「Senses & Stories」、そして「Serendipity」

「レイジースーザン」は1981年、日本で初めてのパーティーグッズ・ギフト専門店として青山に出店した。女性の愛称のようだが、英語で「回転トレイ」を意味する。「店内を楽しく一回りするとパーティーに必要なものが全て揃う」ことをコンセプトにMDを構築。当時の日本では珍しかったインポートのステーショナリーやテーブルウエア、ラッピングペーパーなどを展開し、ギフトカルチャーへの関心を広げ、ファンを増やした。その後もライフスタイルの変化に対応しながらオリジナルプロダクトも積極的に開発し、ファッション雑貨やインテリア、アクセサリー、フレグランスなど領域を拡大した。2001年には、「スタイル&デザイン」をキーワードに、国・地域や時代を超えて手仕事やビンテージなどの上質なプロダクトを集積したセレクトショップ「インタッチ」を出店。背景にストーリーの通うアイテムに特化した業態だ。現在、レイジースーザンは主要都市に6店舗、インタッチは玉川髙島屋S・Cに1店舗を展開している。
「40年以上にわたりセレクトショップを運営してきたノウハウを生かし、出店する立地条件も含めて新たな業態を模索してきた」とトライセリーのディレクター大塚直子さん。そのチャレンジの場となったのが、大規模な再開発で街も来街する人々も大きく変化しつつある日本橋エリアだ。コレド室町3の2階フロア改装に伴い、大人の女性のためのライフスタイル提案型セレクトショップの新業態「トライセリー」を構想した。


トライセリー コレド室町店

コンセプトは「Senses & Stories(センシズ アンド ストーリーズ)」。感覚と物語を店作りの軸に据えた。感覚とは、プロダクトの心地良い素材感や機能、視覚はデザイン性や店舗空間、嗅覚はオリジナルのフレグランスがもたらすリラックス感。物語とは、一つひとつのプロダクトの背景に通う物作りのストーリーであり、店舗空間でのプロダクトとの出会いをきっかけに客自身が日常を豊かに紡いでいくことも意図されている。「TRISERY」のTRIは、「3」の意。SensesとStories、そして偶然の出会いから生まれる「Serendipity=思いがけない幸運」の頭文字である3つの「S」を組み合わせた造語にコンセプトを凝縮し、ショップ名とした。


トライセリーのロゴマーク

日本のデザイナーズブランドを軸に、服作りのストーリーを伝える

売り場面積は約80㎡。内装はサンドベージュを基調とし、柔らかなトーンの木目什器をレイアウトすることで馴染みやすく落ち着きのある空間を生んだ。存在感を放つのは店舗正面左の天井まで伸びる大きな柱。木目の柱周りに白い棚を巡らせ、4層で多様な雑貨やフレグランス、コスメグッズなどを集積する。その対角線上に配置されたオブジェも興味を引く。「T」の形にしなやかな曲線を描く3つの「S」を融合し、洗練された美しさと柔らかさを表現したブランドのロゴマークを立体化し、シンボリックに配置した。スチールフレームに木製ファイバーボードを貼り、鉄錆コーティング塗装を施したダークトーンのオブジェだ。空間のアクセントになると同時にパーティションの役割も果たし、通路から来るといったん視界が遮られ、進むと視界が開けて多様なプロダクトが見えてくる。レジにはカラフルなタイルが施され、クラシカルモダンな空気を漂わす。

二つあるエントランスの一方ではシーズンに合わせたキャッチ―なアイテム。訪日外国人客が手に取ることも多い
特殊加工したパーティションはオブジェのよう
逆側のエントランスではバッグなどをピックアップ

