2025年5月14日(水)~18日(日)に、IMM THEATERにて朗読劇『たもつん』が上演を迎える。本作は、NHK連続テレビ小説『虎に翼』などで知られる脚本家の吉田恵里香が、2015年に連続ラジオドラマとして書き下ろした1作。その後オンラインで配信され、このたび一部リライトしたものが朗読劇としてお披露目されるのだ。物語の中心に立つのは、営業職をしているユーキチ&空気が読めないお坊ちゃん・しゅうまい&野球部時代のウザいヤベ先輩という3人の“ちょいダメ男”。彼らによる、くすっと笑えて、くすっと泣ける友情コメディとなっている。キャストは俳優たちが3名ずつ入れ替わりで出演する。今回はユーキチ役の平埜生成、しゅうまい役の松岡広大の対談を実施。なんと12年ぶりの共演を果たすという二人が、本作に懸ける思いを空白の期間を埋めるように、ノンストップで語ってくれた。
――朗読劇『たもつん』の台本を読んで、どのような印象でしたか?
平埜:率直に、すごく面白かったです! もともと吉田さんがラジオドラマとして、初めて連続ドラマを書き下ろしたものだったんですよね。当時の全12話の台本を先にいただいて、最初に読みました。
松岡:そうなんですね!
平埜:うん。ラジオドラマは声だけで世界を表現しますよね。だからこそ朗読劇とすごく親和性があるなあと感じながらも、「どうやって朗読劇としてやるんだろう!?」と、今回の台本を興味深く読みました。吉田さんの作品『虎に翼』に(汐見圭役で)出演させてもらっていたりもしたので、ラジオドラマのときの吉田さんの脚本と、いろいろな作品を経て今、朗読劇を手掛けられた吉田さんの作品との変化みたいなものも感じたんです。……ちょっと偉そうなんですけど(苦笑)、熟練味が増しているというか、劇として洗練されてさらに面白くなっている印象を受けました。「これを自分が担えるんだろうか、自分にこんな面白くできるのだろうか?」というプレッシャーのようなもの同時に感じました。
――平埜さんが感じる吉田さんのホン(脚本)の魅力とは、どういうところにありますか?
平埜:とてもポップで明るくて楽しいという部分はベースにありながらも、少しキリッとする社会的メッセージ性みたいなものが吉田さんのホンにはあるのかなと、魅力に感じています。言うならば、強炭酸ではなく微炭酸の“辛口ジンジャエール”みたいな! ポップさの中にキリッとしたキレもあって。読んでいてすごく楽しいですし、いわゆる演劇の文語調みたいなものではなく、口語的になっているので発話したときにも言いやすいんです。吉田さんが社会に対してどういうスタンスで向き合われているのか、その人たちがどういう言葉を使っているのか、そういった細かいこともすごくリサーチされてるんだなぁと台本を読んでいて感じます。『虎に翼』のときも当時のことをすごく調べていらして、「それに対する言葉はこうじゃないか、ああじゃないか」と時代考証の先生とも擦り合わせて、それが私たちに届いていたんですね。役者としても喋りやすい台本という印象を持っています。
――松岡さん、今の平埜さんのお話に何度もうなずかれていました。台本を読んでいかがでしたか?
松岡:もはや朗読劇じゃなくても成立するな、と思いました。極めて写実的ですし、会話劇としてとっても面白いので、「あえて朗読劇でするのか」と思いながら読んでいました。今きな兄(平埜)がお話していた「口語的」というものが、僕もすごく腑に落ちるんですよね。吉田さんの台本は、舌に乗せやすい感覚があるんです。角がないからこそのウイットに富んだ笑いも、どストレートな笑いもあるし、ツッコミもあるし。なので……総じて、難しい台本だなと思っています。
平埜:ね、難しいよね!?
