公開日時 2025年02月07日 05:00

寄稿 「やんばるの芸能」を観て 大野 順美 地元の誇り伝わる舞台
渡久地伝統芸能保存会による組踊「高山敵討」の一場面=1月19日、浦添市の国立劇場おきなわ(同劇場提供)

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琉球新報朝刊

 国立劇場おきなわが毎年1回開催する民俗芸能公演。本年度は「やんばるの芸能」が1月19日に行われた。昨年沖縄本島北部は甚大な豪雨被害を受け、本公演の出演も一時危ぶまれたようだが、予定通り開催が決まり、応援の気持ちも込めて鑑賞した観客も多かったことだろう。
 幕開けは今帰仁村湧川の「路次楽」。ガクーとよばれるツオナ(チャルメラ)の主旋律と鼓のリズムだけというシンプルな音色だが、形が変われど、琉球王朝時代に王府で演奏されていた音楽が約80キロメートル離れたやんばるで長い年月を経て現代にも受け継がれていると思うと感慨深い。
 東村有銘の「女手踊り」は瓦屋節・干瀬節・述懐節という名曲ぞろいで聴くも美しく、また女性2人が向き合って踊るのが特徴的であった。名護市数久田の「打ち組みかなよー」は男性2人と女性2人の打ち組み踊りだが、雑踊「加那よー天川」とは似て非なる隊列の組み方が近代的で非常に興味深かった。
 後半は本部町渡久地の組踊「高山敵討」である。同演目は他地域でも伝承・上演されているが、渡久地の台本は沖縄戦で焼失したため名護市数久田より譲り受けたとのこと。他台本と特徴的な相違点の一つは、乳母が若君と息子を連れて敵から逃げる場面で「雪霜や降ゆい歩で歩まらぬ」と語るせりふであった。この1行は與那覇政牛本(沖縄県史所収)や田井等・親川の台本(名護市史所収)にもない。これらの台本で雪霜の描写が出て来るのは、母に捨てられた息子が敵に発見された時である。この詞章が追加された理由は不明だが、2人の幼子を連れて雪の山道を逃げまどうさまを想像すると一層つらさが増すように見え、小さな違いでも作品の味わいが変わるように感じられた。
 どの演目も出演者はプロではない地元の方々だが、せりふや演技・演奏・舞踊どの面から見てもレベルが高く、終演後の客席は満足感に包まれ沸いていた。伝承の大切さを胸に日ごろから鍛錬を怠らない意気込みと、地元の誇りがうかがえた舞台であった。(ステージサポート沖縄代表)

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