4月期の春ドラマが出そろった。フジテレビ騒動を発端にテレビ局の体質が問われ始めた中、情報番組ディレクター、報道番組キャスター、芸能マネジャーなどを主人公にしたギョーカイ内幕モノが多発し、見応えもまちまちだ。「勝手にドラマ評」第62弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(主要枠のみ、シリーズものは除く)。

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月9ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(C)フジテレビ月9ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(C)フジテレビ

◆「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系、月曜9時)小泉今日子/中井貴一

★★★★★

前作から11年。副部長だったキョンキョンはもうすぐ定年、中井貴一は市役所再雇用中。「セカンドライフを考える」というテーマがドンピシャでやってきて、定年世代になっても変わらず減らず口で支え合う2人が3作目も面白い。長倉ファミリーのセカンドライフ第1号は飯島直子。ベランダで「つまんねぇ」「終わった」の58歳主婦がグラビアに挑戦する決意表明がかっこよかった。三浦友和、石田ひかりという新たな恋人候補登場で今回はどんなひと波乱があるか。死んだ人に「マジ殺す」の悪態から、「さみしくない大人なんていない」の本音まで、脚本岡田恵和氏の会話劇が健在。

火9ドラマ「人事の人見」(C)フジテレビ火9ドラマ「人事の人見」(C)フジテレビ

◆「人事の人見」(フジテレビ系、火曜9時)松田元太/前田敦子

★★★☆☆

人事部にやってきたおバカ系男子が、会社の問題を型破りに解決。このところバラエティー界で愛されまくっているTravis Japan松田元太。その天真らんまんな人間性にほれ込んだ制作陣がアテ書きしたというだけに、常識にとらわれない対人スキルがちゃんとヒント集になっている。面会拒否の新入社員に会いたくてウーバー配達員になったり、旧態依然の花形部署に“異動”してみたり。バカバカしく見えて、懐に飛び込む力、人をちゃんと見ている頼もしさを松田元太がしっかり表現するので、着地に妙な説得力あり。人事部キャラ9人は多すぎ。本線と関係ない個々の自分トークが9人分。

火曜ドラマ「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」(C)TBS火曜ドラマ「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」(C)TBS

◆「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」(TBS系、火曜10時)多部未華子/江口のりこ

★★★★☆

専業ママ、両立ママ、妊活主婦、エリート官僚パパなど、「自分とは対岸にいる人たち」が家事を通して異文化交流。「世間から見たらそれは仕事じゃない」と言われながら家事育児を頑張る多部ちゃんも、両立の無理ゲーにメンタルを削られていく江口のりこもつらく、ひょんなことから屋上で語り合った1話のラストに救われた。重いテーマがギスギスしないのは、作品をおおらかに包む主演の力。「肩代わりではなく、肩を貸す」。立場によって毒にも薬にもなる問題提起にハレーションがあるのはいいこと。どの道を選んでもあれこれ背負わされるので、対立するより、いばらの道を共有したい。

水曜ドラマ「恋は闇」制作発表で水曜ドラマ「恋は闇」制作発表で

◆「恋は闇」(日本テレビ系、水曜10時)志尊淳/岸井ゆきの

★★☆☆☆

女性連続殺人事件を追うTVディレクター(岸井ゆきの)&週刊誌記者(志尊淳)のラブと、愛した男が犯人かもというサスペンス。1話は対極のジャーナリズム論を盛り込んで社会派路線も感じさせたが、2話で「ラブ」だけに。撮った遺族コメントがボツになり、「悔しい」と泣きながら抱き合って謎のディープキス(汗)。1話の志が跡形もない。2人のベッドシーンも、「花びら捕まえた」の急なメルヘンも戸惑う。田中哲司の「事件はエンタメ」の真意や、中途半端な正義を叫んでコテンパンにやられるヒロインの姿は「キャスター」よりリアル。本当に描きたかったのはこっちの方なのかも。

◆「波うららかに、めおと日和」(フジテレビ系、木曜10時)芳根京子/本田響矢

★★★★★

昭和初期、親の決めた結婚から始まるラブコメディー。ドロドロな不倫ドラマばかり量産される中、久々に若々しいピュアなラブコメに心があったまる。夫となる海軍将校、瀧昌さまに、ほぼ新人の本田響矢を抜てき。はじめましてなお顔が「初めて会った人との結婚」をリアルに立ち上げ、1歩ずつ距離を縮めていく2人の新婚生活にキュンがぎっしり。若き将校の折り目正しさと、年相応の胸の内のギャップ。寝顔に向かって「メシうまかったです」にほろっときた。芳根京子の「初夜とは何をするんかっ」と、瀧昌さまのリアクションは今期の爆笑名場面。時代的に切ないひと波乱もありそう。