松岡:難しい! 口語的になると生っぽくなりがちだと思うので、演劇というものに昇華するためには、これはかなり苦戦するなという第一印象でした。僕は朗読劇自体が初めてなので、いただいた役もどこまで何をやっていいかもわからないというか。稽古の中で今日いっぱい試すしかないなと思っています。世間一般的にイメージされるような朗読劇、いわゆる座りながら、その椅子のところに明かりがポンとついていて、マイクがあって……という感じではないかもと思うんです。たぶんいっぱい動く予感がしています。
――今回、土佐和成さんを入れたグループで、お二人はユーキチとしゅうまいをそれぞれ演じられます。どのような役か、印象とともにご紹介をお願いします。
平埜:ユーキチは、観葉植物のレンタルの営業という仕事をしている人です。たもつんの結婚式の余興のために、何年ぶりかに同級生のしゅうまいと、(土佐演じる)学生時代のヤベ先輩と再会する。会話する中で、少しずつ関係性が変わっていくんです。3人ともダメ男だということが分かっていって、ダメ男がダメ男なりに必死に考えて、何か小さな希望を見出しているようで、「これ本当に見出しているのか?」みたいな感じです(笑)。あと……僕は広大とやるときはユーキチですけど、ほかの日はしゅうまいもやるんですね。
――千葉雄大さん、浜野謙太さんのグループのときですよね。
平埜:はい、そうです。だから、広大とやるときにしゅうまいのセリフを言わないことを、自分の中では気をつけなきゃなって……。
松岡:そうですよ、言っちゃダメですよ! ユーキチをやってください(笑)。
平埜:そうだよね(笑)。今回、台本もちゃんと2冊用意してもらったんです。1冊だけだったら絶対ごっちゃになっちゃうから。こっちがユーキチ用、こっちがしゅうまい用と分けています。難しいけど、すごく楽しいです。
――そもそも二役でというオファーに関しては、どのように受け止めたんですか?
平埜:最初は「できるものなんですか?」と逆に聞き返しました。
松岡:そうですよね!
平埜:僕も朗読劇自体が初めてなので、朗読劇界においてこの二役というのは割とよくあることなのか、あるとしてもそれは実現可能なのか、これまでやってきた人たちはどんな苦労をしてきたのか、みたいな。そのあたりをマネージャーさんと話して、スタッフさんともちゃんと打ち合わせをしてくれたようだけど、「たぶん大丈夫です!」と言われました(笑)。僕よりよっぽど経験を重ねている大人たちが言っているなら、「まあ……できるんだろうな!!」と思うようにしています。でも、すごい怖がっています。
――しゅうまいを演じる松岡さんからも、役どころのご紹介をぜひお願いします。
松岡:しゅうまいは父親が不動産をしていて、そのせがれで、自分もちょっと不動産をやりながらも基本は不労所得で生きている。なので働かなくていい、という。
平埜:いいよね~。
松岡:親のすねをかじって生きている人です。
平埜:最高だよね~。
松岡:はい(笑)。だけど、何か劇的なことが日常にあるわけではないし、何もかも手に入るのが彼の日常の中で当たり前なので、暇と退屈を抱えている人間なのかなと今は思っています。
――取材日がこのグループの初稽古日ですが、稽古場に来るまで、ご自身の中ではどう台本と向き合ってきたんですか?
平埜:聞きたい、それ!
松岡:「朗読劇」というのをなくして考えていました。今日、初めての立ち稽古くらいの感じです。僕がこれまでやってきたような演劇と、稽古の取り組み方は同じように思っています。
平埜:ちょっと待って! ……もしかしてセリフ入れた(小声)?
松岡:入れてない、入れてない。
平埜:よかった~焦った~!
松岡:きっと手元に台本がある状態ということ自体も、お客さんは楽しいんだろうなと思ったんです。台本を持ってやっているのを観るなんて、普段なかなかないじゃないですか。お客さんは本番なんだけど、遠し稽古を観ているような感覚になるのかな? まるでゲネプロを観ていただいているような、そんな気持ちで観てもらいたいなと思ったりもしました。
――平埜さんは、台本とどう向き合っていらしたんですか?
