作品のインパクトという点では、稀に見る強烈さを放つ。ジャンルとしてはいわゆる“ボディホラー”要素も強い。つまり肉体が変容する恐ろしさを描いているので、一歩間違えればB級の珍品映画になったかもしれない。そんな作品が観る人の多くを虜にしているのだから、『サブスタンス』は奇跡の傑作だ。主人公は、50代になって仕事が少なくなったことに悩む元スター俳優のエリザベス。容姿の衰えも気になっていた彼女は、若返りの再生医療を試みる。その結果、別人のような外見になり、新たな仕事も舞い込んでくるのだが……。永遠の若さと美しさを求める物語は過去にもあったが、本作の描き方はセンセーショナルそのもの。いったいどんな結末が待っているのか心の準備をしていても、その予想を数段上回るクライマックスに目を疑ってしまう。
エリザベスを演じるのはデミ・ムーア。かつて『ゴースト/ニューヨークの幻』などで大人気スターになった彼女も、近年は俳優としての活躍のニュースが激減。そんなデミがエリザベスを演じるのは自虐的でもあるが、心配をよそに振り切った演技で圧倒する。そして若返ったシーンを演じるのが、いまハリウッドの若手で最も注目を浴びるマーガレット・クアリー。賞レースでは2人とも高い評価を受けており、特にデミにとっては復活の一作となった。ハリウッドセレブとしての日常の暮らしぶりやファッションで視覚的にテンションを上げ、皮肉とユーモアたっぷりに描かれる業界の内情、そして“若返り薬”を注入する超ハードなシーン……。多くの見どころに心を掴まれつつ、若さや美しさへの過剰な信奉がいかに不毛であるか、その事実を突きつけられたとき、本作は忘れがたい記憶となる。お披露目されたカンヌ国際映画祭で各国のバイヤーが配給権を争ったのも納得の、怪作にして大傑作!
Text: Hiroaki Saito Editor: Yaka Matsumoto