MDで注目なのは、やはりレイジースーザンとして初めて本格展開するアパレルだ。「レイジースーザンでは服の取り扱い自体が初めてのチャレンジになります。品揃えはセレクトが100%で、春夏・秋冬シーズンを軸に新作を毎月投入し、その時期に着たい服をタイムリーに揃えていく」と大塚さん。日本のデザイナーズブランドが8割ほどを占め、イタリアやフランスなど海外ブランドも混在する。メインターゲットとする30~40代の大人の女性が長く着用できるデザイン性や生地感、耐久性を備え、遊び心が添えられていることを基準にセレクトした。平均価格帯は、トップスが2万~4万円、ボトムスが2万~4万円、ワンピースが2万~5万円。


売り場にはピックアップしたアイテムの島が点在


服を掛けたラックの間にはファッション小物を陳列し、コーディネートを提案

「DELIY(デリー)」が展開する上質なリネン素材を使ったロング丈のタックスカートとドルマンスリーブのショート丈シャツは、トライセリーを象徴するセレクションだろう。折り畳みながら染め上げられた生地は、自然なシワのニュアンスと軽やかな風合いが魅力。セットアップはもとより、単品でも幅広いスタイリングを楽しめる。
カットワークやレース、刺繍などインドの伝統技術で開発した素材による「AAYUSHI(アユーシ)」のワンピースやブラウスも注目だ。三宅一生に師事したデザイナー青木計のディレクションで24年にデビューしたブランド。ワンピースはミルコットンボイル素材を使い、手描きのデザインから作り込んだウェーブレースが新鮮で、バンドカラーとフレアのシルエットにより上品でタイムレスな1着に仕上がっている。同素材のVネックブラウスは、フロントのティアードフリルがフェミニンで華やか。背面でたっぷりと寄せたギャザーにより、着る人の動きに合わせて優美なフレアシルエットを生む。
「ADAWAS(アダワス)」のニットはこれからの季節にぴったり。爽やかな印象を与える程よい透け感のメッシュ編みニットを、襟付きのポロカーディガンに仕上げた。トライセリーでは、左右のプリーツ幅が異なるアシンメトリーなデザインのロングスカートとのコーディネートをビジュアルで提案している。


「アユーシ」のウェーブレースワンピース


リネン素材を使ったロング丈のタックスカートとドルマンスリーブのショート丈シャツ


「アダワス」のメッシュ編みニットによるポロカーディガン


フリルが印象的な「アユーシ」のVネックブラウス

つい手に取りたくなる小物の品揃えはレイジースーザンの真骨頂

ファッション小物はレイジースーザンの得意とするところ。バッグやポーチなどは素材も幅広い。「LORISTELLA(ロリステッラ)」は05年にデビューしたイタリアのバッグブランド。レザーやファブリックを厳選し、スタイリッシュなフォルムにフェミニンな要素を取り入れることでモダンなエレガンスを漂わす。老舗が多いバッグ分野ではまだ若いブランドだが、ヨーロッパでは高感度なデザインとクラフトマンシップに加え、リーズナブルな価格も受けファンが増加、日本でも人気急上昇中だ。
グッとムードは変わって、双子のデザイナーによるロンドンのバッグブランド「the Jacksons(ザ ジャクソンズ)」のジュートバッグはカラフルで可愛いルックス。しなやかで丈夫なジュート素材をハンドメイドで織り上げた。サクランボやリンゴなどのフルーツ、「Bon Jour」「Ciao」「Smile」といった文字など気分を上げてくれるデザインが好評だ。デンマーク発のファッション・インテリアブランド「BONGUSTA(ボングスタ)」のトートバッグもユニーク。パイル地で作られ、カラフルなストライプなどポップなデザインが魅力的。タオルなので気軽に洗え、ビーチへのお出掛けなどに活躍しそう。

日本でも人気が高まっている「ロリステッラ」のバッグ
ジュート素材を織り上げた「ザ ジャクソンズ」のバッグ
「ボングスタ」のパイル地のトートバッグ

オープニングでは、レイジースーザンが88年から展開し、進化させてきた「バースデーウォッチ タイムレス」も揃えた。文字盤に12の誕生石を爪留めした腕時計で、今回が8代目のモデル。2代目モデルを復刻し、文字盤はゴールド、シルバー、ブラックの3色、ベルトは高級感のある牛革を採用した。