平埜:広大が言っていたように、このホンはすごく難しいんですよ。特にコメディというものは、僕の中では一番難しいジャンルだと思っています。本当に役者の力が試されるというか。見た瞬間に、その役者の力量がわかっちゃう領域だと思っているんです。それこそお笑い芸人さんのコントと何が違うんだ、みたいな話にもなってくるわけで。
松岡:すごく難しいですよね。
平埜:しかも台本を持ちながらやるから、次のセリフで突っ込まなきゃいけないのに、このページめくりどうしよう! とかもあるだろうし。そうなると、じゃあ、覚えなきゃいけないじゃん! みたいな。でも朗読劇というもので全部覚えていいものか、覚えられるかもわからないし、「どうすんの、これ!!」という。そういうテンパりをずっと感じています。昨日、千葉さんとハマケンさんのグループで初稽古をやったんですけど、演出の今井(隆文)さんは「そういうハプニングも含めて、エンタメにすればいいんじゃない」という話をされていて。
松岡:おお~!
平埜:「さすが演出家、いいこと言いますね!」と思って。ページ数がわからなくなったら、「今、何ページ? と言っていいから。これ、コメディだからさ」と。朗読劇だからこそ、これもエンタメにしようぜという話し合いも昨日しました。それで少しばかり気持ちは楽になりました。あと「台本を閉じる」とところどころ書いているんですよ。閉じるのはいいけど、開いたら見失う(笑)。昨日「どこ読んでるの!?」となって。
松岡:やっぱりなったんですね! 昨日、台本を読みながら喫茶店でそのことを考えていました(笑)。「これ、どうするんだろう」と。
平埜:どうしようどうしようって、昨日はみんなで笑い合っていました。あとは……やっぱり恥ずかしいなと。朗読劇を初めてやるので、台本を読みながら演じている姿を人様に見られるというのが、そもそも恥ずかしいなと思っちゃいました。
松岡:すごくわかります!
平埜:今まで台本を覚えて演じているのが普通だったから、カンニングしている姿を見られる、みたいな感覚。よく考えたら、読んでいるところをたくさんの人に見られるんだなとふと我に返ると「恥ずかしい!」ってなっちゃう。セリフを忘れて冷や汗をかくという恐怖はないので、読んでいいんだという安心感ももちろんあるんですけどね。だから今は、ただただ楽しくなることしか考えないようにしています。
――お二方の共演に関しても、お伺いしたいです。ご一緒するのは12年ぶりだそうですが、その間に交流はあったんですか?
平埜:ほぼないよね。1~2回くらいは食事に行ったことがあったけど、それもずいぶん前になっちゃうね。
松岡:ずいぶん前ですね。
平埜:本当に久々です。
――松岡さんは当時10代でしたよね?
松岡:そうです! 僕が15歳のときの初舞台がきな兄と一緒で、それ以来です。お芝居するのは本当に12年ぶりなんです。
――お互いのご活躍をどのように感じられていたんでしょうか?
平埜:広大は作品にすごく出ているから、広大の噂が結構入ってきているよ!
――噂が、入ってきている!?
平埜:もちろんいい噂ですよ! 俳優界はみんなそれぞれ噂が広まるので、広大の話も僕に入ってくるし、たぶん僕の話も……。
松岡:うん、入ってる!
平埜:そういう世界だよね。広大の話をなんとなく聞いていて「うわ、すごいなぁ。頑張ってるなぁ」と思っていました。最近、僕『NARUTO -ナルト-』(集英社)をもう1回読み返しているんですね。
松岡:え~っ!
平埜:やっぱりめちゃくちゃ面白いなと思いながら読んでいて。「待って、次、広大と一緒だ! これ(舞台版の主演)を広大がやったんだよな、めっちゃ羨ましい、超いいじゃん!!」と興奮しました。すごいことだし、こうやって共演できることがただただうれしいです。
松岡:そんなふうに言っていただけて、僕こそめちゃくちゃうれしいです。こんなに目を見ながら褒めていただけることなんてないですし、恥ずかしいです(笑)。僕、あまり褒められることも、そういう話を人から聞くこともないので。
平埜:そうなんだ!?
松岡:ないです。たぶん自分がちょっとそれを敬遠しているところもあって、あまり聞かないようにしていると思うんですけど。きな兄は、本当に変わっていないです。素直で、切実で、実感がともなってしゃべっている感じが変わっていないなと今日お話していてすごく思いました。実は……今日久々に会って、若干僕、人見知りしているんです(笑)。
平埜:えー、そうなんだ! なんか広大は大人になったというか。15のときは「元気一番」みたいなイメージだった。だからか、めっちゃ大人になってる感じを受けてる。会っていない広大の12年の間、何があったの?? ねえ?
