で注目され、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(19年)、『半沢直樹』(20年)、映画『東京リベンジャーズ』シリーズ(21年、23年)などの話題作に出演。近年の作品は、ドラマ『いちばんすきな花』(23年)、『花咲舞が黙ってない』(24年)、映画『アット・ザ・ベンチ』、『劇場版ドクターX FINAL』(ともに24年)、『劇場版 トリリオンゲーム』(25年)など

 20代の俳優として、様々な活躍をみせる今田美桜。2022年放送の『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』でドラマ初主演を果たし、『いちばんすきな花』(23年)、『花咲舞が黙ってない』(24年)と、作品を先頭で引っ張る存在に成長した。ヒロインを演じた映画『わたしの幸せな結婚』(23年)は興行収入28億円、直近の作品となる『劇場版 トリリオンゲーム』は、3月上旬時点で14億円突破と、ヒット作にも貢献している。

 そんな今田が、いよいよの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)で主演する。3月31日スタートの『あんぱん』(月~土曜8時/NHK総合ほか)は、『アンパンマン』を生み出した遅咲きのマンガ家・やなせたかしと、その妻・暢(のぶ)をモデルとした物語。苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった2人の人生を、“生きる喜び”をテーマにフィクションで描く。

 今田は、ヒロインの朝田のぶを演じる。歴代最多となる3365人が参加したオーディションによって選ばれた。取材時は、高知県でのクランクインから約5カ月がたったタイミング。撮影は順調に進んでいるという。

今田美桜

(写真/中川容邦)

 この5カ月、あっという間でしたが、同時にとても濃い時間を過ごしているなと実感しています。少しずつ編集も入っていて、制作統括の倉崎(憲)さんや、柳川(強)監督の感想を聞いて、このまま変わらず続けて大丈夫なんだと、ひとまず安心しました。とにかく、放送が楽しみです。

 オーディションは、グループ審査やカメラテストがありましたが、最初のビデオ審査でけっこう悩みました。『アンパンマンのマーチ』の歌詞の1番から3番まで、それぞれに設定が設けられて、その感情に乗せてお芝居をするというもので、今まで受けたオーディションのなかで1番難しかったです。でも改めて、歌詞にある「そんなのはいやだ!」のフレーズがすごく好きだと思いました。ネガティブなことや、悲しくなるようなことって、あまり認めちゃいけないかなという気になったりするけど、「いいんだよ、それで」と寄り添ってくれるような、やなせさんの包み込む優しさが表れていると感じました。

昭和初期ならではの葛藤

 24年の2月、朝の8時にNHKにうかがって、放送中だった『ブギウギ』がテレビの画面についているなか、サプライズでヒロイン発表を聞きました。私は上京する前の福岡にいるときから何度か朝ドラのオーディションを受けてきたので、いろんな思いが込み上げて、涙したのを覚えています。

 のぶは、高知で祖父母と両親の愛情を受けて育つ、三姉妹の長女。足が速く、勝ち気な性格から“ハチキン(注1)おのぶ”“いだてんおのぶ”と呼ばれるパワフルな人物像だ。

注1…「男勝りの女性」を指す土佐弁

今田美桜

(写真提供/NHK)

 のぶは、幼いころはいつも全力で走っているんですね。げたで走るシーンがあるので、私もお借りして、プライベートで履くようにしました。それをクランクインから実際に使っています。

 のぶはとても真っすぐで、嘘がない人。だからこそぶつかる壁もあるんですよね。中学生から始まって、今は教師になっていくあたりを演じているのですが、大人になるにつれて、昭和初期の時代ならではの葛藤が生まれてくる。女性は家庭に入って、元気な子どもを産んで、それが女性にとっての“社会を支える”ということなんだとか。のぶは疑問を持ちますが、それが当たり前だったわけで、いろいろな角度から見ると、全てに誠実になるのってなかなか難しいなと思いながら、今演じています。

 のぶも女学校時代は軍国少女になっていきますが、戦争では身近な人たちに不幸が訪れます。その悲しみを抱えながら、それでも前を向いて、どう生きていくかというところは丁寧に伝えたいです。

 一方、後にのぶと結婚することになる柳井嵩(やないたかし)は父を病気で亡くし、伯父の家に引き取られてのぶと出会う。少し気の弱い嵩役には、北村匠海が配役された。北村とは6度目の共演となる。

 北村さんとは何度も共演していて、安心感しかないです。懐が深くてドシッと構えて、どんなボールを投げてもちゃんと受け止めてくださいます。『東京リベンジャーズ』(21年)のときはあまりうまくいかなかったビンタするシーンも、今回はめちゃくちゃうまくいきました(笑)。

