雪の花 ともに在りて 松坂桃李だからこそ出来上がった1本 歴史の教科書に載っていない偉人の物語。

雪の花 ともに在りて

監督/小泉 堯史(こいずみ たかし
黒澤明を師匠とする名監督の一人。
「雨あがる(00)」
「博士の愛した数式(06)」
「峠 最後のサムライ(22)」

出演/
松坂桃李
芳根京子
三浦貴大
益岡徹
吉岡秀隆
役所広司

まさに実力派の俳優が多数出演しており、重厚感あふれる演技が続く。
役所広司と松坂桃李は5回目の共演ということもあるが、2人の熱演により見ている側は自然とこの映画の世界に引き寄せられる。

個人的に教科書には載っていないけども偉業を果たした方の映画作品は好きなので、かなり気持ちが偏ってるかもですいません

物語(公式HPより)
江戸時代末期。死に至る病として恐れられていた疱瘡(ほうそう/天然痘)が猛威を振るい、多くの人命を奪っていた。福井藩の町医者で漢方医の笠原良策(かさはら りょうさく/松坂桃李)は、患者を救いたくとも何もすることができない自分に無力感を抱いていた。自らを責め、落ち込む良策を、妻の千穂(芳根京子)は明るく励まし続ける。
どうにかして人々を救う方法を見つけようとする良策は、京都の蘭方医・日野鼎哉(役所広司)の教えを請うことに。鼎哉の塾で疱瘡の治療法を探し求めていたある日、異国では種痘(予防接種)という方法があると知るが、そのためには「種痘の苗」を海外から取り寄せる必要があり、幕府の許可も必要。実現は極めて困難だが、絶対に諦めない良策の志はやがて、藩、そして幕府をも巻き込んでいく─。

今の時代では絶滅したとも言える天然痘ではあるが、江戸時代は治療方法がない病気として恐れられていた。
その怖さを表す冒頭から松坂桃李が持つ演技が光っている。

医者でありながら発症者の隔離措置しかできない事実を恨み、自身のもつ知識。漢方医療では救えない現実に悔しさをにじませる部分から、京都での光明を見つけるに至るまでの、喜怒哀楽の一つ一つがスクリーンから伝わってくる。

しかも今回の撮影監督の上田 正治(うえだ しょうじ)さんが、比較的遠景で撮影をするため、顔の表情などだけでは演技が伝わりにくいのだが、遠景であっても松坂桃李の声による喜怒哀楽の演技により、笠原 良策(かさはら りょうさく)の人となりを表現している。

前半の蘭学(オランダから伝わった医学)。解体新書などの話を聞いても、漢方一辺倒だった笠原良策が思い直し、素直に頭を下げるうシーンにいたる数秒でも
信じていた漢方の絶対性を揺るがす不安の表情
から
人々を救うため固定観念を捨て、教えを請う前を向く表情
では明確に演技が違う。
前半は怒りと困惑が交わったこわばった雰囲気だったのにたいして
頭を下げるシーンでは、本気で詫びをいれ敬う雰囲気があふれてでていた。

また子どもたちを見る目はとにかく優しく、声も暖かさに溢れている。その一方で怒りを爆発させたときの声には、怒気がしっかりと含まれている。
それは唯一のアクションシーンでも明確に見て取れる。

そのシーンに至るまで、どこまでも優しく、福井藩の子どもたちの未来のために疱瘡(ほうそう)の予防接種に尽力していた彼が、本気の怒りを見せる。

その際の撮影はアクション。ある意味殺陣シーンであるがゆえに体全体が映り込むロングショット。
しかも夜のため顔は明確に見えない…が、彼が本気怒っていることがビシビシとスクリーンを通して伝わってくる。
表情だけでは伝わりにくいシーンであるが江戸時代なので現代的なアクションや身振り手振りをするわけにもいかない。
ただただ、怒っていることを声で伝える演技をするのだが、大声で叫ぶだけではなく、怖いほどの怒気をはらんだ台詞回しで相手と観ている側を圧倒するシーンだ。

声だけでここまで感情が直接的に伝わってくる演技力は素晴らしかった。

子どもたちの未来のために…という、笠原良策の熱量は、実際に子どもが生まれ接しているからこそ厚みのました演技につながっているのかもしれない。

そして師匠、先生である日野 鼎哉(ひの ていさい)を演じた役所広司。
風貌からして、令和の赤ひげ先生ともいうべきイメージで笠原良策を未来へと導く存在を見事に演じている。
もう役所広司に関しては言うことがない
ただただ、医者としての本懐と
「名を求めず、利を求めず」
という名言を笠原良策と観ている観客に伝えてくれる。

「名を求めず、利を求めず」
という言葉の本当の意味をすべての人はしかと受け止めるべき言葉だとも言える。

妻の千穂を演じた芳根京子も良かった
どこまでも夫を信じ、支え続ける姿は、古き良き姿かもしれないが、
彼女がとても強い女性であることを観せてくれる。その強さの本質は今を生きる女性にもつながっている可のような立ち振舞いを観せてくれる。

多かれ少なかれフィクション要素は入っているにしても、
笠原良策が福井藩の人々を種痘で救ったことは事実であり、歴史の教科書では知ることがなかった先人の偉大なる思いと行動を知る

それだけでもこの映画は大きな意味を持ち、多くの人に観てもらいたくなる作品である。
まさに作り上げた木下グループと松竹。そして小泉 堯史(こいずみ たかし)監督に拍手を送りたくなる作品です。

最後に、この作品の撮影をされた上田 正治(うえだ しょうじ)さんが 25年1月16日に亡くなったそうです。

黒澤明監督の「乱」で撮影を担当された方で、
「影武者(80)」「夢(90)」「八月の狂詩曲/ラプソディ(91)」など黒澤明作品をはじめ
「雨あがる(00)」「阿弥陀堂だより(02)」
「蜩ノ記(ひぐらしのき/14)」「峠 最後のサムライ(20)」
など近年の日本映画における時代劇作品の数々を担当された方でした

謹んでお悔やみ申し上げます

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