松岡:(笑)。何があったのかな……!? たぶん15歳で演劇をやって、僕は演劇が大好きだなと思って。そこからいろいろなところに観に行ったり、足しげく通ったり、人と会って本を読んで、というのをしてきました。あとは、やりたいことが明確になってきている。僕は何が好きで、何が嫌いで、何を憎んで、何を愛していて、ということを毎日探しているんです。ちゃんとYES・NOを言えるようになってきた……そんな12年間でした。
平埜:そうか、すごいいろいろ気になる。ランチでもしながら語りたいね!
松岡:きな兄とゆっくり話したいです!
――今回演じるユーキチ、しゅうまいは総じてダメ男という話もありました。それにかけて、お二人のダメ男エピソードがあれば、教えてください。
平埜:え~何だろう……あ、僕はお金の使い方が荒いです!
松岡:え、そうなんですか?
平埜:特に書籍に関しては、結構使っちゃっていると思います。本屋さんに行って「この本、面白そう、買っちゃおう」と。そこの悩みはゼロなので、すぐポンっと買っちゃうんです。きっと、ほかの人からしたらイカれているように見えるだろうな、と思いました。しかも読まないで置いとくことも多くて……。
松岡:積読だ(笑)。
平埜:そう。机の上にいっぱいある(笑)。今月は絶対に買わないと決めても、本屋さんに行ってしまったら最後、買っちゃう。同じ本が家に2冊とかも全然あります。しかも、サイン本を見つけたら「え、サイン本ある!」とワクワクして買っちゃうし……。これはダメだなと思うので、自分で何となく律するようにしています。
松岡:でもそれ、僕も同じです。本にお金を使うことは、僕もよくします。戦争を体験した人のお話で、「戦後に財産や金品が一切なくなったけど、最後に残ったのは自分の知識だから、お金があるうちに本をたくさん読みなさい」みたいな格言があって。なのでというわけでもないんですけど、本にお金は全然払いますし、そこの葛藤もないです。ダメではないのかな、と思っています。
――たくさんのエピソード、ありがとうございました。最後に、これから公演を楽しみにしている読者に向けて、一言メッセージをお願いします。
平埜:この作品は、笑ってほっこりできる作品だと思っています。最近、自分が見ている作品はちょっとズーンとくるとか、「うわー、面白かった!」と思うものはたくさんあるんですけど、ほっこりをあまり経験していなくて。だからこそ、お客様にはぜひほっこりしに来てほしいです。
松岡:朗読劇なので、言葉でお客様がどこまでも想像できる余地があると思います。想像の余地と余白を表現しながら、演劇としても楽しんでいただけるように頑張ります。朗読劇が初めての人でも俳優が最終リハーサルをやっているのを観に行く、くらい気楽に楽しみに来ていただければうれしいです。
取材・文=赤山恭子
公演情報
朗読劇『たもつん』
脚本:吉田恵里香
演出:今井隆文
出演:
落合モトキ、千葉雄大、土佐和成、八村倫太郎(WATWING)、浜野謙太、平埜生成、松岡広大、渡邊圭祐(※50 音順)
[全日程出演]渡邉美穂/今井隆文
日程:2025年5月14日(水)~18日(日)
5月14日(水)19:00 千葉雄大、平埜生成、浜野謙太
5月15日(木)19:00 平埜生成、松岡広大、土佐和成
5月16日(金)14:00 渡邊圭祐、八村倫太郎、落合モトキ
19:00 渡邊圭祐、八村倫太郎、落合モトキ
5月17日(土)11:00 平埜生成、松岡広大、土佐和成
15:00 渡邊圭祐、八村倫太郎、落合モトキ
19:00平埜生成、松岡広大、土佐和成
5月18日(日)13:00 千葉雄大、平埜生成、浜野謙太
17:00 千葉雄大、平埜生成、浜野謙太
[全日程出演]渡邉美穂/今井隆文
※配役の詳細はHPをご確認ください。
会場:IMM THEATER
:全席指定/未就学児入場不可
¥7,800(税込)
公式X:@tamotsun2025
公演事務局:0570-200-114(12:00~17:00 土日祝休業)
主催・企画・製作:サンライズプロモーション大阪