──「都市の映像を利用した作品」としては、いわゆる「監視社会」を表現するような作品も多くありますが、今回の作品はそのような主張もあるのでしょうか。

そうした作品もリサーチと試行錯誤の段階で多く参照しましたが、今回はあまりそのような主張は考えずに取り組んでいます。ビル全体に環世界としてのデータ空間があり、そこには何かしらの相互作用があり、見る・見られる関係が当たり前に存在している。そのような感覚をフラットに抱かせるものであることを意識しました。

──ありがとうございます。最後に、永松さんが今後取り組みたいアイデアや、取り組んでいきたい方向性、目指す姿について教えてください。

取り組みたいアイデアは多くあります。今回の延長線上で、スリットスキャンの技法から文化史を深堀りする表現につなげていきたいと考えていますし、建築やサイネージでは例えば裸眼立体視なども、まだまだ表現としての可能性が眠っていると感じています。

素朴な、必ずしも目新しくはない表現のほか、昔からあるアイデアで使い方がまだ限定的になっている表現がまだまだたくさんあると思っています。わたしはインタラクティブアートやオーディオリアクティブを起点にしていますが、その範囲で見渡すだけでも結構いっぱいあると感じていて、そういうところを取り出していろいろやっていきたいです。

2月22日、TODA HALL amp CONFERENCE TOKYO Room402にて、永松とジェネラティブアート振興財団代表理事の高尾俊介によるトークイベント「アルゴリズムの景観:ジェネラティブアートと都市の交差点」も開催された。

2月22日、TODA HALL & CONFERENCE TOKYO Room402にて、永松とジェネラティブアート振興財団代表理事の高尾俊介によるトークイベント「アルゴリズムの景観:ジェネラティブアートと都市の交差点」も開催された。

PHOTOGRAPH BY FUKA KATO

──特に、美術や歴史をしっかりと学んで、プログラミングの現場も経験してきている永松さんならではの視点もあるのではないでしょうか。

そうかもしれません。20世紀半ばに、ドイツでは哲学者/アーティストのヨーゼフ・ボイスと、同じく哲学者のマックス・ベンゼの対立がありました。ヨーゼフ・ボイスは「社会彫刻」を主張して、アートを通じて現代思想を立ち上げるといったスタンス。一方マックス・ベンゼは、美的な判断、アートとして何が優れているかは定量的に評価できるという主張をしていました。

アートは客観性を重視すべきで、誰でも同じ評価基準になるべきという考えと、それをよしとしない、そういったことをやってしまったらおしまいだよね、という主張。どちらも理解できます。美術史を通して知ることができた、歴史上繰り返されてきた「ゆらぎ」は非常に興味深いです。

現在においても、現代アートは社会的な主張や高度な文化批評、言語的なレトリックが大事にされていますが、わたしはそこにはなかなか立ち入りづらく、主観的な評価に疑問を感じる部分もあります。それよりも、数学的な特性のように、客観性やある程度の普遍性を証明できるというもの。美しさのなかに、アルゴリズムのような再現性や共有可能な根拠と審美があるもの。そういうものに強く心を引かれていて、その先に可能性を見出していきたいと考えています。

(Edit by Erina Anscomb)

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