「Yolanda Hayes」(2007年:4th『Traffic and Weather』収録)

『Traffic and Weather』はFOWの作品群の中でも見過ごされがちだが、この曲でアダムはビートルズ愛を全開にしている。「Getting Better」を彷彿とさせるギターに、ポール・マッカートニー風のメロディを完璧に模したバラード。

その題材はというと、地元のDMV(運転免許センター)の窓口係に恋してしまった男の物語だ。〈蛍光灯の下でもちゃんと可愛い/夜、家に帰った彼女はどんなふうなんだろう〉と妄想を膨らませる彼。バンドが2000年代に生み出した名曲の多くと同様、まるで「どんなに退屈なシチュエーションでも名曲が書ける」と誰かに賭けを挑んだかのような設定だ。今回はめずらしくハッピーエンド。列に並んで順番がまわってきたとき、ヨランダが彼に微笑んだ……ように彼には見えた。それが真実かどうかはさておき、次に免許の更新に行くとき、この曲の黄金のようなサビがふと頭をよぎったとしても、きっと悪くない。

「I-95」(2007年:4th『Traffic and Weather』収録)

FOWは、人生の平凡さと格闘する“普通の人々”を描くのが抜群に上手かった。そして、アメリカ東海岸の高速道路を9時間かけて走る——という、これ以上ないほど退屈なシチュエーションを題材にしたこの曲も、その例外ではない。道中、主人公が目にするのは、バーニーのDVDや「Virginia is for Lovers」と書かれたTシャツを売るサービスエリアの土産店、バンを運転する年配の男性、そして雑音まじりのラジオから聴こえるバスドラムのような音——そんな風景が、FOWならではのポップカルチャー的ディテールで淡々と綴られていく。

しかし曲の途中で明かされるのは、彼がなぜそんな長旅に耐えているのかという理由。会いに行く相手がいるのだ。そしてその人のもとへ向かえるなら、何度でもこの道を走りたい——そう思っている。スローモーションのように展開するこのバラードは、細部にまで文学的な描写が行き届き、70年代のAMラジオ的ノスタルジーがふわりとかかっている。そして何より、オルタナ・ロック史上もっとも愛すべきラブソングのひとつであることは間違いない。

「The Summer Place」(2011年:5th『Sky Full of Holes』収録)

『Sky Full of Holes』の冒頭を飾るこの曲は、アコースティック・ギターの陽気なストロークがビーチの風のように吹き抜ける、まさにFOW流のサマー・チューン。そのサウンドには、アメリカの名曲「Sister Golden Hair」ばりの70年代的なノスタルジーが香り立ち、バンドはそのレトロで王道なムードを見事に着こなしている。しかしそこから自然に、エルヴィス・コステロ(『This Year’s Model』期)を思わせるような、軽快でウィットに富んだ社会批評へと転じるのが彼ららしい。

歌詞で描かれるのは、子どもの頃から毎年通っていたファイア・アイランドやケープ・コッドのような夏の別荘に、ある女性が中年になった今もやってくる、という物語だ。語りは彼女のうんざりした中年の視点と、子ども時代の「退屈だけど少しだけマシだった思い出」の間を行き来する。万引きがバレた日、マジックマッシュルームを食べて救急搬送された日——そんな過去の冒険(という名のトラブル)が断片的に描かれる。バンドはこう歌う。〈夏の家では、傷は癒えても/記憶は一生消えない〉——シーグラムのウイスキーも、燦々とした太陽も、人生の失望から私たちを救ってくれる一時的な鎮静剤にすぎない、とでも言うように。

それでもこの曲を特別なものにしているのは、迷える富裕層を描くときによくある冷笑や皮肉が一切ないこと。同情の余地があるかどうかすら曖昧な登場人物に、これほど愛らしくキャッチーな一曲を贈れるバンドは、そう多くない。

「Richie and Ruben」(2011年:5th『Sky Full of Holes』収録)

『Sky Full of Holes』には、アダムが得意としたほろ苦い短編小説のような楽曲がぎっしりと詰まっている。「Action Hero」では、退屈な日常に飽きた中年の父親が“もっと刺激的な人生”を夢想する様子が描かれるが、それは同時に、より商業的な音楽スタイルを模倣してきたシュレシンジャー自身の“サイドキャリア”を暗示するメタファーでもある。

一方の「Richie and Ruben」は、行動力だけは一人前で、冷静な判断力には欠ける2人の起業家を描いた皮肉まじりのコミカルな物語だ。彼らが立ち上げたブティック「Debris」では、〈漂白剤と黒い汚れで最初からシミだらけ/ビリビリに破れたシャツが11万円〉という代物が売られていたらしく、〈ちょっと高すぎじゃない?〉と語り手は呆れている。彼らの失敗談は短いフレーズで鮮やかに描かれており、その巧みさゆえに、何度か聴かないと気づかないかもしれない本当のオチが隠されている。それは、この物語が全知全能の客観的な語り手ではなく、何度も彼らのダメなアイデアに投資してしまった“友人”の視点で語られているということ。
結局、リッチーとルーベンは、この曲そのものと同じくらい魅力的だったのだ。

Sky Full of Holes Fountains of Wayne

From Rolling Stone US.

★FOWの人気曲をさらに振り返る


ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES. 2025 in Yokohama
2025年5月31日(土)/6月1日(日)
Kアリーナ横浜(神奈川県)
開場:9:00/開演:11:00/終演:20:30(予定)

出演アーティスト(※主催者以下 アルファベット順)
■ 5月31日(土)出演
ASIAN KUNG-FU GENERATION(JP)
ELLEGARDEN(JP)
FOUNTAINS OF WAYNE(US)[NEW!]
HOVVDY(US)[NEW!]
NICK MOON(UK)[NEW!]
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC(JP)
ストレイテナー(JP)
VOICE OF BACEPROT(IDN)
THE YOUNG PUNX(UK)[NEW!]

■ 6月1日(日)出演
ASIAN KUNG-FU GENERATION(JP)
The Adams(IDN)
BECK(US)
FOUNTAINS OF WAYNE(US)[NEW!]
HOVVDY(US)[NEW!]
NICK MOON(UK)[NEW!]
くるり(JP)
YeYe(JP)
THE YOUNG PUNX(UK)[NEW!]

公式サイト:https://www.nano-mugenfes.com/

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