「あなたもここでしばらくお日様に干されたら、塩梅良くなるんじゃないかしら」
薬膳では、体を冷やす食材は「寒性」、体を温める食材は「温性」に分類される。秋の味覚である柿は「寒性」の食材で、体の余分な熱を取ってくれるが、冷え性の人は注意が必要。また不溶性食物繊維が豊富に含まれていて消化に時間を要するため、胃腸が弱っている人も控えた方が良いとされる。ところが、干し柿にすると「温性」の食材に変身し、なおかつ肺を潤して消化吸収を助けてくれるのだ。

桜井ユキがなぜ画期的な主人公なのか 『しあわせは食べて寝て待て』の真摯な病気の描き方
スタート以来、良作を生み出し続けているNHK夜22時からのドラマ放送枠、「ドラマ10」。何度かの改編を経て2010年より掲げてい…
人間も環境によって性質が変化する。『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)第5話では、鈴(加賀まりこ)との生活で良い塩梅を探る司(宮沢氷魚)の過去が明らかになった。
さとこ(桜井ユキ)はレンタルルームサービスを始めたことで心労が増え、体も不調気味に。自分を大切にするためにも副業は諦め、再びパート先と家を往復する日々を送る。そんな中、山へふらっと出かける司の姿を目撃。鈴に勧められ、さとこは司に山を案内してもらう。

少しずつ色づき始めた木々に囲まれ、司と並んでお弁当を食べるさとこ。「旅の恥はかき捨て」とはよく言ったもので、非日常の中では普段は人にしないような話もポロっと溢れる。そこでさとこが知るのは、謎多き司の過去だ。
血の繋がらない鈴の家にタダで居候させてもらう代わりに、家事全般を請け負っている司。無職だけど、物知りで団地の住民からは頼りにされている。親切でいつも人の世話を焼いているが、自他の境界がはっきりしていて押し付けがましくない。不思議な心地良さが本作を象徴するようなキャラクターだ。
そんな司は、いわゆる元“ヤングケアラー”で、高校生の頃から祖母と母の介護を担ってきた。長年の介護生活で誰かの人生を背負うことの大変さや自由を奪われることの苦しみを実感したからか、交際していた女性との結婚にも前向きになれず、破局したことで今は独身主義を貫いている。
と、ここまでがさとこの知る司の過去で、彼にはまだ言っていないことがあった。それは幼い頃に母と自分を置いて、蒸発した父のこと。知っているのは同居する鈴だけだ。仕事を辞めてテント生活をしていた司の靴を偶然、鈴が拾ったことで知り合った2人。鈴が風邪を引いていた司を助け、お礼に司が夫を亡くしてから身の回りのことがままならなくなった鈴を助け……。そんな風にお節介を焼き合う内に、2人は自然と一緒に暮らすようになった。

90歳の鈴との暮らしは介護生活を思い出して苦しくなりそうだが、家賃の分働いているという建前があるから司も気持ちが楽なのだろう。それでも自分がいつか鈴の元からふらっといなくなってしまうのではないかという意識が拭えないのは、父のことがあるから。家族を捨てた父の気持ちが介護を経験して皮肉にも理解できてしまった司は、自分のことさえも信じられなくなってしまったのだ。