金曜ドラマ「イグナイト-法の無法者-」出演者たち金曜ドラマ「イグナイト-法の無法者-」出演者たち

◆「イグナイト-法の無法者-」(TBS系、金曜10時)間宮祥太朗/仲村トオル/上白石萌歌/三山凌輝

★★★★☆

訴訟を起こさせ大金を稼ぐ、アウトロー弁護士集団の活躍。カネのにおいがするモメ事探し、物は言いようの交渉術など、依頼をゲットするまでの手腕を描くのは新しい。「争いは、起こせばいいんだよ」。しれっと依頼人をたきつける事務所のボス、仲村トオルがクラシカルでスタイリッシュな世界観をけん引し、たきつけられて事務所に来た新参者、間宮祥太朗の青臭さといい両輪に。作業員転落の真相、大学ラグビー部の闇など1話完結スタイル。論理展開をあれこれすっ飛ばして賛否あるが、目指す作品性と4人のチーム戦は明快。見せるための誇張と省略の範囲内で、個人的には気にならない。

金曜ナイトドラマ「魔物」(C)テレビ朝日金曜ナイトドラマ「魔物」(C)テレビ朝日

◆「魔物」(テレビ朝日系、金曜11時15分)麻生久美子/塩野瑛久

★★★★☆

弁護士と容疑者の禁断の恋を、韓ドラ「梨泰院クラス」のSLLとテレビ朝日が共同制作。美しい男女の抑圧された出会いがすでにエロく、映像美、自立した女性&年下男子設定、手加減なしのDV描写、数奇にねじれていくミステリーなど、韓国ドラマらしい世界観を打ち出してきた。「梨泰院クラス」「SKYキャッスル」の廉価版リメーク期を経て、オリジナルに挑戦という次のフェーズに入った感じ。危うい男にのめり込んでいく麻生久美子も、二面性を現し始めた塩野瑛久もどこか文学的な美しさがあり、殺人ミステリーによく合う。好きなジャンルとは違ったが、韓ドラ印の丁寧な作り。

土曜ドラマ「なんで私が神説教」(C)NTV土曜ドラマ「なんで私が神説教」(C)NTV

◆「なんで私が神説教」(日本テレビ系、土曜9時)広瀬アリス

★★☆☆☆

なりゆきで教師になり、したくもない説教に奮闘する元ニート女子。「黙れガキ」以外、今のところメモしたくなるような神説教に出会えていない自分にへこむ。ネットを丸暗記した説教、苦し紛れのきれいごと、勢いで出た本音など、説教の球種が多すぎていろいろ読み抜ける。2股恋愛の仲裁から、ママ活で稼ぐ男子生徒の事情まで、幅広いテーマを広瀬アリスが豪腕でリードするが、心の声で全部説明しちゃう感じと、机をバンバンたたくヒロイン像は苦手だった。学校が急に「75人退学させる」方針を打ち出した3話から、“更生させて退学阻止”という説教の動機がはっきりして見やすくなった。

日曜劇場「キャスター」(C)TBS日曜劇場「キャスター」(C)TBS

◆「キャスター」(TBS系、日曜9時)阿部寛/永野芽郁/道枝駿佑

★★★☆☆

「ニュースゲート」キャスターに就任した主人公が、「ぬるい番組をぶっ壊す」と報道改革。テレビ局の内幕と事件究明の道のりにわくわくした「エルピス」路線を期待したが、最初からお見通しの何かでスクープにたどり着き、現場感、カタルシスともに弱め。「総合演出」として阿部寛に立ちはだかるはずの永野芽郁が駆け出しのADのように描かれてしまい、対立軸がほぼない状態。若手ディレクターの道枝駿佑を振り回した方が、普通に取材と学びが走りそう。スポーツ賭博、ナントカ細胞発見など、実際の事件を下敷きにしたストーリーはカラフルで、ライトな1話完結として楽しみ中。

日曜ドラマ「ダメマネ!~ダメなタレント、マネジメントします~」(C)NTV日曜ドラマ「ダメマネ!~ダメなタレント、マネジメントします~」(C)NTV

◆「ダメマネ!~ダメなタレント、マネジメントします~」(日本テレビ系、日曜10時半)川栄李奈/安田顕

★★★☆☆

芸能事務所のマネジャーになった元天才子役が、崖っぷちの所属タレントたちを再生。今や老害で仕事がない名優も、コンプレックスで自滅しがちな新人女優も、川栄李奈との二人三脚でいいドラマがあったので、「天才子役の過去がバレたらクビ」「実はすべて台本通り」など、あれこれ設けた初期設定が窮屈そうでもったいない。「芸能4部」の吹きだまり一同によるおふざけコーナーが頻出し、作品のジャンルとテンションが散らかりがち。もっと主演女優を信じて任せてもいいのでは。「芸能1部」のスター、山田涼介がそれとなく作品の格調を支えていてすごい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)

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