12の誕生石をあしらった「バースデーウォッチ タイムレス」

財布が充実しているのは、長年にわたり小物・雑貨を軸としてきたレイジースーザンの強みだろう。特定のブランドの財布であれば、そのブランドのショップに行けばいいが、買おうと思ったときにどこへ行けばいいのか意外と分からないのが財布。その財布を豊富に揃えることで、むしろ「ついで買いをするお客様が多い」という。服もあれば様々な小物・雑貨もある中で、「洋服を見て、バッグを見て、ポーチもあるんだ、眼鏡ケースもあるんだと発見しながら店内を巡っていき、財布もあることに気づく」。結果、目的買いというよりは、複数点のついで買いにつながっている。冒頭で述べたレイジースーザンの「回転トレイ」のコンセプトがトライセリーにも通底していることが窺える。


カラフルで様々な型から選べる財布

小物・雑貨は、服とは対照的で可愛く華やかな印象のものも並ぶ。「洋服は長く着られるデザインや素材を重視していますが、バッグに入れる小物は大人の女性でも冒険したいという気持ちを持った人が多いので、キュートなものやキラキラしたものも揃えている」と大塚さん。「LOVECHROME(ラブクロム)」のコームはレイジースーザンでもトライセリーでも人気のアイテム。なめらかで超硬質、さらに静電気を拡散する特殊技術を使ったコームで、通常のブラッシングと比べ、髪のダメージを最大70%以上カットする。スパンコールで花を表現したポーチ、ギフトにも人気のおしゃれガールやプードルなどのバッグチャーム、デンマークのリーディンググラスブランド「Have A Look(ハブアルック)」のカラフルなプロダクト、ケースに猫が描かれた「Andrea Garland(アンドレア ガーランド)」のアロマリップ・ネイルバームなど、つい手に取りたくなるものが歩を進めるにつれ現れる。

レイジースーザンのオリジナルフレグランス「& BOUQUET(アンドブーケ)」も注目。長らく取り扱いリピーターも多かったアメリカ製のフレグランスが本国で生産停止になり、顧客からの要望が相次いだことから、新たなフレグランスの開発に至った。「自分自身に贈る花束」をイメージし、花の香りをベースに調香した2タイプを提案している。透明感のあるフリージアの香りをシグネチャーノートとする「ブーケナンバーA」のオードトワレとオードパルファム、フローラルブーケの香調にフルーティーな香りを調和させた「シークレットフローラ」のオードトワレがある。イメージカラーを8つのノートの調香で表現した「8 EIGHT ELEMENTS(エイトエレメンツ)」と合わせ、プッシュする。香りは実店舗ならではの体験だけに、トライセリーでも「アンドブーケの認知を広めていきたい」としている。


オリジナルフレグランスの「アンドブーケ」(左)と「エイトエレメンツ」

店内ではトライセリーのコンセプトと親和性のあるブランドやプロダクトに焦点を当てたポップアップにも取り組む。取材時にはフランスのバッグブランド「JACK GOMME(ジャックゴム)」にフィーチャーしていた。ナイロンにポリウレタンをコーティングしたオリジナル素材は耐久性、耐水性に優れ、何よりも軽量、程よい光沢感を引き立てるフランスらしいカラー展開も魅力だ。


「ジャックゴム」のバッグ

今後はコレド室町店でアパレルを軸とした新業態のモデルを確立し、相応しい立地を選びながら出店も考えていく。「オンラインで何でも買えてしまう時代ですが、実店舗では一つひとつのモノの背景にあるストーリーをスタッフと共有、共感し、お客様自身の日常に豊かなストーリーが紡がれていく特別な体験を提供していきたい」としている。

写真/野﨑慧司、レイジースーザン提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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