「完成した作品を観たときに、(高倉)健さんの声が聞こえた」
ーー『新幹線大爆破』は予算もかなりかかっていますよね。
草彅:いやぁ、たしかにかかってますね。Netflixは、エンターテインメントを生み出すときに、出し惜しみしないんですよ。そういうところが、人々を喜ばせている要因なんじゃないかなと思います。ただ、もちろんお金をかけたとしても、そこに人の魂が乗っかっていないといいものにはならない。『新幹線大爆破』に関しては、そのあたりもちゃんとしていたからこそ、いい相乗効果が生まれたんだと思います。
ーー繊細な人間ドラマも、今作の魅力のひとつですよね。
草彅:そうなんですよ。ちゃんと人間ドラマが描かれているところがいいですよね。というか、新幹線って実はめちゃくちゃ人間ドラマが詰め込まれていると思いません?
ーーというと?
草彅:大阪で番組をやっているので、定期的に新幹線に乗るんですけど、車掌さんが感情をあらわにしたところって見たことがないんですよ。でも、本当はものすごく熱い気持ちを持っていると思うんですよね。乗客のことも見守ってくれているというか。今回の撮影を経て、新幹線には日本のおもてなしの精神や優しさが隠されているんだなと気づきました。
ーー今回の役は、受けの芝居が多かったと思います。そのあたりは意識されましたか?
草彅:そうですね。受けの芝居、意識しまくりましたよ! 現場では、“受けのつよちゃま”と呼ばれていましたから。
ーー“受けのつよちゃま”ですか!?(笑)
草彅:はい(笑)。松尾くんが言い出したんです。「今日も、“受けのつよちゃま”が受けの芝居をしてくれるよ〜!」って。よく分からないですよね(笑)。でも、松尾くんがいると、“受けのつよちゃま”に変身することができるんですよ。彼のおかげで、演じきることができたなと思います。松尾くんがいなかったら、できなかったんじゃないかな。
ーー松尾さんとは、ゆかりがあるんですよね。
草彅:そうそう。新しい地図を広げたとき、「これからどうなるんだろう」って、不安もあったんですよ。そんなときに、舞台の仕事が飛び込んできて。そこで松尾くんと共演したんです。違う作品で一緒に海外に行ったこともあるし。
ーーのんさんとの初共演はいかがでしたか?
草彅:のんちゃんは、YouTubeを見たことがあって。ギターが上手なんですよね。(斉藤)和義さんのコンサートにも行ったことがあるらしいので、合間にはそういう話をしていました。ギターの話、もっとできれば良かったなぁ。いつか、僕のYouTubeにも来てもらいたいです!
ーー樋口真嗣監督との本格的なタッグは、2006年の『日本沈没』以来ですよね。
草彅:実は、樋口さんは唯一連絡先を交換した監督さんなんですよね。『日本沈没』の撮影以来、ずっと仲良くさせていただいているので、また一緒にお仕事をすることができてうれしかったです。
ーー樋口監督は2月に行われたイベントで「草彅さんがいろんな作品に出る中で、観ていて嬉しい反面、自分が撮れない悔しさもあり、すごくやきもきしていた」と草彅さんへの愛を語っていました。
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草彅:本当に愛していただいて……。僕が出ている舞台もいつも観に来てくださるんですよ。でも、ひとつだけ言わせていただきたい! 樋口さんは“やるやる詐欺”なんですよ! 半年に1回くらい電話をかけてくるんです。「草彅くん、やるよ!」って。でも、本当にやることになったのは、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド・オブ・ザ・ワールド』だけですよ。しかも、ワンシーンだけ……。だから、今回も「やるよ」って言われて、「またいつものやつじゃん」と思っていたら……。
ーー今回は本当だったと。
草彅:台本が届いてビックリしました。「今回は本当だったんだ!」って。僕、ここまで長く連絡を取っている人って、樋口さんくらいなんですよ。だいたい連絡先とか交換しないから。でも、樋口さんは大先輩だし、監督と役者としてのラインは超えてはいけないと思っていて。友達じゃないから、公私混同しちゃいけないと思ってるんだけど、いつも会って10秒くらいすると友達みたいになっちゃって(笑)。
ーー今回の撮影現場でも?