 のぶの家族の朝田家は、とにかく愉快(ゆかい)です。釜じい(のぶの祖父)を演じている吉田鋼太郎さんに、くらばあ(同祖母)役の浅田美代子さんが「おはよう、ダーリン」と声を掛けているのを見ると癒やされます(笑)。チャーミングな美代子さんがムードメーカーで、お母さん役の江口のりこさんがそこにツッコミを入れて、妹役の河合優実ちゃん、原菜乃華ちゃんが笑っているなか、鋼太郎さんはさらにボケたり、ときにはグッと締めてくださったり。朝田家はアドリブも多いんですよ。鋼太郎さんが本番で急にリハーサルとは違うことをやったりするので、それがすごく楽しいです。柳井家とは全然違う色になっているので、そこも見どころです。

1度きりを「全力で楽しむ」

 脚本は、『花子とアン』(14年)以来2回目の朝ドラとなる中園ミホ。土佐弁の方言も特徴的だ。

 中園さんの脚本は、それぞれのキャラクターがリアルで、感情移入できるところが魅力です。今回、もちろん明るくて温かい作品なのですが、そうではない部分もたくさん描かれるんですね。登場人物みんなの葛藤や悩みが響いてくる。それでいて、沈みすぎるのではなく、前向きな気持ちにさせてもらえます。本読みのときに、中園さんが「時代的に苦しい部分も描かれるから、明るいところはとにかく明るくやってほしい」とおっしゃっていて、そこを大事にしています。

 方言は、通常のセリフを覚えるのとはまた違った感覚なのですが、方言指導の先生に撮影の合間に付き合っていただくようなルーティンができてきました。土佐弁では、「~しちゅう(=している)」なんかは響きがかわいいですよね。最初に「どういう意味だ?」と思ったのは「たまるか(注2)」です。朝田家は「たまるかー!」をたくさん使うので、注目してほしいです。

 『あんぱん』の現場は、脚本を読んでいたときと、実際に演じたときでまた印象が変わることも多くて。思わず涙があふれたり、ここまで笑えるのかっていうくらいに笑うときもあって、「こんなに心が揺さぶられるんだ」という瞬間にたくさん出合えています。

注2…驚いたときの「すごい」「わぁ!」といった感嘆詞。

 朝ドラ出演は、『おかえりモネ』(21年)で1度経験している。当時と今とで何か変わった印象などはあるのか。

今田美桜

(写真/中川容邦)

 『おかえりモネ』では「東京編」での気象キャスター役で、途中参加だったのですが、清原果耶ちゃんが膨大なセリフ量もあるなか、周りに対する気遣いも素晴らしくて、「やっぱりヒロインになる人って本当にすごいんだ」と思いました。果耶ちゃんはあのとき19歳で、私よりも年下だけどこんなに頑張ってるんだと、すごく刺激を受けました。

 今回決まったときに、果耶ちゃんからも連絡をいただいたんです。ヒロインとして走り抜けた果耶ちゃんに応援の言葉をいただけて、やっぱり心強かったです。とにかく全力で、1度きりだから楽しもうと決心しました。

 『あんぱん』には、母親役の江口のりこのほか、嵩の親友となる辛島健太郎役で高橋文哉も出演と、『悪女(わる)』(22年)で共演した2人との再会の場にもなった。『悪女(わる)』に関しては、ステップアップできた作品の1つだと語る。

 “働く”という部分で大事にしたいことが詰まっていて、今でも何かあるとたびたび思い出す作品になりました。江口さんは上司の役で、面白い距離感だったのですが、今回はお母さんというより近い関係性になったので、すごく楽しみにしていました。文哉君が健太郎役だと聞いたときもうれしかったです。今のところ、それほどたくさん一緒のシーンがあるわけではないのですが、こうやって朝ドラという場で再会できたのは、ありがたいです。

 近年だと、映画『わたしの幸せな結婚』(23年)も特別な作品になりました。おとなしくて陰のある女性をそれまでは演じたことがなかったのと、塚原あゆ子監督とご一緒できたのがとても大きかったです。親身になって向き合ってくださる監督で、撮影の日々の1つひとつが大切な出来事として記憶に残っています。

 『あんぱん』も、終わったときに成長を感じられる作品にしたいです。見てくださる方々に寄り添えるような、温かい気持ちになれる作品をしっかりと届けたいです。

『あんぱん』

『あんぱん』

(写真提供/NHK)

第112作目の連続テレビ小説。『アンパンマン』の作者であるやなせたかしと暢夫婦をモデルにした、愛と勇気の物語。やなせは70歳直前にして、『アンパンマンのマーチ』の歌詞に「生きる喜び」を書いた。その背景には、戦争を含む激動の時代を共に生きて、けん引し続けた“ハチキンおのぶ”の存在があった。主人公の朝田のぶに今田美桜、柳井嵩役に北村匠海。朝田家の人々に加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、吉田鋼太郎、浅田美代子、柳井家の人々に、松嶋菜々子、二宮和也、中沢元紀、戸田菜穂、竹野内豊ほか。放送中/月~土曜8時/NHK総合ほか。

(写真/中川容邦 スタイリスト/小蔵昌子 ヘアメイク/渡嘉敷愛子)

衣装協力/トップス3万7400円(チノ/モールド TEL:03-6805-1449) パンツ4万5100円(参考価格/ガニーcustomerservice@ganni.com) 価格は税込

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