草彅:そうそう。というか、『日本沈没』のときから! 途中から、敬語を忘れちゃったりして。そんな監督は樋口さんしかいないんですよ。なんでだろう……。樋口さんの前だと「いいでしょ」ってなっちゃうんですよね。でも、そんななかでもちゃんとしないといけないし、なあなあになっちゃうといいものができないわけで。なのに、『新幹線大爆破』みたいな立派な作品を作り上げることができたっていうのはすごくうれしかったんですよね。仲良い友達同士みたいな関係性なのにって。(高倉)健さんの気持ちも込められていますしね。
ーーもし高倉健さんがこの作品をご覧になったら、何ておっしゃいますかね?
草彅:僕が完成した作品を観たときに、健さんの声が聞こえたんですよね。もちろん、実際に聞こえるわけじゃないんだけど、「よかったよ。剛くん、車掌に見えるよ。うれしいだろ」って言われた気がして。実際には、「ちゃんとしてないとすぐ見透かされるよ」とも言われそうだなぁ……。健さんは、『あなたへ』(2012年)という映画で共演したとき、「次回もまたやろうよ」って言ってくれたんですよね。「今回の役も良かったけど、もっと一緒に撮りたいね」って。僕、めちゃくちゃうれしくて。だから、今回の作品に健さんは出演していないけれど、見守ってくれていた気がするんですよね。『新幹線大爆破』を観てくれる方には、僕を通して健さんのグルーヴを感じてもらえたらなと思っています。
ーーやはり高倉健さんから学んだことは大きいですか?
草彅:そうですね。やっぱり、生き方とか。普段、どうやって生きていくかが、演技をする上で大切なことなんだと教えてもらいました。果たして、どういうふうに生きていけばいいのかは分からないけど、今も毎日問いかけています。「こういうふうに生きていくのが正解なんですか?」「こんなふうに思っている自分は正しいですか?」って。これは、毎日欠かすことがないです。自然に問いかけているんですよね。健さんだけでなく、(大杉)漣さんや、つか(こうへい)さんにも。
ーー先輩方の存在が今の草彅さんを作っているんですね。
草彅:はい。本当に良くしていただいて、かわいがってもらっていたので。だから、さっきも言ったように、実際に聞こえるわけじゃなくても、会話が作られていくというか。『新幹線大爆破』の撮影中も、健さんと時間を共有している感じでしたから。健さんの魂が自分のなかに宿っているなと思う瞬間もあったりして。これは、この年になってからですけどね。みなさんが亡くなってから時間が経って、自分も年を重ねて、会話できるようになった。
ーー今後は、そのグルーヴを草彅さんが受け継いでいく立場にもなっていきますね。
草彅:いやぁ、たしかにみんな年下になってきてますもんね。感じ取ってもらえたらうれしいですけど。
ーー具体的にアドバイスしたりは?
草彅:ないですね! 僕はギターとブーツとヴィンテージデニムのことしか頭にないので(笑)。教えるとかはダメですね。だから、自然な形で感じ取ってもらえたらありがたいんですけど……。でも、後輩たちの手助けになることがあれば、もちろん率先して頑張りたいと思うので、ぜひ声をかけてください!
■配信情報
Netflix映画『新幹線大爆破』
独占配信中
出演:草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工
監督:樋口真嗣
脚本:中川和博、大庭功睦
原作:東映映画『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌、脚本:小野竜之助/佐藤純彌、1975年作品)
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:石塚紘太
ライン・プロデューサー:森賢正
准監督:尾上克郎
音楽:岩崎太整、yuma yamaguchi
撮影:一坪悠介、鈴木啓造
照明:浜田研一
録音:田中博信
美術:佐久嶋依里、加藤たく郎
スタイリスト:伊賀大介
編集:梅脇かおり、佐藤敦紀
アクション・コーディネイター:田渕景也
VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀
ポストプロダクションスーパーバイザー:上田倫人
Compositing Supervisor:白石哲也
リレコーディングミキサー:佐藤宏明(molmol)
音響効果:荒川きよし
ミュージックスーパーバイザー:千陽崇之
特別協力:東日本旅客鉄道株式会社 株式会社ジェイアール東日本企画
制作プロダクション:エピスコープ株式会社
製作:Netflix
リアルサウンド映画部編集長。バラエティ番組のAD/テレビドラマの助監督、ナタリーのプロモーションプランナーを経て、2015年9月からリアルサウンド映画部に在籍。
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菜本かな
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メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。
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加古伸弥
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1995年生まれ。フォトグラファー/ビデオグラファー/エディター
コマーシャルフォトグラファーに師事後2024年独立
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